ファイナンスのために基礎から
を基に確率過程を学んでいきます。
前回
3. ランダムウォークとマルチンゲール
3.1 ランダムウォークー対称ランダムウォークと非対称ランダムウォークー
時間パラメータにより添字付けされた確率変数を確率過程という。その最も基本的なものがランダムウォークである。確率で、確率でを取る確率変数を考えるとき、を1次元対称ランダムウォークという。もし一方の確率をとしたときを1次元非対称ランダムウォークという。
3.2 条件付き期待値
定義3.1 条件付き期待値(離散) 事象の下でのの条件付き期待値を
で定義する。ここで
とする。
またとしたとき、
と定義する。
定理3.1 条件付き期待値の性質 を離散確率変数とする。このとき以下が成り立つ。
- 任意の実数について
- 任意の関数について
- 任意の関数について
- が独立ならば
- とすれば、
であるから、とおくことでが得られる。
また任意の関数について
さらに4つ目は条件付き確率を用いた独立の定義から
である。最後に5つ目は
である。 )
定理3.2 最良予測値としての条件付き期待値 確率変数に対して
を最小にする関数はである。
である。ここで
が成り立つから、
であり、第1項はに関係が無いため、第2項のみを考えればよく、最小になるのはのときである。 )
( 条件付き期待値を定義通りに計算することで、
が得られる。これと同様のことを帰納的に行うことで2つ目の命題も同様に示すことができる。 )
定義3.2 連続確率変数の条件付き期待値 を2次元連続確率変数の同時密度関数、をの周辺密度関数とする。このとき
をそれぞれの下でのの条件付き密度関数および条件付き期待値と呼ぶ。またこれを基に条件付き期待値においてと置き換えたものとしてを定義する。
例:
について、を計算する。
について
であることに注意すれば、
である。
またであり、
を代入することで
である。
最後にである。
3.3 ランダムウォークとマルチンゲール
公平な賭けの抽象化で確率論において重要な概念としてマルチンゲールがある。
例1:
について、と定義する。このとき定理3.3に注意すれば、
例2:
を求める。である。
3.4 ランダムウォークに関するマルチンゲール表現定理
( 仮定からとおくと、が成り立つから、任意のに対して
である。したがってが成り立つ。
ここで
が成立するから、これはに依存しない。そこでとおけば、
が得られ、したがって
である。 )
まずはマルチンゲールの定義から、
より、であり
が成り立てば、マルチンゲールを満たす。
またそのときが成り立つから、求める戦略は
である。
さて今後の議論をすべく、をランダムウォークで表すことにする。
である。これらをランダムウォークに関する離散確率積分という。
( とおくとしたがって、任意のおよびに対して
が成り立つ。すると
である。のとき、最初の条件式より
であり、この分子は
と変形できる。したがってこの変形結果を代入することで
とはに依らずに同じ値を取るから、この値をとすればよい。 )
3.5 離散伊藤公式
ランダムウォークの場合でも伊藤の公式が存在する。これは連続時間の確率解析を直観的に理解するのに役立つ。
( それぞれについて、が成り立つ。 )
この定理を用いることで、-分解を与えることができる。すなわち一般に離散確率過程があったとき
とマルチンゲールおよび可予測過程の和に分解できる。
実際、について、
と定義すると、は可予測過程であり、更にについてと定義すると、であり、でについて
が成り立ち、これはがマルチンゲールであることに他ならない。
またこの分解は一意的である。実際、ある確率過程がマルチンゲールおよび可予測過程を用いて
と分解できると仮定する。このときが成り立ち、
となるから、と分解は一意である。
特にの場合、離散伊藤公式から-分解は
と得られる。
1次元非対称ランダムウォークについても同様に離散伊藤公式を用いることができ、また-分解を得ることもできる。