定量的なアクティブ運用の妙味を議論すべく、
とその続編
を整理していく*1。
2. コンセンサス期待リターン
2.11 数学的な補足
2.11.1 準備
まず以下のように変数を導入する。
リスク資産の保有ウェイト・ベクトル | |
期待超過リターン・ベクトル | |
の下における期待超過リターン・ベクトル | |
リスク資産の超過リターンの分散共分散行列(正則と仮定する) | |
想定する全資産のベータを成分とするベクトル | |
すべての成分がであるようなベクトル |
また超過リターンの標準偏差(年率換算)をリスクと呼ぶことにする。
2.11.2 仮定
その期間の間にポートフォリオのリバランスを行なわない1期間を考え、以下の仮定
無リスク資産が存在する。 | |
すべての超過リターンについて、一次・二次モーメントが存在する。 | |
無リスクですべてに投資するポートフォリオは構築できない。 | |
最小リスクですべてに投資するポートフォリオの期待超過リターンは正だとする。 |
をおく。
2.11.3 特性ポートフォリオ
資産はさまざまな属性を持つ。たとえばベータ、期待リターン、、時価総額や経済セクターへの所属などである。
特性ポートフォリオ()は、定義された属性を一意に捉える。特性ポートフォリオを構築する手順は、属性とポートフォリオを結びつけることを可能にする。そしてその特性ポートフォリオのそれとの共分散という意味での属性へのエクスポージャを特定できる。
この過程は可逆的と言える。すなわちポートフォリオから始めて、このポートフォリオを最も効果的に表現する属性を見出すのである。
ひとたび属性とポートフォリオの関係を構築することができれば、は、その特性ポートフォリオの超過リターンに関して経済的な動機付けのある説明が可能になる。
を資産の属性(特性)を表すベクトルだとする。
命題1:特性ポートフォリオ であるような任意の属性に対して、最小のリスクでへの単位エクスポージャを持つポートフォリオが一意に存在する。その特性ポートフォリオのウェイトは、
で与えられる。
特性ポートフォリオは、必ずしもすべてに投資する必要はない。またロング・ポジションとショート・ポジションから構成されること、特定のレバレッジが掛かっている可能性もある。
命題4:特性ポートフォリオ同士の共分散 命題1の特性ポートフォリオを所与とする。特性ポートフォリオそれぞれの属性を考え、をそれぞれのに対するエクスポージャおよびのに対するエクスポージャだとする。このときとの共分散は、
を満たす。
命題5:特性ポートフォリオ・エクスポージャの定数倍 命題1の特性ポートフォリオを所与として、に対して、の特性ポートフォリオは
で与えられる。すなわち、特性ポートフォリオは属性への単位エクスポージャを持つから、属性にを掛ければ、単位エクスポージャを維持するにはで特性ポートフォリオを除する必要があることになる。
命題6:特性ポートフォリオ・エクスポージャの線形結合 命題1の特性ポートフォリオを所与とする。特性は特性の線形結合として表されるならば、の特性ポートフォリオはの特性ポートフォリオの線形結合である。特にであるならば、
で与えられる。ここで
である。
( 定義した最適化問題を解くことによって、特性ポートフォリオの保有分を導き出す。ポートフォリオは、制約条件として特性へのエクスポージャーがであるという制約条件において最小リスクを取る。という条件の下でを最小化する1階条件は、
である。ここではラグランジュ係数である。2つ目の条件は、が比例定数をとしてに比例することを意味している。これを解くと、
であり、
である。
2つ目はポートフォリオの分散の定義と
から導くことができ、3つ目はポートフォリオに関してとするの定義を用いれば同様に導くことができる。
4つ目については、
および
を得る。これらの結果を用いて整理することで5つ目および6つ目を示すことができる。 )
ベータ・ポートフォリオ
が属性だと仮定する。ここでは何らかのベンチマーク・ポートフォリオにより
と定義する。このときベンチマークはベータの特性ポートフォリオ、すなわち
で、
である。したがってベンチマークはベータがであるような最小リスク・ポートフォリオである。これは直観的に分かる。すべてのであるようなポートフォリオは、同一のシステマティック・リスクを持つ。ベンチマークは残差リスクを全くとっていないから、全ポートフォリオの最良トータルリスクを持つ。
命題4を用いることで、ポートフォリオの関係性は
で与えられる。
シャープ・レシオ
任意のリスクのあるポートフォリオ()について、シャープ・レシオはポートフォリオの期待超過リターンをポートフォリオのリスクで割ることで得られる。すなわち
で定義される。
( 任意のポートフォリオについて、そのシャープ・レシオは
で与えられる。任意の正の定数に対して、保有量がであるようなポートフォリオは、に等しいシャープ・レシオを持つ。したがって、最大のシャープ・レシオを探せば、期待超過リターンはで最小リスクを持つと設定できる。そしてという制約条件の下でを最小化する。これはを持つ特性ポートフォリオを得る問題である。
2,3つ目は特性ポートフォリオの性質である。4つ目については、3.にを掛けてからで割ると、
すなわち
を得る。5つ目は、
を得る。 )
アルファをで定義する。をアルファに関する特性ポートフォリオ、すなわち100パーセントのアルファに関する最小リスクポートフォリオとする(こういったポートフォリオは普通、レバレッジを掛けることが多い。)。これはとで書くことができる。このときアルファとベータの関係性は、である。しかしであり、したがっては相関を持たないから、である。
多くの場合、期待超過リターンを説明する完全に投資したポートフォリオ*2が存在すると仮定するのが便利である。ポートフォリオの期待超過リターンが正であるときに意味がある。
命題8 アルファ・ポートフォリオ と仮定する。
を得る。ポートフォリオの保有量はの保有量に正の比例定数を掛けたものであり、シャープ・レシオや他のポートフォリオとの相関係数も同様である。
2つ目については、まずから始め、を用いる。これにより
を得る。これにを掛けることで、
である。3つ目については、
にを掛けることで
を得、したがって
である。
4つ目は、およびを用いれば、
である。これにを併せることで
を得る。 )
2.11.4 効率的フロンティア
2つの特性について完全に投資されたポートフォリオに注目する。すなわちポートフォリオおよびポートフォリオである。この観点では効率的フロンティアと呼ばれる分離可能なポートフォリオの集合を導入したい。ポートフォリオおよび自身もこの集合に含まれる。実際、これから見るように、効率フロンティア上の全ポートフォリオは、ポートフォリオおよびの線形結合であるから、効率的フロンティアの各元は特性ポートフォリオである。効率的フロンティアのポートフォリオはのリターンおよびリスクの特性はポートフォリオおよびのリターン・リスク特性でパラメータ化できる。
完全に投資されたポートフォリオが効率的であるとは、同じ期待リターンを持つすべてのポートフォリオが(同じ)最小リスクを持つことを言う。効率フロンティア上のポートフォリオは制約条件
の下で最小化問題を解けばよい。これにより、
を得る。ここでおよびはを仮定して求めている。したがって効率的フロンティア上のポートフォリオはおよびの線形結合で得られる。
ここで特性とポートフォリオが一対一で対応することを思い出そう。したがってを用いることで
である。ここから、効率的フロンティア上のポートフォリオの分散が
で得られる。