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長期投資の理論と実践(09/X)

 投資理論を以下の書籍

をベースに学ぶこととする。

6. ファクター・モデル

 \mathrm{CAPM}は市場均衡を満たす理論的帰結として得られる概念であって、各銘柄のリターンと市場ポートフォリオの関係を予め仮定していない。言い換えれば、\mathrm{CAPM}は各銘柄のリターンがどのような構造を持ち、どのような経済変数に左右されているかに一切の制約を課していない。株式リターンがどのような経済変数に依存して変動するか、その構造を明らかにするモデルを収益生成モデル(Return generating model)と呼ぶ。

6.3 市場モデルの応用

6.3.1 インデックスファンド

 市場モデルを応用して設計する株式投資信託に、株式市場全体の値動きを表すインデックスに投信の基準価額が連動するインデックスファンドがある。
 インデックスファンドはベータが1.0に設定されており、インデックスの値動きと等しい連動性を目指す。その連動性はトラッキングエラーないし決定係数R^2で計測する。
 いまn種類の銘柄からインデックスファンドを構築することを考える。各銘柄の収益生成過程が市場モデルで表現できるならば、



\begin{aligned}
\tilde{r}_i-r_f=\alpha_i+\beta_i(\tilde{r}_I-r_f)+\tilde{\varepsilon}_i,i\in\{1,2,\cdots,n\}
\end{aligned}


である。各銘柄への投資ウェイトを\omega_iとし、このファンドのリターンをr_P=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\tilde{r}_i}とおく。各銘柄のリターンにウェイトを掛けて合算したものは、



\begin{aligned}
&\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i(\tilde{r}_i-r_f)}=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\{\alpha_i+\beta_i(\tilde{r}_I-r_f)+\tilde{\varepsilon}_i\}}\\
\Longleftrightarrow&\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\tilde{r}_i}-\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i r_f}=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\alpha_i}+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i(\tilde{r}_I-r_f)}+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\tilde{\varepsilon}_i}\\
\Longleftrightarrow&\tilde{r}_P-r_f=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\alpha_i}+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i(\tilde{r}_I-r_f)}+\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\tilde{\varepsilon}_i}
\end{aligned}


であり、ポートフォリオのアルファ、ベータおよび誤差項をそれぞれ\alpha_P=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\alpha_i},\beta_P=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\beta_i},\tilde{\varepsilon}_P=\displaystyle{\sum_{i=1}^{n}\omega_i\tilde{\varepsilon}_i}とおけば、



\begin{aligned}
\tilde{r}_P-r_f=\alpha_P+\beta_P(\tilde{r}_I-r_f)+\tilde{\varepsilon}_P
\end{aligned}


と表され、やはり市場モデルで表現できる。
 いま\mu_P\equiv E[\tilde{r}_P],\mu_I\equiv E[\tilde{r}_I],\sigma_P^2=V[\tilde{r}_P],\sigma_I^2=V[\tilde{r}_I]および\sigma_{s,i}^2=V[\tilde{\varepsilon}_i]とおけば、インデックスファンドは「リスクが\sigma_P^2\approx\sigma_I^2かつ\beta_P=1で、そのリターンが\mu_P=\mu_Iであるような連動対象の株価指数の構成銘柄数よりも少数の銘柄で構成される株式ポートフォリオ」である。このとき



\begin{aligned}
\mu_P-r_f&=\alpha_P+\beta_P(\mu_I-r_f),\\
\sigma_P^2&=\beta_P^2\sigma_I^2+\displaystyle{\sum_{i=1}^n\omega_i^2\sigma_{s,i}^2}\\
&=\beta_P\sigma_I^2+\sigma_{\varepsilon,P}^2,\sigma_{\varepsilon,P}^2=\displaystyle{\sum_{i=1}^n\omega_i^2\sigma_{s,i}^2}
\end{aligned}


で表現できる。

6.3.2 エンハンスト・インデックスファンド

 インデックスファンドに類似するもののアクティブ運用の範疇に含まれるものに、エンハンスト・インデックスファンドがある。正のアルファを狙うもので、「リスクが\sigma_P^2\approx\sigma_I^2かつ\beta_P=1で、そのリターンが\mu_P\gt\mu_Iであることを目指すような連動対象の株価指数の構成銘柄数よりも少数の銘柄で構成される株式ポートフォリオ

6.4 マルチ・ファクター・モデル

 各銘柄に共通に連動する複数のリスク・ファクターが存在するとした



\begin{aligned}
\tilde{r}_i&=a_i+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}\tilde{f}_k}+\tilde{\varepsilon}_i,i\in\{1,2,\cdots,n\},\\
E[\tilde{\varepsilon}_i]&=0,\\
\mathrm{Cov}[\tilde{f}_k,\tilde{\varepsilon}_i]&=0,\\
\mathrm{Cov}[\tilde{\varepsilon}_i,\tilde{\varepsilon}_j]&=0,i\neq j,\in\{1,\cdots,n\}i,j\in\{1,2,\cdots,K\}
\end{aligned}


k変量マルチ・ファクター・モデルという。\tilde{f}_kをリスク・ファクター、共通因子と呼ぶ。
 リスク・ファクターはさまざまな経済変数で、正ないし負の期待値を持ち、互いに相関を持つと考えるのが普通である。b_{i,k}は銘柄iの属性(Attribute)を特徴づけるパラメータであり、ファクター・ローディング、感応度、ファクター・エクスポージャー、ファクター・ベータなどと呼ぶ。
 標準的なマルチ・ファクターモデルでは、期待値が0になるようにファクターを調整する、すなわち



\begin{aligned}
\tilde{F}_k=\tilde{f}_k-E[\tilde{f}_k],k=1,2,\cdots,K
\end{aligned}


とし、これを代入すれば、



\begin{aligned}
\tilde{r}_i&=a_i+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}(\tilde{F}_k+E[\tilde{f}_k])}+\tilde{\varepsilon}_i\\
&=a_i+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}E[\tilde{f}_k]}+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}\tilde{F}_k}+\tilde{\varepsilon}_i
\end{aligned}


で、両辺の期待値を求めるとE[\tilde{r}_i]=a_i+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}E[\tilde{f}_k]}が成り立つから、これを\mu_iとおけば、



\begin{aligned}
\tilde{r}_i=\mu_i+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}\tilde{F}_k}+\tilde{\varepsilon}_i
\end{aligned}


と書き直すことができる。
 マルチ・ファクター・モデルが成立しているとして、各リスク・ファクターの変動に対してリスク・プレミアムを要求すると考えるべきであるか。リスク・ファクターの性質によっては、投資家の将来消費の変動とは無関係なもの、もしくは将来消費の変動リスクをヘッジする性質を持つものが存在する可能性があり、前者ではリスク・プレミアムは0、後者では負のリスク・プレミアムを持つはずである。マルチ・ファクター・モデルはリスク・プレミアムについては何も主張せず、これに解答を与えるためには別の均衡理論が必要になる。

6.5 実務上の代表的マルチ・ファクター・モデル

 マルチ・ファクター・モデルはリスク・ファクターの個数および具体的なファクターを指定する理論ではない。そこでそれらは別途検討しなければならない。
 統計的処理では恣意性が入ってしまうため、逆に経済的直観から定めることもある。
 現在の研究では、マクロ経済変数よりは個々の銘柄(企業)の属性を表現する変数を用いるものが主流になっている。たとえば\mathrm{Fama}-\mathrm{French}の3ファクターモデルは、



\begin{aligned}
\tilde{r}_i-r_f=\alpha_i+\beta_i^{\mathrm{VW}}(\tilde{r}_M-r_f)+\beta_i^{\mathrm{SMB}}\tilde{\mathrm{SMB}}+\beta_i^{\mathrm{HML}}\tilde{\mathrm{HML}}
\end{aligned}


で銘柄リターンを説明する。ここで

   \tilde{r}_i 銘柄iのリターン
   r_f リスクフリーレート
   \tilde{r}_M 市場ポートフォリオ・リターン(市場ファクター)
   \tilde{\mathrm{SMB}} 株式時価総額を用いたグロース・ファクター
   \tilde{\mathrm{HML}} 簿価時価比率を用いたバリュー・ファクター
   \beta_i^{\mathrm{VW}} 市場ファクターの因子ベータ
   \beta_i^{\mathrm{SMB}} グロース・ファクターの因子ベータ
   \beta_i^{\mathrm{HML}} バリュー・ファクターの因子ベータ


である。
 こういった形態のマルチ・ファクター・モデルでは仮に上手く変数を見いだせても、それらがなぜリスク・プレミアム獲得につながるかの経済的裏付けが薄い場合が殆どである点が問題である。
 市場がリスク・プレミアムを支払う新たな変数は既存の変数で説明できないため、当初は「アノマリー(異常現象)」として認識される。もしそのアノマリーが継続しないのであれば、一時的な裁定利益と見なすことができる。他方でもしそのアノマリーが消えないのであれば、それは新たなリスク・ファクターの存在を暗示する。
 また過去データに対して当てはまりの良い変数がその後に時間経過とともに説明力を失ったとしても、それは投資機会集合の変動がもたらした可能性もあり得、判別は難しい。こうした背景から、経済理論的な裏付けが取れない場合、長期期間の投資理論にマルチ・ファクター・モデルを応用できるかは不明である。

今回のまとめ

  • 各銘柄に共通に連動する複数のリスク・ファクターが存在するとした
    \begin{aligned}\tilde{r}_i&=a_i+\displaystyle{\sum_{k=1}^{K}b_{i,k}\tilde{f}_k}+\tilde{\varepsilon}_i,i\in\{1,2,\cdots,n\},\\E[\tilde{\varepsilon}_i]&=0,\\\mathrm{Cov}[\tilde{f}_k,\tilde{\varepsilon}_i]&=0,\\\mathrm{Cov}[\tilde{\varepsilon}_i,\tilde{\varepsilon}_j]&=0,i\neq j,\in\{1,\cdots,n\}i,j\in\{1,2,\cdots,K\}\end{aligned}
    k変量マルチ・ファクター・モデルという。
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