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ポートフォリオのパフォーマンス分析(3/5)

 ファンド・パフォーマンスの評価方法を学ぶべく、

を参照する。

3. 収益率の要因分析

 達成した収益率の良し悪しを評価する一般的な方法は、市場平均値(ベンチマーク)と比較することである。ベンチマーク収益率との差の原因を分析する手法が要因分析である。
 個別資産の対ベンチマーク超過収益率は「業種配分効果+銘柄選択効果+複合効果」に分解できる。

  • 業種配分効果

     業種構成比の決定が超過収益率に与えた影響部分
  • 銘柄選択効果

     各業種それぞれの中での銘柄の選び方が超過収益率に与えた影響部分
  • 複合効果

     上記2つが混在して与える影響部分

 またバランス型ファンド収益率の対ベンチマーク超過収益率は「アセット・アロケーション効果+個別資産効果+複合効果」に分解できる。

3.1 セクター別でのベンチマークとの比較

 投資パフォーマンスをベンチマークと比較することで、①ベンチマークを超えて収益を上げることが出来たか否か、②ベンチマークと比較してどの資産のどのセクターに多く投資をしたか、を定量化できる。
 ここでセクターとは、構成資産を何らかの観点から分類できるものである。株式であれば業種分類や規模(大型株・中型株・小型株)、スタイル(バリュー株、グロース株など)、地域・国(国内(日本)株、米国株、中国株など)が該当し、債券であれば残存期間(短期債・中期債・長期債)などが該当する。
 構成比は時価総額で計算する*1。あるポートフォリオの時点tにおけるセクターiの構成比\omega_iは、ポートフォリオ全体の時点tにおける時価総額V_t、そのうちセクターi全体の時点tにおける時価総額V_{i,t}とおけば


\begin{aligned}
\omega_{i,t}=\displaystyle{\frac{V_{i,t}}{V_t}}
\end{aligned}

である*2
 更に、あるセクターi,\ i=1,2,\cdots,sに所属する銘柄j,\ j=1,2,\cdots,n_iについてその時価および数量をそれぞれS_{i,j,t},\ I_{i,j,t}とおけば



\begin{aligned}
\omega_{i,t}=\displaystyle{\frac{V_{i,t}}{V_t}}=\displaystyle{\frac{\displaystyle{\sum_{j=1}^{n_i}S_{i,j,t}I_{i,j,t}} }{\displaystyle{\sum_{k=1}^{s}\sum_{j=1}^{n_i}S_{k,j,t}I_{k,j,t}}}}
\end{aligned}


と個別銘柄ベースにまで分割できる。
 ポートフォリオベンチマーク、また構成比と収益率それぞれを比較した際の状況に応じて用語が定義されている:

ポートフォリオ\gtベンチマーク ポートフォリオ\ltベンチマーク
構成比
オーバーウェイト
アンダーウェイト
収益率
アウトパフォーム
アンダーパフォーム

事例
 ある国内株式ポートフォリオの期末業種別構成比および当期収益率が以下のとおりであった。このとき、

ポートフォリオ

構成比(%)
ベンチマーク

構成比(%)
ポートフォリオ

収益率(%)
ベンチマーク

収益率(%)
建設
3.50
3.00
3.00
2.00
機械
3.20
3.50
5.00
4.50
銀行
12.00
15.00
▲5.00
▲4.00
サービス
2.10
2.00
6.00
5.40

3.2 パフォーマンス要因分析

 ポートフォリオの収益率分析に当たって頻用されるのは要因分析(ブリンソン型要因分析)である。これに則ると


\begin{aligned}
超過収益率=セクター配分効果+銘柄選択効果+複合効果
\end{aligned}

と分解する。

3.3 セクター別要因分析

 超過収益率の分解


\begin{aligned}
超過収益率=セクター配分効果+銘柄選択効果+複合効果
\end{aligned}

において、それぞれの要因を更に分解してみよう:


\begin{aligned}
セクター配分効果=&(ベンチマークのセクター別収益率\\&-資産ベンチマーク収益率)\\&\timesベンチマークのセクター構成比\\
銘柄選択効果=&(ポートフォリオのセクター別収益率\\&-ベンチマークのセクター別収益率)\\&\times ベンチマークのセクター構成比\\
複合効果=&(ベンチマークのセクター別収益率\\&-資産ベンチマーク収益率)\\&\times(ポートフォリオのセクター構成比\\&-ベンチマークのセクター構成比)
\end{aligned}



図表1 セクターごとの要因分析イメージ


上図表1においてAがセクター配分効果、Bが銘柄選択効果、Cが複合効果に相当する。
 なお銘柄選択効果を


\begin{aligned}
銘柄選択効果&=(ポートフォリオのセクター別収益率\\&-ベンチマークのセクター別収益率)\\&\times ポートフォリオのセクター構成比
\end{aligned}

とする場合もある。このときは、B+Cが銘柄選択効果に相当し、複合効果を考慮しない(銘柄選択効果に含める)ことになる。
 更に、各効果の比率(の絶対値)で按分してそれぞれに振り分ける方法や、非保有セクターでは、セクター配分効果のみ算出して銘柄選択効果・複合効果を0にする方法などがある。

3.4 複合ベンチマーク

 複数アセット・クラスを組み入れたバランス型ファンドにおけるベンチマークとして何を用いるべきか。これには、各資産がベンチマークと同じ収益率で運用委託者側と約束している基本構成比からなる仮想ファンド(複合ベンチマーク)を用いる。

3.5 資産別要因分析の計算

 資産別の要因分析では、以下のように分解する:


\begin{aligned}
超過収益率&=アセット・アロケーション効果\\&+個別資産効果+複合効果\\
アセット・アロケーション効果=&(ベンチマークのアセット別収益率\\&-複合ベンチマーク収益率)\\&\times(ファンド資産構成比-基本方針構成比)\\
銘柄選択効果=&(ファンドのアセット別収益率\\&-ベンチマークのアセット別収益率)\\&\times 基本方針構成比\\
複合効果=&(ファンドのアセット別収益率\\&-ベンチマーク収益率)\\&\times(ファンドのアセット構成比-基本方針構成比)
\end{aligned}


図表2 資産毎の要因分析イメージ

上図表2においてAがアセット・アロケーション効果、Bが個別資産効果、Cが複合効果に相当する。

3.6 銘柄別要因分析の計算

 セクターを更に個別銘柄にまで分解することも可能である。この場合、セクター配分効果が銘柄配分効果に置き換わる。
 このときには、ポートフォリオ保有していない銘柄にも寄与度を計算することができる。これはベンチマーク(ないし市場)と比較して当該銘柄をアンダーウェイトにしたことを意味するからである。すなわちファンド・マネージャーにとって、「どの銘柄に投資するか=どの銘柄に投資しないか」なのである。

3.7 要因分析の累積での注意点

 累積リターンを基にした要因分解を行う際、いくつか注意点がある。これは複利効果に起因するものである。
 まずは単位期間ごとのベンチマーク収益率およびポートフォリオ収益率を計算する。そしてベンチマークおよびポートフォリオの累積リターンを計算した上で、それらを差し引き超過収益率を計算する:これはそれぞれの複利効果を考慮したためである。

 各要因分析における各項についても累積リターンを計算することは出来る。しかし、個別の項の累積リターンの総和は上述した超過収益率の累積リターンに一般には一致しない
 簡単にすべく2期間について考え、超過収益率r_{A,t}を2つの要因X,Yに分解する、すなわちr_{A,t}=r_{X,t}+r_{Y,t},\ t=1,2とすることを考える。
 このとき超過収益率の累積リターンr_{A,1,2}^C


\begin{aligned}
r_{A,1,2}^C=&(1+r_{A,1})(1+r_{A,2})\\
=&(1+r_{X,1}+r_{Y,1})(1+r_{X,2}+r_{Y,2})\\
=&(1+r_{X,1})(1+r_{X,2})+(1+r_{Y,1})(1+r_{Y,2})\\&+(1+r_{X,1})r_{Y,2}+r_{X,1}(1+r_{X,2})
\end{aligned}

と表される。この第1項は要因Xの累積リターンであり、第2項は要因Yの累積リターンである。したがって、各要因の累積リターンの総和は、超過収益率自体の累積リターンと(1+r_{X,1})r_{Y,2}+r_{X,1}(1+r_{X,2})だけ相違する(当然ながらこの相違分が常に0になるとは限らない。)。これをここでは誤差と呼ぶことにする。
 誤差の対応方法はいくつか考えられるが、ここではまず2つの方法を紹介する*3

3.7.1 誤差の反映方法:複合効果へ可算

 1つの方法は誤差を複合効果へ吸着させるものである。これは複合効果を表記していなければ使えないし、元来その効果から生み出されたリターンでもないものを複合効果に加えるものであるから、厳密性を欠くことになる。

3.7.2 誤差の反映方法:その他の項へ按分

 もう1つの方法は誤差をその他の項へ按分する方法である。このときは、収益率がマイナスを取り得ることから、その他の項の絶対値の比率に応じて按分する。元来はその効果に起因しないものを他の効果に按分するのであるから、収益率を操作しているとも言える。他方で、誤差を複合効果に寄せることの必然性が無い中でそれぞれの項に帰着させるのであるから、どこに帰着させるかという観点からの恣意性は薄れる。

3.8 複数セクターによる多段階要因分析

 セクターの切り口は運用過程に応じて適切に分解していく。
 たとえば、以下の2つの切り口がある:

 このとき、上段の決定がその下段に影響する。そのために各プロセスを単独で評価するためには、上段の影響を修正する必要がある。


\begin{aligned}
下位セクターの修正ベンチマーク構成比=&下位セクターのベンチマーク構成比\\
 &\times\displaystyle{\frac{上位セクターのポートフォリオ構成比}{上位セクターのベンチマーク構成比}}
\end{aligned}

3.9 収益率の為替要因と証券要因

 外国資産の収益率は、為替要因と証券要因に分けて考えることが出来る。証券要因は更にインカム要因とキャピタル要因に分けることが出来る。
 まず外貨建資産の収益率は以下で定義できる:


\begin{aligned}
1+円貨ベース収益率=&\left(1+現地通貨ベース時価収益率\right)\\&\times\left(1+為替レート上昇率\right)
\end{aligned}

これを今までと同様に為替要因と証券要因、複合要因に分解することが可能である。
 次に証券要因をインカム要因とキャピタル要因に分解する。


\begin{aligned}
現地通貨ベース時価収益=時価変動収益+配当・利息
\end{aligned}

3.10 先物効果と為替ヘッジ効果

 (為替予約を含む)先物取引が収益率に及ぼす効果を計算する。

  • 先物や為替予約を簿価金額=0,\ 時価金額=評価損益という銘柄であると仮定する。したがって収益率計算における時価総額には評価損益のみを考慮する。
  • 売却により発生する発生する実現損益は負のキャッシュフローと見なす(実現益ならばキャッシュアウト、実現そんならばキャッシュイン)。

先物取引による効果は先物収益をポートフォリオ全体の時価総額で割って算出できる。

*1:ロング・ショート・ファンドであると他に議論すべきことがあるため、ここではロング・ファンドだと仮定する。

*2:過去のパフォーマンスを計算するのであればこれでも問題ない。しかし、たとえば日次で評価しているファンドが場中に計算する場合には通常は当日の価値は計算できない(通常は終値を用いており、当日の終値が場中に存在しないため。)。そこで時点を1時点前を取る、すなわち

\begin{aligned}\omega_{i,t}=\displaystyle{\frac{V_{i,t-1}}{V_t}}-1\end{aligned}
とズラすことがある。

*3:いずれも一長一短があるため、決めの問題と言える。

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