古典的名著
を基に「コンピュテーショナル・ファイナンス」を学んでいきます。
2. ツリーモデルによるオプションの評価
ツリーモデルを用いたデリバティブ評価の理論的背景と具体的なアルゴリズムを紹介する。
2.2 多期間2項モデル
多期間におけるの決定方法を考える。
は2項モデルにおける通貨の挙動がリスク中立的な状況下において連続時間の通貨変動過程と整合的になるように決定される必要がある。
リスク中立的な状況下において通貨変動プロセスが
で与えられているとする。
このとき伊藤の公式より
が成り立つ。このときである。
2項モデルにおいて時点における通貨価値を
とすれば、
である。時点では
が成り立つ。したがっては
が成り立たなければならない。ただしである。
またとなるように
を定めることが多いため、
とおく。
以上の条件を整理すれば
(a)に(c)を代入することで
(b)に(c)を代入することで
ここに(a)を代入すれば
であるが、より
であることに注意すれば
である。
このとき
2.3 連続形への拡張
この多期間2項モデルはとすればBlack-Scholesモデルに類似した連続型モデルに帰着可能である。満期までの期間を
とし、これを
機関に分割した2項モデルの極限を考えることで連続型モデルを導出する。
ヨーロピアン・コール・オプションのリスク中立化法による評価では満期時点におけるペイオフのリスク中立確率による期待値を国内のリスクフリーレートにより現在価値に割り引く。
ある1つのノードについて原資産のリスク中立な上昇確率は
であり、ある1本のパスが満期までに
回だけ上昇し
回下落したとするならば、その確率は
であり、原資産価格は
になる。そして原資産がこの値を取るパスの数は
であるから、満期において原資産価格が
であるような確率は
である。
満期時点におけるペイオフの期待値は、上記確率にペイオフを掛けた上ですべての
について合計したものであるから、コール・オプション価値はこれを
で割り引いた価値、すなわち
である。
ここでオプションがインザマネーになるような最小の上昇回数をとおくと、それは
を満たすような最小の整数
である。したがって
このときであることを踏まえると、
が成り立つ。
第1項の括弧部分は負の二項分布(
)であり、第2項の括弧部分もまた負の二項分布
である。これを用いて書き換えると、
を通貨の価値、
を権利行使価格、
をそれぞれ通貨のボラティリティ、国内金利、外国金利、オプションの満期までの期間とすれば、同通貨を原資産とするコール・オプションの価値
は以下で与えられる:
ただしであり、
は負の二項分布である。
さてとして連続型の評価式を導出する。
まずこのモデルの満期時点における通貨変動の平均および分散が連続モデルにおける平均および分散に一致することを確認する。
である。したがって
が成り立つ。
ここでとおけば
が成り立つ。
これらの結果から
が得られ、平均は常に連続モデルと一致しており
次に二項分布に関する中心極限定理である、de Moivre-Laplaceの定理を用いて
が成り立つことを用いることとする。
まず
の第1項にde Moivre-Lapaceの定理を用いる。
が成り立つため、
である。いま、であるから
が成り立つ。したがってde Moivre-Laplaceの定理から、のとき
同様にして
以上から連続モデルを導出する。
2.4 2項モデルの安定性
精度および計算負荷を考慮すると、ただ大きくするのではなく適当なを取る必要がある。その取り方を考える。
確率に関する性質から
である。これを整理することで
であるが、を代入すれば、
が成り立つ。
更に分散
が非負でなくてはならないから、
以上から、を用いる場合、
でなければならない。