ファイナンスのために基礎から
を基に確率過程を学んでいきます。
1. デリバティブとは
1.1 デリバティブ
デリバティブは金融派生商品と訳され、元になる金融商品(原資産と呼ぶ)から新しく作られた金融商品である。原資産はさまざまな金融商品(ないし契約内で客観的に参照し得るもの(指標))を選べる。デリバティブはプレーンバニラと呼ばれる基本的なものとエキゾチックと呼ばれる複雑に加工されたものに分類できる。また先物取引やオプションがデリバティブに含まれる。
1.1.1 先物取引
先物取引は原資産を予め定めた受渡価格で満期時に売買することを決める契約である。契約時に金銭の授受が生じないように受渡価格は決められる。そのため先物買いも先物売りはいずれも現在価値はである。したがって先物のペイオフ*1は、
を満たす。また同じ先物の買い・売りの損益は完全に反対となり、合算すれば常にになる。以上から、受渡価格のペイオフは
を満たす。
他方で先物取引は以下の特徴を持つ:
1.1.2 オプション
オプションは原資産を予め定めた受渡価格で満期時に売買する権利を売買する契約である。買う権利を付与するオプションをコール・オプション、売る権利を付与するオプションをプット・オプションである。オプションの詳細は以下を参照:
1.2 利子率と現在価値割引
1年間の利子率(年利率)をとすれば、単位通貨分をその率で運用するとになる。複利であればその年数乗しただけに増やすことができる。
2. 離散モデルのデリバティブ価格理論I
2.1 2項1期間モデル
市場に原資産と安全資産しか存在せず、これらの資産価格の観測時点としての2時点しかないと考える。さらに原資産はにおいて2通りの値しか取り得ないと仮定する。このようなモデルを2項1期間モデルという。
これらの2資産のポートフォリオで行使価格のコールオプション単位を複製することを考え、原資産を安全資産をだけ保有するとすれば、時点におけるペイオフは、での原資産価格をとすれば、
である。と仮定すれば、
であるから、
が得られる。無裁定性から、このモデルにおけるこのコールオプションの価格は
で与えられる。
2.2 リスク中立確率
2項1期間モデルを改めて以下のように設定する。
さらに無裁定条件としてと仮定する。原資産を単位、安全資産単位のポートフォリオで複製するとすれば、
が成り立つ。これをについて解くことで
が成り立つ。無裁定性からコールオプションの価格は
である。ここでとおけばであるから、このは確率と見なすことができ、
が成り立つ。このをリスク中立確率と呼ぶ。すなわちコールオプションの現在価値は、コールオプションのペイオフのリスク中立確率測度での期待値を取り、それを現在価値にで割り引いたものに他ならない。
2.3 Black-Scholes偏差分方程式、偏微分方程式
例
- 時刻における株価は時刻でになるとする。また時刻における安全資産は時刻でになるとする。満期時においてペイオフがであるようなデリバティブの時刻における価格をとするとき、時刻においてデリバティブ単位および株式単位で組むポートフォリオが安全資産の複製になるようなを求め、さらにおよびの関係式を求めよ。
- 次に前問でスケール変換を行い単位時間をからに変換し、併せてををに変換してにすることで偏微分方程式を導出せよ。更に受渡価格がであるような先物買いのにおける価格が関数を用いて(境界条件)とおけるとしてこれを求めよ。
まず時刻においてデリバティブ単位および株式単位で組むポートフォリオについて、安全資産を複製しているのであれば、において
が成り立つから、
が得られる。
またこのポートフォリオが安全資産を複製していることから、が成り立ち、ここにを代入することで
である。さらに
を得る。
次にと変換すると、と変換されることを踏まえると、
である。
ここでとすれば、により得られる
を踏まえれば、
が得られる。このとき境界条件はである。
最後に先物買いの時点価格は、を上式に代入すればよい。より、に注意して
を得る。したがってである。