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一流の大人(ビジネスマン、政治家、リーダー…)として知っておきたい、教養・社会動向を意外なところから取り上げ学ぶことで“気付く力”を伸ばすブログです。データ分析・語学に力点を置いています。 →現在、コンサルタントの雛になるべく、少しずつ勉強中です(※2024年1月21日改訂)。

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長期投資の理論と実践(03/X)

 投資理論を以下の書籍

をベースに学ぶこととする。

3. 効用関数と確率分布

 効用関数としてよく用いられる具体的な形態を議論するとともにそれと同時に用いる確率分布を議論する。

3.3 効用関数と確率分布の特定

 特定の効用関数および確率分布の組み合わせにおいて期待効用を最大化するようなポートフォリオの一般的性質を明らかにする。
 期初における初期富W_0、同時点で構築するポートフォリオの投資リターンを\tilde{r}_p、投資家の効用関数をu(\cdot)とする。期初における消費を考えず初期富全額が金融資産投資に向けられるから、翌時点における期末富は


\begin{aligned}
\tilde{W}=W_0(1+\tilde{r}_p)
\end{aligned}

で与えられる。ここで投資収益を\tilde{Z}=W_0\tilde{r}_p、投資リターンの期待値を\mu_p=E[\tilde{r}_p]、その分散を\sigma_p^2=V[\tilde{r}_p]とおくと、


\begin{aligned}
E[\tilde{Z}]&=E[W_0\tilde{r}_p]=W_0\mu_p,\\
V[\tilde{Z}]&=V[W_0\tilde{r}_p]=W_0^2\sigma_p^2
\end{aligned}

である。期末富は\tilde{W}=W_0+\tilde{Z}であるから、その期待値を\mu_W=E[\tilde{W}]とおけば


\begin{aligned}
\mu_W=E[\tilde{W}]=W_0+E[\tilde{Z}]=W_0+\mu_Z=W_0(1+\mu_p)
\end{aligned}

である。
 将来の効用u(\tilde{W})について


\begin{aligned}
u(\tilde{W})&=u(W_0+\tilde{Z})=u(W_0+\mu_Z+\tilde{Z}-\mu_Z)=u(\mu_W+(\tilde{Z}-\mu_Z) )
\end{aligned}

を変形すると、\mu_Wの周りで\mathrm{Taylor}展開すれば


\begin{aligned}
u(\tilde{W})=&u(\mu_W+(\tilde{Z}-\mu_Z) )\\
=&u(\mu_W)+\displaystyle{\frac{1}{1!}}u^{\prime}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)^2\\
&+\displaystyle{\frac{1}{3!}}u^{\prime\prime\prime}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)^3+\cdots\\
&+\displaystyle{\frac{1}{n!}}u^{(n)}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)^n+\cdots
\end{aligned}

であるから、


\begin{aligned}
E\left[u(\tilde{W})\right]=E&\left[u(\mu_W)+\displaystyle{\frac{1}{1!}}u^{\prime}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)^2\right.\\
&\left.+\displaystyle{\frac{1}{3!}}u^{\prime\prime\prime}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)^3+\cdots+\displaystyle{\frac{1}{n!}}u^{(n)}(\mu_W)(\tilde{Z}-\mu_Z)^n+\cdots\right]\\
=&u(\mu_W)+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(\mu_W)E[(\tilde{Z}-\mu_Z)^2]+\displaystyle{\frac{1}{3!}}u^{\prime\prime\prime}(\mu_W)E[(\tilde{Z}-\mu_Z)^3]+\cdots\\
&+\displaystyle{\frac{1}{n!}}u^{(n)}(\mu_W)E[(\tilde{Z}-\mu_Z)^n]+\cdots
\end{aligned}

を得る。平均\mu_Z周りのm次モーメントを\mu_{Z,m}=E[(\tilde{Z}-\mu_Z)^m],m=1,2,\cdots,n,\cdotsとおけば、


\begin{aligned}
E\left[u(\tilde{W})\right]=&u(\mu_W)+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(\mu_W)V[\tilde{Z}]+\displaystyle{\frac{1}{3!}}u^{\prime\prime\prime}(\mu_W)\mu_{Z,3}+\cdots+\\
&\displaystyle{\frac{1}{n!}}u^{(n)}(\mu_W)\mu_{Z,n}+\cdots
\end{aligned}

と書き換えることができる。また投資リターンの平均周りm次モーメント\mu_{p,m}=E[(\tilde{r}_p-\mu_p)^m]を用いて


\begin{aligned}
E\left[u(\tilde{W})\right]=&u(\mu_W)+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(\mu_W)\mu_{Z,2}+\displaystyle{\frac{1}{3!}}u^{\prime\prime\prime}(\mu_W)\mu_{Z,3}+\cdots+\\
&\displaystyle{\frac{1}{n!}}u^{(n)}(\mu_W)\mu_{Z,n}+\cdots\\
=&u(W_0(1+\mu_p) )+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(W_0(1+\mu_p) )\mu_{Z,2}+\displaystyle{\frac{1}{3!}}u^{\prime\prime\prime}(W_0(1+\mu_p) )\mu_{Z,3}+\\
&\cdots+\displaystyle{\frac{1}{n!}}u^{(n)}(W_0(1+\mu_p) )\mu_{Z,n}+\cdots
\end{aligned}

とも書き換えることができる。
 これらからも明らかなように期待効用を計算するには、投資家の効用関数のみならず投資リターンの確率分布に関する情報も必要である。そのため実用上は平均・分散分析が用いられる。しかしこれは効用関数および投資リターンの分布に暗黙の裡に仮定を置いていることに注意しなければならない。

3.4 平均・分散分析

 投資家の効用関数および投資リターンに対する、

   投資家の効用関数がリスク回避的で2次関数で表される。
   任意のリスク回避的効用関数の下で投資リターンが正規分布に従う。

との仮定をそれぞれ検討する。

3.4.1 任意の確率分布とリスク回避的な2次効用関数

 効用関数が


\begin{aligned}
u(x)=-x^2+2\kappa x,0\lt x\lt \kappa
\end{aligned}

として与えられると仮定する。このとき


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{d u}{dx}}&=-2x+2\kappa=2(\kappa-x)\gt0(0\lt x\lt \kappa),\\
\displaystyle{\frac{d^2u}{dx^2}}&=-2\gt0(0\lt x\lt \kappa),\\
\displaystyle{\frac{d^n u}{dx^n}}&=0,n\geq3
\end{aligned}

であるから、このu(x)は単調増加関数かつ上に凸で、リスク回避的であることを表現できる。
 期初において期末の消費として\tilde{W}=W_0+\tilde{Z}=W_0(1+\tilde{r}_p)がもたらされると予想される効用の期待値を求めると、効用関数の3次以上の導関数が恒等的に0であることに注意すれば、


\begin{aligned}
E[u(\tilde{W})]&=u(W_0(1+\mu_p) )+\displaystyle{\frac{1}{2!}}u^{\prime\prime}(W_0(1+\mu_p) )V[\tilde{W}]\\
&=-W_0^2(1+\mu_p)^2+2\kappa W_0(1+\mu_p)-W_0^2\sigma_p^2
\end{aligned}

が得られる。もし初期富W_0およびパラメータ\kappaが所与であれば、確率分布の1次・2次モーメントのみで期待効用を完全に記述できることが分かった。
 このとき、どのような期待リターンおよび分散であれば投資家の期待効用を向上させられるのか。期待効用をそれらで偏微分すると、


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{\partial^2 }{\partial \mu_p}E[u(\tilde{W})]}&=-2W_0^2(1+\mu_p)+2\kappa W_0=2W_0\{\kappa-W_0(1+\mu_p)\}\\
&=-2W_0^2\left\{\mu_p+\left(1-\displaystyle{\frac{\kappa}{W_0}}\right)\right\}\\
\displaystyle{\frac{\partial^2 }{\partial \sigma_p^2}E[u(\tilde{W})]}&=-W_0^2\gt0
\end{aligned}

が得られる*1。したがって\kappa\gt W_0(1+\mu_P)である限り、期待リターン\mu_Pが大きくなると期待効用を向上させる。また分散は小さければ小さいだけ期待効用を向上させる。

3.4.2 正規分布と任意のリスク回避的効用関数

 次に初期富W_0を運用する投資家の効用関数がリスク回避的という範囲で任意であるとしてリターンが正規分布に従うと特定した場合の期待効用を考える。
 個別資産のリターンが正規分布に従うことを仮定すると、それらを組み合わせたポートフォリオの投資収益およびリターンもまた正規分布に従うことで便利である。ただし正規分布の台(support)*2[-\infty,\infty]であるから、株式や債券等の有限責任を前提とした金融資産の投資収益を記述するには不適当である。また正規分布同士の積は正規分布にならないため、多期間の累積リターンは正規分布に従うとして分析できない。
 一般に\tilde{y}\sim N(\mu,\sigma^2)に対して平均周りのn次モーメント\mu_n


\begin{aligned}
\mu_n=E[(\tilde{y}-\mu_1)^n]=\begin{cases}
(n-1)!!\sigma^n,&n\equiv0(\mod2),\\
0,&n\equiv1(\mod2),\\
\end{cases}
\end{aligned}

である。
 ポートフォリオのリターンが\tilde{r}_P\sim N(\mu_P,\sigma_P^2)であるときの期待効用は、


\begin{aligned}
E[u(\tilde{W})]=&u(W_0(1+\mu_P))+\displaystyle{\frac{1}{2!}u^{\prime\prime}(W_0(1+\mu_P))}\cdot W_0^2\sigma_P^2\\
&+\displaystyle{\frac{1}{3!}u^{\prime\prime\prime}(W_0(1+\mu_P))}W_0^3\mu_{p,3}\\
&+\displaystyle{\frac{1}{4!}u^{\prime\prime\prime\prime}(W_0(1+\mu_P))}W_0^4\mu_{p,4}\\
&+\cdots\\
&+\displaystyle{\frac{1}{n!}u^{(n)}(W_0(1+\mu_P))}W_0^n\mu_{p,n}+\cdots\\
=&u(W_0(1+\mu_P))+\displaystyle{\frac{1}{2!}u^{\prime\prime}(W_0(1+\mu_P))\cdot W_0^2\sigma_P^2}+\\
&+\displaystyle{\frac{1}{4!}u^{\prime\prime\prime\prime}(W_0(1+\mu_P))}W_0^4\mu_{p,4}+\cdots\\
&+\displaystyle{\frac{1}{(2m)!}u^{(2m)}(W_0(1+\mu_P))\cdot W_0^{2m}\{(2m-1)!!\sigma_P^{2m}\}}+\cdots\\
=&u(W_0(1+\mu_P))+\displaystyle{\sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{(2m)!}u^{(2m)}(W_0(1+\mu_P))W_0^{2m}(\sigma_P^2)^m}
\end{aligned}

で与えられる。このようにポートフォリオのリターンが正規分布に従うならば、期待効用は平均および分散の関数で表され、3次以上のモーメントは影響しないことが分かる。このとき期待効用を最大化するポートフォリオはそのリターンの平均と分散のみに注目して構築できる。

今回のまとめ

  • リターンが正規分布が従う場合には効用関数の形状に関係なく、また投資家がリスク回避的な2次効用関数を持つ場合、ポートフォリオのリターンが従う確率分布に関係なく、同一の分散のもとで期待リターンを大きく、同一の期待リターンの下では分散を小さくするほど期待効用を高めることができる。

*1:前者の期待リターンによる偏微分を教科書では常に負(\gt0)としている。しかしこれは\kappaの値次第で正にも負にもなり得る。\kappaには特段の仮定を置いている訳でもないため、誤りだと考えられる。

*2:関数値が0を取らないような引数の集合

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