投資理論を以下の書籍
をベースに学ぶこととする。
今回のまとめ
- 多期間かつ期間の長い投資モデルを考えるとき、①将来の同一期間であっても異なる世の中の状態のどれかが実現することに対応して状態間での消費水準が変動するリスク、②将来の異なる時点間において消費水準が変動するリスクの2つのリスクが存在する。
- 生涯効用が各期の1期間効用関数の和として表現できると仮定し、さらに各時点における1期間効用関数が同一の関数形で与えられると仮定すれば、2期間モデルにおいて、その上で1期間効用関数が
であると特定することでと書ける。
9. ライフサイクルとパーソナル・ファイナンス
9.3 1期間モデルの教訓と多期間投資モデルの構築
1期間モデルから得られた、株式投資との関係で重要である論点は
- 投資のリスクは投資収益ないしそのリターンの変動性で表現されるが、そのリスクにはリスク・プレミアムを期待できる部分(システマティック・リスク)とできない部分(アンシステマティック・リスク)がある。
- システマティック・リスクはトータル・リスクのうち、プライシング・カーネルと相関を持つ変動部分で、アンシステマティック・リスクは無相関の変動部分を指す。
- リスク・プレミアムの期待できないリスクを負うことは、リスク回避的名投資家にとっては効用の低下をもたらすため、極力避けるべきである。
- リスク・プレミアムの期待できないリスクは分散投資により軽減し得る。
といったものである。これらは多期間モデルでも成り立つ。
また1期間モデルでは、投資家が平均-分散アプローチで投資決定する場合、資産配分は無リスク資産と市場ポートフォリオの2種類の資産に対してのみなされ(2基金分離定理)、両者への具体的な投資割合は投資家のリスク回避度(ないし許容度)で決まることを確認した。
9.3.1 先駆的考察
(1969)および
(1969)は、1期間モデルを多期間に拡張した先駆的研究であった。ここでは2基金分離定理が多期間において成立するための十分条件を検討している。この章では多期間への拡張による課題を確認する。
これらの研究では労働所得を捨象し、無リスク金利が多期間において確定値であるとの強い仮定を置いている。その上で近視眼的投資戦略*1のための十分条件を導出した。その第1の十分条件は、投資家の効用関数が消費に対して冪型の関数形を有し、かつ、各期のリスク資産の投資収益が独立かつ同一の分布に従うことである。第2の十分条件は投資家の効用関数が対数型効用で表されることである。
9.3.2 問題設定
各種の問題設定を解説する。現在を時点とし、これは第
期の期初をあらわすものとする。第
期は時点
で終了し、その時点から第
期が始まる。以降、第
期が時点
を以て終了すると考える。そして第
期の終了と共に消費者は遺産
]を遺して死亡すると考え、消費者の効用は第
期から第
期までの各期における消費のみならず、死亡時点
に残す遺産からも得られると仮定する。
また生涯効用は各期の効用関数の和として与えられるものと仮定する。時点においては
で与えられるものとする。または1期間ごとの効用関数で、第
期における1期間効用はその時点の消費に依存し、それ以前の消費水準または将来に期待される消費水準の影響は全く存在しないと仮定している。効用関数の第2変数として期間
が含まれるのは主観的割引因子
が遠い将来程確定的に大きく効いてくるためである。
投資理論はすべてが変転し得る現実の下で各個人のライフサイクルに完全に合致した統一的かつ具体的な投資方法を解答として提供できる段階には至っていない。
9.4 多期間モデルで新たに考察すべき2つの問題
多期間モデルでは
- 多期間の投資決定には2種類の消費変動リスクがありこれらを加味できるように効用関数を修正する必要がある
- 投資機会集合の変動に応じて金融資産投資リターンの確率的変動の表現を変える必要が生じる
ことを考慮しなければならない。
9.4.1 2種類の消費変動リスク
長期かつ多期間における投資ホライズンを有する投資家にとってのリスクは投資リターンの変動によって将来の消費を変動させ実質的な生活水準を変動させることである。これには
- 将来の同一期間であっても異なる世の中の状態のどれかが実現することに対応して状態間での消費水準が変動するリスク
- 将来の異なる時点間において消費水準が変動するリスク
の2つのリスクが存在する。

これらにおいて多期間モデルにおける分析を特徴づけるのは異時点間における消費変動リスクである。将来の(1期間)リスクフリーレートも変動するため、多期間では無リスク資産の運用に基づく消費であっても変動を避けられない。
時点において時点
で生起し得る異なる状態間のリスクは、絶対的(もしくは総体的)リスク回避度によりそのリスクに対しるう回避の程度を表し得る。
リスク回避的な投資家は異なる時点間における消費の変動も当然に嫌うと考えられるが、この異時点間の消費変動に対する回避をどのように記述し定式化するかが多期間モデルで新たに行旅しなければならない第1の問題である。
9.5 効用関数の導入
多期間モデルで考慮すべき投資家のリスク回避には2種類あるが、これらを従来の効用関数では分離できない。
9.5.1 期待効用関数の問題点
いま、ある投資家の生涯が期間からなり、第
期期初と第
期期初の
時点で消費が為されるものとする。第
期の消費を確定値
とし、第
期の消費を確率変数
とするとき、この投資家の
機関通期での時点
における効用は時点
における情報の下で期待形成を行うため、
と書くことにする。これは生涯効用と呼ぶ。
生涯効用関数では第期の消費が第
期の効用に影響を及ぼす可能性、あるいは逆に第
期の消費が第1期の効用に影響を及ぼす可能性がある。
ここで生涯効用が各期の1期間効用関数の和として表現できると仮定する、すなわち
とする。ここではそれぞれ第
期消費および第
期消費に対する1期間効用関数で、各期の消費が他の期の効用に影響を与えないと仮定している。また
は主観的割引因子(Subjective discount factor)と呼び、投資家の時間選好を表す。
この最右辺は時点における情報に基づいて計算した期待効用関数になっている。これにより生涯効用が分離された各期の1期間効用の和として表現されているため、このような構造を持つ効用関数を時間分離あるいは時間加法的と呼ぶ。
さらに各時点における1期間効用関数が同一の関数形で与えられると仮定すれば、とおいて、2期間の期待効用関数は
と表現できる。
その上で1期間効用関数が
であると仮定する。この仮定から、とおくことで
で与えられる。
投資家は時点における初期富
を与えられており、これを上の期待効用(生涯効用)を最大化するように今日の消費水準
(と貯蓄額
)の最適な運用方法を決定する。