証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である
を参考に学んでいく。
7. 確率解析の基礎
時間が連続的に推移する投資決定問題に必要な確率解析の基礎を扱う。
7.4 指数ブラウン運動とマルチンゲール
を確率空間とし、
を
の部分
-加法族とする。確率過程
が以下の条件
を満たすとき、はマルチンゲール(
)であるという。
もし離散時間を考えるならば、条件は以下で書き換えられる:
確率過程がマルチンゲールならば
が成り立つ。
例1:
な確率変数とマルチンゲール
が平均
で独立な確率変数であるならば、その部分和
はマルチンゲールである。なぜならば
とマルチンゲールの性質を満たすからである。
もし(2)式が
のそれぞれに置き換えられるとき、各々を劣マルチンゲール、優マルチンゲールという。
例2:
な確率変数と劣マルチンゲール
が平均
で独立かつ有限な分散をもつ確率変数であるならば、その部分和の二乗
は劣マルチンゲールである。なぜならば
と劣マルチンゲールの性質を満たすからである。
と平均二乗収束する。
7.4.1 指数マルチンゲール
運動
と実数
について
で定義される確率過程を指数運動という。
指数運動について以下が成り立つ:
指数
- 性質1:
- 性質2:
は
である。
- 性質3:
- 性質4:
は
である。
- 性質5:
は
を満たすような確率測度
の下で
である。
- 性質6:
は
を満たすような確率測度
の下で
である。
- 性質7:
は確率測度
の下で
運動である。
- 性質1:
に対して
であるが、最右辺の積分は正規分布の密度関数の積分であるから、
である。
- 性質2:
に対して
である。性質1よりであるから、
を得る。
- 性質3:
とおけば
- 性質4:
ここで性質3より
を得る。
- 性質5:
に対して
- 性質6:
に対して
に対して
を得る。
- 性質7:
確率測度に関する期待値を
で表すと、
として
を得る。は
の下で平均
分散
の正規分布に従う。
)
7.4.2 マルチンゲールとファイナンス
前節で示した指数運動の性質がリスク証券の評価にどのように使用されるかを無リスク証券による割引について説明する。リスク証券の価格
が幾何
運動
に従うとすれば、とおいて伊藤の微分則
を適用すれば、に注意して
であるから
を得る。無リスク資産の価格が
に従うとすれば、リスク証券の割引価格は
であるから
である。ここでとおき、
とおけば
を得る。とおけば、
は性質5より、
の下で
となる。この
をリスク中立確率という。
このとき
であるから、を
で表現すれば
を得る。リスク資産単位および無リスク資産
単位からなるポートフォリオ
についても、
とおけば
を得る。したがっては
の下で
である。すなわち
が成り立つ。
任意抽出定理 確率過程
である。
任意抽出定理を用いるとアメリカン・コール・オプションについて有用な結果を得られる。が幾何
運動に従うと仮定すれば、確率過程
は劣
である。すなわち
に対して
が成り立つ。とすれば
は
に関する凸関数であるから、
の不等式より、
もまた劣
である。したがってアメリカン・コール・オプションの価格
は任意抽出定理より
を得、これはヨーロピアン・コール・オプションの価格付けに帰着できる。