ファイナンスのために基礎から
を基に確率過程を学んでいきます。
前回
4. 離散モデルのデリバティブ価格理論II
4.1 2項T期間モデルのデリバティブの価格理論
現時点における資産価値が
である原資産が
で
に上昇するか、
に下落するものと仮定する。これを統一的に表現すべく、確率変数
を導入し、
と表すものとする。これを
期間繰り返すことを想定し
を導入して、
時点での株価
を
とする。更に時点における価格が
と書ける安全資産の存在も仮定する。
4.1.2 同値マルチンゲール測度Qの存在とその一意性
割引株価過程をで定義する。この
が
に関するマルチンゲールとなるような確率測度
を求める。
の下での期待値を
と表すと、
を満たさなければならず、が成り立つ。すなわち任意の
に対して
として
が成り立つ。したがって
が得られ、すなわち
が得られる。こうして得られたをリスク中立上昇確率、
をリスク中立下降確率と呼ぶ。このような
は構成法から一意的である。
4.1.3 デリバティブの価格決定と複製ポートフォリオ
満期のデリバティブのペイオフを
とすれば、
におけるデリバティブの価格は
で与えられる。実際、
とする。は
に関して
の下でマルチンゲールになるから、非対称ランダムウォークに関するマルチンゲール表現定理から、最右辺の
の係数は
に依存しないから、
を代入して整理することで、
が成り立つ。またも
の下でマルチンゲールであるから、
が成り立つ。したがって
とおけば、
と書き換えることができる。これをから
までを辺々足し合わせることで
となる。初期資産と右辺の原資産から構成される複製ポートフォリオでデリバティブを複製できるため、デリバティブの価格は
が得られる。複製の方法は両辺を
倍することで
と書け、それぞれの式は
デリバティブのペイオフ | ||
初期資金 |
||
時点 |
||
時点 |
||
時点 |
と解釈できる。
4.2 離散から連続で
時間の幅を小さくし連続モデルに近づけることを考える。まず時刻から時刻
までを
等分して
とおき、
とする。時刻
における株価を
時刻
における株価を
とモデル化する。このとき満期における株価は
で表される。他方で時刻における安全資産価格を
とモデル化する。このとき満期時のペイオフが
と表されるデリバティブの現在価値は同値マルチンゲール測度
の下での割引ペイオフの期待値として
で与えられる。ここで
であるから、
を得る。
とすれば、
であり、また
である。更に
である。
そして上で求めた期待値および分散を踏まえて
である。したがって
が得られる。以上から、
が成立する。
これをヨーロピアン・コール・オプションに適用する。満期までの時間のコールオプションの現在価値を
とすると、
が成り立つ。実際、
とおけば、として
が得られる。
*1:途中で資金を引き揚げたり追加投入しないこと。