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長期投資の理論と実践(02/X)

 投資理論を以下の書籍

をベースに学ぶこととする。

2. 効用関数による投資家の選好表現(再掲)

 初期富(initial wealth)は、期初に所与として各投資家に与えられる財や金融資産の価値である。
 時点0において初期富W_0の全額が利用可能だとする。投資の成果は時点1に成立すると考えていたから、期末富\tilde{W}は投資収益を\tilde{Z}とすれば


\begin{aligned}
\tilde{W}=W_0+\tilde{Z}
\end{aligned}

である*1。ここで投資収益\tilde{Z}の期待値E[\tilde{Z}]=\mu_{Z}と表すと、\tilde{Z}=\mu+\tilde{\varepsilon},\ E[\tilde{\varepsilon}]=0と書き直すことができ、これにより


\begin{aligned}
\tilde{W}=W_0+\tilde{Z}&=W_0+\mu_{Z}+\tilde{\varepsilon},\\
E[\tilde{\varepsilon}]&=0
\end{aligned}

と書き直すことができる。

2.2 リスク回避度(再掲)

 効用関数の凹度はリスク回避度で測られる。効用関数u(x)に対して絶対的リスク回避度\mathrm{ARA}


\begin{aligned}
\mathrm{ARA}(x)=-\displaystyle{\frac{u^{\prime\prime}(x)}{u^{\prime}(x)}}
\end{aligned}

で、また相対的リスク回避度\mathrm{RRA}


\begin{aligned}
\mathrm{RRA}(x)=-\displaystyle{\frac{u^{\prime\prime}(x)}{u^{\prime}(x)}}x=x\mathrm{ARA}(x)
\end{aligned}

で定義する。期待効用関数は正1次変換の範囲で一意、すなわちa,b\in\mathbb{R},b\gt0に対して効用関数u(x)


\begin{aligned}
\hat{u}(x)=a+b u(x)
\end{aligned}

は同一の選好を有する。リスク回避度においても


\begin{aligned}
\mathrm{ARA}(x)&=-\displaystyle{\frac{\hat{u}^{\prime\prime}(x)}{\hat{u}^{\prime}(x)}}=-\displaystyle{\frac{u^{\prime\prime}(x)}{u^{\prime}(x)}},\\
\mathrm{RRA}(x)&=-\displaystyle{\frac{\hat{u}^{\prime\prime}(x)}{\hat{u}^{\prime}(x)}}x=-\displaystyle{\frac{u^{\prime\prime}(x)}{u^{\prime}(x)}}x=x\mathrm{ARA}(x)
\end{aligned}

が成り立ち、正一次変換前のリスク回避度と確かに一致する。

2.2.2 インデックスファンドのリスクプレミアム

 株式市場で取引できる全銘柄をリスク資産としてその時価総額のウェイトで組み入れたポートフォリオである市場ポートフォリオの代理としてのインデックスファンドに、リスク回避的な投資家が初期富W_0分だけ運用する状況を考える。このポートフォリオのリターンを\tilde{r}_Iとおくと、\tilde{Z}=W_0\tilde{r}_Iである。この投資家の期待効用は


\begin{aligned}
E[u\left(W_0+\tilde{Z}\right)]=E[u\left(W_0\left(1+\tilde{r}_I\right)\right)]
\end{aligned}

で与えられる。この投資収益\tilde{Z}=W_0\tilde{r}_Iの確実性等価Z^{\mathrm{CE}}


\begin{aligned}
E[u\left(W_0\left(1+\tilde{r}_I\right)\right)]=u(W_0+Z^{\mathrm{CE}})
\end{aligned}

を満たす実数である。
 1期間後に確定値Z^{\mathrm{CE}}を生む資産は無リスク資産である。そこで無リスク利子率をr_fとおけば、


\begin{aligned}
W_0 r_f=Z^{\mathrm{CE}}
\end{aligned}

が成立すると考えられる。このとき初期富W_0を有する投資家が認識する絶対的リスクプレミアム\Pi


\begin{aligned}
\Pi=E[\tilde{Z}]-Z^{\mathrm{CE}}=E[W_0\tilde{r}_I]-W_0 r_f=W_0\left(E[\tilde{r}_I]-r_f\right)
\end{aligned}

である。また相対的リスクプレミアムは


\begin{aligned}
\pi=\displaystyle{\frac{\Pi}{W_0}}=E[\tilde{r}_I]-r_f
\end{aligned}

である。これは期待超過リターンを表している。

2.2.3 リスク回避度による効用関数の分類

 リスク回避度およびリスク資産への投資の関係について、\mathrm{Arrow}(1970)の分析に基づく分析結果を述べる。
 まず絶対的リスク回避度\mathrm{ARA}(x)=\displaystyle{-\frac{u^{\prime\prime}(x)}{u^{\prime}(x)}}が単調性を持つものについて、単調ならばその1次導関数の正負がxにかかわらず一定であるから、その正負(更には0か)に応じて3種類に分類できる:

   (1) {}^{\forall}x\in\mathbb{R}(\mathrm{ARA}^{\prime}(x)\gt0) \mathrm{IARA}

効用
期待効用最大化により

リスク資産への投資金額を

減らす。
   (2) {}^{\forall}x\in\mathbb{R}(\mathrm{ARA}^{\prime}(x)=0) \mathrm{CARA}

効用
期待効用最大化により

リスク資産への投資金額は

不変。
   (3) {}^{\forall}x\in\mathbb{R}(\mathrm{ARA}^{\prime}(x)\lt0) \mathrm{DARA}

効用
期待効用最大化により

リスク資産への投資金額を

増やす。

 \mathrm{IARA}形効用の下では投資可能資金W_0が増加して予算制約が緩むとリスク資産への需要が減少するため、リスク資産は下級財*2である。しかし国内・海外の実証分析によりリスク資産は普通財*3であることが知られており、このために\mathrm{DARA}型効用を用いるのが妥当と考える研究者が多い。

 もし\mathrm{IARA}型効用を持つ投資家では投資可能資金が増加するにつれて当該投資家の絶対的リスク回避度は増加する。これは平均が0であるようなリスクを回避するために支払ってもよいと考える金額が増加することを含意しており、リスクへの忌避度合いが増大していく。一方で\mathrm{DARA}形効用ではこれとまさに逆の行動を行い、投資可能金額が増加するにつれてリスクへの選好度合いが増大していく。

 相対的リスクプレミアムは以下で近似できることは前節で示した:


\begin{aligned}
\pi\approx-\displaystyle{\frac{u^{\prime\prime}\left(W_0+\mu_Z\right)}{u^{\prime}\left(W_0+\mu_Z\right)}W_0\frac{V[\tilde{r}]}{2}}
\end{aligned}

ここから、近似式右辺の絶対的リスク回避度の項は

  (1) \mathrm{IARA}型効用であれば初期富W_0の増加に伴ってリスクプレミアムは増加する。
  (2) \mathrm{DARA}型効用であれば初期富W_0の増加に伴ってリスクプレミアムは減少する。
  (3) \mathrm{CARA}型効用であれば初期富W_0の増減とリスクプレミアムは独立である。

という傾向がある。
 相対的リスク回避度に話を移せば、金融資産として無リスク資産とリスク資産の2つが選択可能であるとき、W_0の増大に伴い以下が成り立つ:

   (1) {}^{\forall}x\in\mathbb{R}(\mathrm{RRA}^{\prime}(x)\gt0) \mathrm{IRRA}

効用
期待効用最大化により

リスク資産への投資比率を

減らす。
   (2) {}^{\forall}x\in\mathbb{R}(\mathrm{RRA}^{\prime}(x)=0) \mathrm{CRRA}

効用
期待効用最大化により

リスク資産への投資比率は

不変。
   (3) {}^{\forall}x\in\mathbb{R}(\mathrm{RRA}^{\prime}(x)\lt0) \mathrm{DRRA}

効用
期待効用最大化により

リスク資産への投資比率を

増やす。

 実証上、どの型が良いかのコンセンサスは無いものの、\mathrm{CRRA}型を仮定するのがよい。\mathrm{IRRA}型や\mathrm{DRRA}型では同じ効用関数を有していても初期富W_0の水準により投資比率の決定が複雑になるというデメリットが発生するためである。さらに歴史的に先進諸国において初期富が増大してもリスク・プレミアムが著しく、かつ一方的に増加・減少する実証的結果が存在しないからでもある。
 そこで以降の分析では、投資家のリスク回避度として、絶対的リスク回避度であれば\mathrm{DARA}型、相対的リスク回避度であれば\mathrm{CRRA}型を仮定する。

3. 効用関数と確率分布

 効用関数としてよく用いられる具体的な形態を議論するとともにそれと同時に用いる確率分布を議論する。

3.1 代表的な効用関数

 まず今後用いる\mathrm{HARA}型効用関数を導入する。絶対的リスク回避度\mathrm{ARA}(x)について


\begin{aligned}
\mathrm{ARA}(x)=\displaystyle{\frac{1}{A+Bx}},\ A+Bx\gt0
\end{aligned}

と表される場合、これを\mathrm{HARA}型効用関数と呼ぶ。このとき


\begin{aligned}
\mathrm{RRA}(x)=\displaystyle{\frac{x}{A+Bx}}=\displaystyle{\frac{1}{B}-\frac{A}{B}\frac{1}{A+Bx}}
\end{aligned}

である。


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{d\mathrm{ARA}(x)}{dx}}&=-\displaystyle{\frac{B}{(A+Bx)^2}},\\
\displaystyle{\frac{d\mathrm{RRA}(x)}{dx}}&=\displaystyle{\frac{A}{(A+Bx)^2}}
\end{aligned}

が成り立つから、\mathrm{ARA}(x)Bの符号で、\mathrm{RRA}(x)Aの符号で\mathrm{IARA},\mathrm{CARA},\mathrm{DARA}かが定まる。
 絶対的リスク回避度の定義から、\mathrm{HARA}型効用には


\begin{aligned}
\mathrm{ARA}(x)=-\displaystyle{\frac{u^{\prime\prime}(x)}{u^{\prime}(x)}}=-\displaystyle{\frac{d}{dx}}\log u^{\prime}(x)
\end{aligned}

が成り立つから、B\neq0のとき


\begin{aligned}
&\displaystyle{\frac{d}{dx}}\log u^{\prime}(x)=-\displaystyle{\frac{1}{A+Bx}}\\
\Leftrightarrow\ &\log u^{\prime}(x)=-\displaystyle{\frac{1}{B}\log(A+Bx)}+C,(Cは積分定数)\\
\Leftrightarrow\ &\log u^{\prime}(x)=\displaystyle{\log\left\{(A+Bx)^{-\frac{1}{B}}\right\}}+C\\
\Leftrightarrow\ &u^{\prime}(x)=\displaystyle{e^{C}\left\{(A+Bx)^{-\frac{1}{B}}\right\}}\\
\Leftrightarrow\ &u(x)=\displaystyle{C^{\prime}\int(A+Bx)^{-\frac{1}{B}}}dx,C^{\prime}=e^{C}\gt0\\
\Leftrightarrow\ &u(x)=\begin{cases}
\displaystyle{C^{\prime}\frac{1}{B-1}(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}}dx,&B\neq1,\\
C^{\prime}\log(A+x),&B=1
\end{cases}
\end{aligned}

であり、またA\neq0,B=0のときは当初の仮定A+Bx\gt0も踏まえてA\gt0,B=0のときであり、


\begin{aligned}
&\displaystyle{\frac{d}{dx}}\log u^{\prime}(x)=-\displaystyle{\frac{1}{A}},\\
\Leftrightarrow\ &\log u^{\prime}(x)=-\displaystyle{\frac{x}{A}}+C,\\
\Leftrightarrow\ &u^{\prime}(x)=\exp\left(-\displaystyle{\frac{x}{A}}+C\right),\\
\Leftrightarrow\ &u(x)=-\displaystyle{A\exp\left(-\displaystyle{\frac{x}{A}}+C\right)}\\
\end{aligned}

である。いずれにおいてもC積分定数である。以上を当初の条件A+Bx\gt0も含めてまとめると


\begin{aligned}
\begin{cases}
冪型効用:&u(x)=\displaystyle{\frac{1}{B-1}(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}},&A+Bx\gt0,B\neq0,1,\\
対数型効用:&u(x)=\log(A+x),&x\gt-A,B=1\\
負の指数型効用:&u(x)=\displaystyle{-A\exp\left(-\displaystyle{\frac{x}{A}}\right)},&A\gt0,B=0
\end{cases}
\end{aligned}

である。ただし効用関数が正の1次変換の範囲で一意であることから、積分定数に関わる項は無視した。
 ここで対数型効用は特殊な位置を占める。実際、冪型効用関数において正の1次変換して


\begin{aligned}
u(x)=\displaystyle{\frac{(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}-1}{B-1}}
\end{aligned}

を考えると、de L'Hôpitalの定理から


\begin{aligned}
\displaystyle{\lim_{B\rightarrow1}u(x)}&=\displaystyle{\lim_{B\rightarrow1}\frac{(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}-1}{B-1}}\\
&=\displaystyle{\lim_{B\rightarrow1}\frac{\frac{d\left\{(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}-1\right\}}{dB}}{\frac{d(B-1)}{dB}}}\\
&=\displaystyle{\lim_{B\rightarrow1}\frac{d}{dB}\exp\left\{\left(1-\displaystyle{\frac{1}{B}}\right)\log(A+Bx)\right\}}\\
&=\displaystyle{\lim_{B\rightarrow1}\left[(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}\left\{\displaystyle{\frac{1}{A+Bx}}\left(1-\displaystyle{\frac{1}{B}}\right)+\displaystyle{\frac{1}{B^2}\log(A+Bx)}\right\}\right]}\\
&=\log(A+x)
\end{aligned}

を得る。このように対数型効用は冪乗効用の特殊形と言える。この対数型効用関数は一般化対数効用と呼ばれ、\mathrm{DARA}型効用の性質を満たしつつ、Aの符号移管で\mathrm{IRRA},\mathrm{CRRA},\mathrm{DRRA}型の効用関数を容易に設定できるため、操作性と汎用性が非常に高い。

今回のまとめ

  • インデックスファンドのリスクプレミアム\pi\pi=E[\tilde{r}_I]-r_fで与えられる。
  • 単調なリスク回避度では、それが単調増加・単調減少・0かによって3つに類型化できる。
  • 実証分析結果と整合的であること、初期富W_0の水準が投資比率の決定に影響しないことなどから、絶対的リスク回避度であれば\mathrm{DARA}型、相対的リスク回避度であれば\mathrm{CRRA}型を仮定するのが適当である。
  • 具体的な形態として代表的な効用関数は\mathrm{HARA}型効用関数で、
    \begin{aligned}\begin{cases}冪型効用:&u(x)=\displaystyle{\frac{1}{B-1}(A+Bx)^{1-\frac{1}{B}}},&A+Bx\gt0,B\neq0,1,\\対数型効用:&u(x)=\log(A+x),&x\gt-A,B=1\\負の指数型効用:&u(x)=\displaystyle{-A\exp\left(-\displaystyle{\frac{x}{A}}\right)},&A\gt0,B=0\end{cases}\end{aligned}
    に類型化できる。
  • 特に対数型効用関数は汎用性と操作性が非常に高く重要である。

*1:時点0では投資収益は未知であるから確率変数であり、そのことを強調するのに\tilde{}を用いることにする。

*2:所得(富)が増加(/減少)した時に、消費が減少(/増加)する財のこと。

*3:富の増加により保有金額が増加する財。

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