投資理論を以下の書籍
をベースに学ぶこととする。
今回のまとめ
- ここからは多期間モデルによる長期投資理論を扱う。
- 消費水準の変化には、 ①将来の特定期間に実現する世の中の状態によって消費水準が変動するリスク ②将来の異なる期間において消費水準が変動するリスクという異なるリスクが存在する。1期間モデルではこれらを類別することができないため、多期間投資理論ではこれらを別のパラメータで捉えることができる効用関数を導入しなければならず、そのために再帰的効用関数を導入する。
9. ライフサイクルとパーソナル・ファイナンス
ここからは多期間モデルによる長期投資理論を扱う。ここで想定する長期・多期間の投資ホライズンとは、金利水準変化や物価水準変化、これらに伴う投資資産のリスク・プレミアムの変化が起こり得る程度の期間である(差し当たり10年以上)。
1期間モデルを多期間モデルに拡張する場合、効用が消費から得られると前提視する限り、最適投資比率の決定は最適消費決定と対になっている。この考えからすれば、長期間でのリスクは消費水準の確率的変化によって生じる効用水準の変動である。
消費水準の変化には、
- 将来の特定期間に実現する世の中の状態によって消費水準が変動するリスク
- 将来の異なる期間において消費水準が変動するリスク
という異なるリスクが存在する。1期間モデルではこれらを類別することができないため、多期間投資理論ではこれらを別のパラメータで捉えることができる効用関数を導入しなければならず、そのために再帰的効用関数を導入する。
長期間の投資ホライズンの下では、金利や物価の変動のように、投資機会集合に変化が生じるため、1期間モデルの枠組みを大幅に修正する必要がある。
9.1 ライフサイクルとパーソナル・ファイナンス
人生には収入・財産の増減をもたらす特定のイベントが発生する。長期投資を考える場合、こうしたライフサイクルを前提として枠組みを作ることが必要になる。こうした研究領域をパーソナル・ファイナンスなどと呼称する。
9.1.1 期間の認識
経済学における現在および将来をより詳しく述べる。経済学では現在および将来を「期間」として認識し、「現在」が開始する時刻(期初)を時点、終了する時刻を時点と呼ぶ。同様に「将来」が開始する時点を、「将来」が終了する時点をとする。もしくはこのように定めた時点から時点までを第期、時点から時点までを第期といった形で期数を与える。このように期間を考えるモデルを2期間モデルという。また期間をを一般に延長したものを多期間モデルという。
期間を考えるときに重要なのは、消費が行われるタイミングである。これまでの期間モデルは時点に瞬時に消費が行われ、消費が終わると消費者は即時に経済的意味で消失するものと想定する。これに対して2期間モデルでは、普通、時点ででも消費が生じると想定する。いずれにしても各期間における消費の意思決定はその期間の期初において即時に為すと仮定する。この場合、消費の意思決定と同じタイミングで投資の意思決定も複数回行われることになる。2期間モデルでは、時点において投資のみならず消費も最適水準を求める意思決定を行ない、初期富から消費に回した残額が最適に証券投資されて、その成果が翌時点に実現する。この成果と翌時点期初に外生的に与えられるその翌時点の初期富の合算がその時点の消費計画で回し得る総額になる。
9.1.2 多期間モデルの可能性と限界
多期間の分析では、消費活動や投資活動で投資家の所得や財産額が変動するのみならず、投資家が年齢を重ねる結果としてリスクに対する投資家の態度、すなわち効用関数が変化する可能性もあり得る。残念ながら、多期間モデルは、現時点で各個人のライフサイクルにぴたりと符合した統一的かつ具体的な投資方法を解答として提供できる段階には至っていない。しかし相当の単純化がなされた多期間モデルであっても、投資家の行動に対する重要なヒントを提供する。
9.2 長期投資の基本的考え方
長期・多期間の投資ホライズンを想定した場合のモデル化における基本的な姿勢を検討する。ここでは投資対象として、第期()の期初において、リスク資産と無リスク資産の2種類のみが存在すると仮定する。
多期間モデルではリスクに対して
(1) | 将来の特定期間に実現する異なる状態に応じて消費水準が変化するリスクが存在する | |
(2) | 将来の異なる期間ないし時点の間において消費水準が変動するリスクがある |
ことを想定しなければならない。(1)はリスク回避度で、(2)は異時点間代替弾力性を導入する。
しかし通常の期待効用関数では上記2つを分離できない。そこでリスクを分離できるように、期待効用関数を拡張した再帰的効用関数を導入する。