「大人の教養・知識・気付き」を伸ばすブログ

一流の大人(ビジネスマン、政治家、リーダー…)として知っておきたい、教養・社会動向を意外なところから取り上げ学ぶことで“気付く力”を伸ばすブログです。目下、データ分析・語学に力点を置いています。今月(2022年10月)からは多忙につき、日々の投稿数を減らします。

MENU

年金資産運用(その02/X)

 中長期における資産運用の考え方を学ぶべく、

を整理していく*1

3. ポートフォリオ理論

 年金運用でも最も頻用されている\mathrm{Markowitz}の平均・分散モデルを中心に、パッシブ運用や市場ポートフォリオ対比のパフォーマンス評価の理論的根拠の1つとされる\mathrm{Sharpe}-\mathrm{Lintner}\mathrm{CAPM}、そして運用実務に深く浸透しつつあるマルチ・ファクター・モデルなどの基礎を考える。

3.1 平均・分散モデル

3.1.1 期待リターン・リスク

 現時点t=0における証券価格をS_0t=t\gt0時点後の価格をS_tt=t受け取る配当額をD_t\geq0*2とおく。このときt=0においてはS_t,D_tが確率変数であることに注意すれば、1期間(t=0からt=tまで)の事前予想リターンr_tは、確率変数であることを強調すべく以降は確率変数に\tilde{}を追加することとして、



\begin{aligned}
\tilde{R}_t=\displaystyle{\frac{\tilde{S}_t-S_0+D_t}{S_0}}
\end{aligned}


と表される*3
 同じ水準の期待リターンが得られるとしても、その散らばり具合が相違する可能性もあるため、標準偏差をリスクと見なす。また予想リターンが正規分布に従うと仮定する。


 ポートフォリオの期待リターンを\mu_Pとおけば、これは個別証券の期待リターンのウェイトによる加重平均に等しい。ポートフォリオを構成する銘柄を2つと考えてそれぞれをA,Bとし、それらの期待リターンおよびリスクをそれぞれ\mu_A,\mu_B,\sigma_A,\sigma_Bとおく。またこのポートフォリオをロング・ポートフォリオとしA保有ウェイトを0\leq\omega_A\leq1とおけば、



\begin{aligned}
\mu_P&=\omega_A\mu_A+(1-\omega_A)\mu_B,\\
\sigma_P&=\sqrt{\displaystyle{\omega_A^2\sigma_A^2+(1-\omega_A)^2\sigma_B^2+2\omega_A(1-\omega_A)\rho\sigma_A\sigma_B}}
\end{aligned}


で与えられる。ここで\rhoは両リターンの相関係数である。

3.1.2 効率的フロンティアと最適ポートフォリオ

 複数のポートフォリオの期待リターンおよびリスクが所与であるとき、どのポートフォリオを選択するかは個々の投資家が有するリスクに対する態度により定まる。以下のような選択基準を有する投資家をリスク回避的という。

   (1) 期待リターンが一定であるならば、リスクはより小さい方が望ましい。
   (2) リスクが一定ならば、期待リターンはより大きい方が望ましい。


 n個の証券で構成されるポートフォリオを考え、第i証券の期待リターン、リスクおよび投資ウェイトを\mu_i,\sigma_i,\omega_i、第j証券のリターンとの相関係数
\rho_{ij}とすれば、ポートフォリオの期待リターンおよびリスクは



\begin{aligned}
\mu_P&=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\mu_i},\\
\sigma&=\sqrt{\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}\omega_i\omega_j\rho_{ij}\sigma_i\sigma_j}},\\
\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i}&=1
\end{aligned}


で与えられる。証券の空売りを認めないのであれば、\omega_i\geq0を追加する。
 期待リターンおよびリスクがリスク-リターン平面で取り得る範囲(集合)のうち、リスク回避的な投資家が選択し得るものを集めたすべての曲線を効率的フロンティアといい。効率的フロンティア上のポートフォリオを効率的ポートフォリオという。

 効率的ポートフォリオは、リスク回避的な投資家が期待リターンおよびリスクから得られる1期間後の期待効用



\begin{aligned}
E\left[U\left(\tilde{R}\right)\right]=\mu_P-\displaystyle{\frac{2}{\lambda}\sigma_P^2}
\end{aligned}


を最大化するポートフォリオを選択することでも得られる。ここでパラメータ\lambdaをリスク回避度といい、リスクが効用に与える影響を制御する。

3.2 資本資産評価モデル ―CAPM

3.2.1 無リスク資産を導入した場合のポートフォリオ選択

 \mathrm{Markowitz}の平均・分散モデルにおける投資対象はリスク資産が主な対象であるが、無リスク資産を導入すると、効率的フロンティアは無リスク資産のリターンであるリスクフリーレートR_fからリスク資産のみの場合の効率的フロンティアへ引いた接線(接点ポートフォリオ)が効率的フロンティアになる。
 投資家の最適ポートフォリオはリスク資産のみの場合と同様に、効率無差別曲線と効率的フロンティアとの接点になる。効率フロンティア上での最適ポートフォリオの位置はリスク回避度に依存する。
 無リスク資産を投資対象に含めた場合、

が成り立つ。このように最適なリスク証券ポートフォリオ決定の問題と無リスク資産とリスク証券の投資ウェイト決定の問題が2段階に分離できるという命題を\mathrm{Torbin}の分離定理と呼ぶ。

3.2.2 Sharpe-Lintner型資本資産評価モデル

 個々の投資家の最適ポートフォリオ決定問題を証券市場における均衡価格決定に拡張させたのが資本資産評価モデル(\mathrm{CAPM})である。\mathrm{CAPM}

  仮定1 証券市場は完全市場である。

 ・すべての投資家は自身の売買で証券価格に影響を及ぼさない。

 ・すべての証券は完全に分割可能で、完全な流動性を有する。

 ・取引コストは無い。
  仮定2 リスク証券は無制限に空売り可能である。
  仮定3 無リスク資産はリスクフリーレートで無制限に借入可能である。
  仮定4 すべての投資家は証券リターンの平均、標準偏差および

共分散について同一の予想を有している。
  仮定5 全投資家はリスク回避的で、1期間後の期待効用最大化を

目的とする。最適ポートフォリオ選択は期待リターン・

リスクの2つのみに基づき行う。

を仮定する。
 これら5つの仮定から、全投資家に共通する効率的フロンティアが得られる。



効率的ポートフォリオの期待リターンおよびリスク、リスクフリーレートならびに市場ポートフォリオの期待リターンおよびリスクには以下が成り立つ。


\begin{aligned}
\mu_P=r_F+\left[\displaystyle{\frac{\mu_M-r_F}{\sigma_M}}\right]\sigma_P
\end{aligned}

この傾き\displaystyle{\frac{\mu_M-r_F}{\sigma_M}}リスクの市場価格、切片r_F時間の市場価格と呼ばれる。

3.2.3 証券市場線

 証券iの市場ポートフォリオに対するリスクの限界的寄与を表す\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}[R_i,R_M]}{\sigma_M}}をリスク尺度として採用することで



\begin{aligned}
\mu_P=r_F+\left[\displaystyle{\frac{\mu_M-r_F}{\sigma_M}}\right]\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}[R_i,R_M]}{\sigma_M}}
\end{aligned}


を用いることにすれば、



\begin{aligned}
&\mu_P=r_F+\left[\displaystyle{\frac{\mu_M-r_F}{\sigma_M}}\right]\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}[R_i,R_M]}{\sigma_M}}\\
\Longleftrightarrow&\mu_P=r_F+\left(\mu_M-r_F\right)\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}[R_i,R_M]}{\sigma_M^2}}\\
\Longleftrightarrow&\mu_P=r_F+\beta_i(\mu_M-r_F),\beta=\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}[R_i,R_M]}{\sigma_M^2}}
\end{aligned}


が得られる。この\mu_P=r_F+\beta_i(\mu_M-r_F),\beta=\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}[R_i,R_M]}{\sigma_M^2}}\beta_iの関数と見たものを証券市場線と呼び、\beta_iをリスク尺度とした個別証券のハイリスク・ハイリターン関係を表している。

3.3 ファクター・モデル

3.3.1 マーケット・モデル

 1960年代半ばに\mathrm{Sharpe}が提案したマーケット・モデル(シングル・インデックス・モデル)は


\begin{aligned}
r_i&=\alpha_i+\beta_i r_M+\varepsilon_i\\
&=(\beta_i r_M)+(\alpha_i+\varepsilon_i)
\end{aligned}

で定義される。ここでr_iは証券iのリターン、r_Mは市場ポートフォリオのリターン、\alpha_iは証券iの固有リターンの期待値、\beta_iは証券iの市場に対する感応度および\varepsilon_iは証券iの固有リターンの誤差項である。
最右辺の第1項をシステマティック・リターン、第2項をアンシステマティックリターンと呼ぶ。前者は市場要因、後者は銘柄個別要因に対応する。
 誤差項\varepsilon_iの期待値を0、誤差項と市場リターンは無相関(\mathrm{Cov}(\varepsilon_i,r_M)=0)および異なる銘柄間の誤差項は無相関(\mathrm{Cov}(\varepsilon_i,\varepsilon_j)=0(i\neq j))だと仮定する。このとき


\begin{aligned}
\sigma_i^2&=V[r_i]=V[\alpha_i+\beta_i r_M+\varepsilon_i]\\
&=V[\beta_i r_M]+V[\varepsilon_i]\\
&=\beta_i^2V[r_M]+V[\varepsilon_i]\\
&=\beta_i^2\sigma_M^2+\sigma_{\varepsilon_i}^2
\end{aligned}

で計算できる。ここで\sigma_iは証券iのリスク、\sigma_Mは市場ポートフォリオのリスク、\sigma_{\varepsilon_i}^2は証券iの固有リスクである。最右辺第1項の\beta_i^2\sigma_M^2はシステマティック・リスク、第2項はアンシステマティック・リスクと呼ばれる。

3.3.2 銘柄分散効果

 ポートフォリオのトータル・リスクをマーケット・モデルを用いて分解してみる。n銘柄に等ウェイト(\omega_i=\displaystyle{\frac{1}{n}})で投資するポートフォリオPのリスク\sigma_Pを考えると、



\begin{aligned}
\sigma_P^2&=V\left[\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_ir_i}\right]\\
&=V\left[\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\left(\alpha_i+\beta_i r_M+\varepsilon_i\right)}\right]\\
&=V\left[\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i r_M}\right]+V\left[\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\varepsilon_i}\right]+\mathrm{Cov}\left[\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i r_M},\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\varepsilon_i}\right]\\
&=\left(\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i}\right)^2V[r_M]+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i^2V\left[\varepsilon_i\right]}+\mathrm{Cov}\left[\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i r_M},\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\varepsilon_i}\right]\\
&=\left(\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i}\right)^2V[r_M]+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i^2V\left[\varepsilon_i\right]}\\
&=\beta_P^2\sigma_M^2+\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\frac{\sigma_{\varepsilon_i}^2}{n}},\beta_P=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i}
\end{aligned}


と表すことができる。最右辺第1項\beta_P^2\sigma_M^2をシステマティック・リスク、第2項\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\frac{\sigma_{\varepsilon_i}^2}{n}}をアンシステマティック・リスクという。n\rightarrow\inftyとすればアンシステマティック・リスクは0に収束する*4

3.3.3 マルチ・ファクター・モデル

 マルチ・ファクター・モデルは個別銘柄のリターンを複数の要因で説明するものである。マーケット・モデルではリスクの精度が充分でないことから提案された。ここでは特に\mathrm{Barra}型マルチ・ファクター・モデルを考える。\mathrm{Barra}型マルチ・ファクター・モデルは、先験的に選択した企業財務データや市場データ等をファクター*5とした「構造先決型」モデルで、個別銘柄の超過リターン\tilde{r}_ik個のファクターを用いて



\begin{aligned}
\tilde{r}_i=\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\lambda_{i,j}f_j}+\varepsilon_i
\end{aligned}


と表す。ここでr_iは証券iの超過リターン、\lambda_{i,j}は証券iのファクターjに対するエクスポージャーf_jはファクターjのファクター・リターン、\varepsilon_iは証券iのスペシフィック・リターンである。
 いまファクター・リターンとスペシフィック・リターンは無相関で異なる銘柄間のスペシフィック・リターンは無相関であると仮定する。このとき



\begin{aligned}
V[r_i]&=V\left[\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\lambda_{i,j}f_j}+\varepsilon_i\right]\\
&=\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\sum_{l=1}^{k}\lambda_{i,j}\lambda_{i,l}\mathrm{Cov}\left[f_j,f_l\right]}+V\left[\varepsilon_i\right]
\end{aligned}


が成り立つ。最右辺第1項をファクター・リスク、第2項をスペシフィック・リスクという。
 これをポートフォリオに応用する。n銘柄から成るポートフォリオを考え各証券iのウェイトを\omega_iとすれば、ポートフォリオのリターンr_Pについて


\begin{aligned}
r_P&=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i r_i}\\
&=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\left(\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\lambda_{i,j}f_j}+\varepsilon_i \right)}\\
&=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\left(\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\lambda_{i,j}f_j}\right)}+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\varepsilon_i}\\
&=\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\left(\sum_{i=1}^{n}\omega_i\lambda_{i,j}\right)f_j}+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\varepsilon_i}\\
\end{aligned}

と書け、さらに\lambda_{P,j}\equiv\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\lambda_{i,j}},\varepsilon_P=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\varepsilon_i}とおくことで、


\begin{aligned}
r_P=\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\lambda_{P,j}f_j}+\varepsilon_P\\
\end{aligned}

ポートフォリオも同様の書き下しができ、しかもウェイトと個別銘柄のエクスポージャーが既知であれば簡単な四則演算でそのエクスポージャーを算出できる。そしてポートフォリオのリスクは


\begin{aligned}
V\left[r_P\right]&=V\left[\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\lambda_{P,j}f_j}+\varepsilon_P\right]\\
&=\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\sum_{l=1}^{k}\lambda_{P,j}\lambda_{P,l}\mathrm{Cov}\left[f_j,f_l\right]}+V\left[\varepsilon_P\right]\\
&=\displaystyle{\sum_{j=1}^{k}\sum_{l=1}^{k}\lambda_{P,j}\lambda_{P,l}\mathrm{Cov}\left[f_j,f_l\right]}+\sigma_{\varepsilon_P}\\
\end{aligned}
[tex:
\begin{aligned}

と書ける。すなわち個別銘柄のエクスポージャーポートフォリオ内におけるウェイト、ファクター相関および個別銘柄のスペシフィック・リスクが分かっていればポートフォリオのリスクが計算できることを意味する。

*1:どうも最近の書籍でこれくらいしっかりと書いてある本が見当たらなかったので…

*2:t時点が配当が支払われる時点でない場合はD_t=0とする。

*3:分割等の移動は無いもの、もしくは考慮した後とする。

*4:もっともこれはすべての銘柄が等ウェイトとしていたことに注意しなければならない。

*5:厳密には企業財務データや市場データ等でエクスポージャーを計算し、ファクター・リターンを推定する。

プライバシーポリシー お問い合わせ