中長期における資産運用の考え方を学ぶべく、
を整理していく*1。
目次
5. 各資産クラスの運用手法
5.1 市場の効率性
効率的市場仮説()は以下の条件が成立していることを前提とする。
1. | 市場参加者が充分に多数存在する。 | |
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市場参加者が少数であれば、買い手と売り手の取引が円滑に成立する可能性は小さくなり、流動性は小さくなる。 | ||
2. | 市場参加者が充分な情報を有している。 | |
市場参加者の情報が不完全であれば、証券の価値に関する合意が成立せず売買価格差が大きくなる。 | ||
3. | 情報が瞬時に伝達される。 | |
情報の伝達に時間がかかれば、合意した価格に到達するまでに摩擦が生じる。 |
また効率性の程度により「市場の効率性」を3つに分類できる。
1. | 弱形式(weak form) | |
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現在の証券価格にすべての過去の情報が既に織り込まれている。チャート分析による証券選択を否定する。 | ||
2. | 準強形式(semi-strong form) | |
現在の価格にすべての公開情報が既に織り込まれている。インサイダー情報を持たない市場参加者は超過利益を得ることができない。 | ||
3. | 強形式(strong form) | |
現在の価格に、非公開情報を含めたすべての情報が織り込まれている。誰も超過利益を得ることができない。 |
5.1.2 敗者のゲーム
もし強形式の効率性が成立しているならば、すべての情報が証券価格に織り込まれているため、投資家は特殊な能力が無くとも情報を自由に用いて取引ができることになる。そこでは、予想外の情報に対してのみ価格が変動することになるから、投資家にとっては、市場リターンを上回るパフォーマンスを狙った取引が無駄であるということになるから、分散投資したポートフォリオを長期保有することが最適な運用戦略となる。
実際の市場が効率的か否かには答えは出ていない。ある程度効率的で、ある程度非効率的であるというのが現時点の見解である。たいていの市場は効率性が高く、非効率的なミスプライスを利用して高いパフォーマンスを上げることは例外的であるというのが大方の見方である。
5.2 株式市場と運用
5.2.1 株価の決まり方とリスクの評価
株式の本源的価値は、企業の将来の予想利益に基づくキャッシュフローを割引率(無リスク金利+リスク・プレミアム)で現時点まで割り引いた価値である。配当割引モデルやフリー・キャッシュフロー・モデルなどにしてみても、基本的な考え方は同じである。
このように株価は主として、
5.2.2 パッシブ運用
インデックス運用と呼ばれることも多い株式のパッシブ運用は、特定のベンチマーク・インデックスのパフォーマンスを可能な限り再現することを目的としている。
ベンチマークを上回るリターンをアクティブ運用により得ることが難しいということを踏まえて、「負けない」投資としてインデックス投資に注目が集まっている。
ポートフォリオの構築方法は2つに大別できる。
1. | 完全法 | |
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インデックス構成銘柄をそのインデックスの作成ルール通りにファンドへ組み入れる。最低売買単位の制約から、各銘柄のウェイトを完全に模倣することはできない。 | ||
2-1. | サンプリング法(層化抽出法) | |
インデックス構成銘柄の中から銘柄を選択して投資する。銘柄を業種や規模などの層に分け、各層から何らかの規則に則り銘柄を選択する。ファンドに組み入れる銘柄数をある程度多くする必要がある一方で、ベンチマーク連動性は安定的である。 | ||
2-2. | サンプリング法(最適化法) | |
インデックス構成銘柄の中から銘柄を選択して投資する。ファンドとベンチマークの価格変動特性のズレが最も小さくなるように、数理計画法を用いて銘柄を選択する。少数銘柄でポートフォリオを構築できるなどの利点がある一方で、時期によってはベンチマーク連動性が不安定になる場合もある。 |
インデックス・ファンドの定量的な運用評価には、一般的にトラッキング・エラー(アクティブ・リスク)と超過リターンが用いられる。トラッキング・エラー(アクティブ・リスク)は、ファンドとベンチマークのリターン差(=アクティブ・リターン)の標準偏差で計算され、より小さい方が望ましい。しかしトラッキングエラーを小さくするのに頻繁に売買をすると売買コストがかさみ、コスト控除後リターンが悪くなる。
当初は「少ない銘柄でいかにベンチマーク(TOPIX)に連動させるか」がマネージャーの腕の見せ所だと考えられていた。しかし完全法で低水準のトラッキング・エラーを実現している欧米の状況が知られるようになり、また売買手数料の自由化やトラッキング・エラーを極小化する最良の運用手法として完全法の人気が高まりつつある。とはいえ欠点があることに注意しなければならない。
1. | 完全法であっても最低売買単位の制約があるため、各銘柄の投資ウェイトをベンチマークに完全に一致させることはできない。 | |
2. | 新規上場や自社株消却などで日々変化するインデックスに合わせてファンドをリバランスする必要がある。 | |
3. | 構成銘柄が持株会社を設立して完全子会社になる場合、新たに上場するその持株会社を組み入れるのに一度当初の構成銘柄を売却し、持ち株会社を新たに購入することになる。しかし売買手数料がかかる上、割安価格での売却と割高価格での購入が求められかねない。 |
このように完全法では「隠れたコスト」を負担している蓋然性が高く、アクティブ・マネージャーに超過リターンの獲得機会を与えていると指摘される。
5.2.3 アクティブ運用
株式のアクティブ運用は、特定のベンチマーク・インデックスを上回るリターンを目指す運用である。
株式アクティブ運用におけるポートフォリオ構築方法は、2つに大別できる。
マクロ経済・市場見通しに基づくトップダウン・アプローチ | |
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景気・金利・為替などのマクロ経済・市場見通しに基づき業種やファクターの配分を決定した後、それに合わせて個別銘柄の選択を行ないポートフォリオを構築する。 | |
個別企業調査・分析に基づくボトムアップ・アプローチ | |
個別企業の調査・分析に基づき銘柄選択を行ないポートフォリオを構築する。 |
トップダウン・アプローチによる業種ローテーション戦略では、ベンチマークを上回ると予測した業種をオーバーウェイトし、逆に下回ると予測した業種をアンダーウェイトして超過リターンを狙う。マクロ経済・市場見通しと銘柄選択との間で整合性が取れ、説明しやすい。一方で、マクロ経済・市場の見通しが難しい上、仮に見通しが正しくてもマクロ動向と業種別リターンの関係が不安定であることが多い点がデメリットである。このため安定的に超過リターンを獲得するのは難しい。
ボトムアップ・アプローチでは、様々な手法・着眼点はあるものの、株価評価の基本的な考え方はすべて一緒である。
株式の本源的価値は、個別銘柄のファンダメンタル分析を行った得た
リスク・プレミアムは、企業の利益変動リスクと市場心理により決まる。そのため、株価が大幅に下落しリスク・プレミアムが課題になっている銘柄に投資して超過リターンを狙う。すなわち株価に反映されているリスクの過大・過少評価の判断が付加価値の源泉になる。
グロース/バリュー投資には厳密な定義が存在しないが、主な特徴は以下のとおりである。
グロース投資 | |
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企業の売上・利益等の成長性に着目し、市場コンセンサスよりも高い成長が見込まれる銘柄に投資して超過リターンを狙う。利益成長を左右する情報を正しく評価する能力が付加価値の源泉になる。 | |
バリュー投資 | |
現在の資産・収益力島と株価の対比指標に着目し、割安と判断される銘柄に投資して超過リターンを狙う。 |
グロース投資では、
①過去の成長実績のみに基づいて投資しても超過リターンは得られない ②利益成長の正確な予測に加え、短期の実績について市場に先んじた予測がどれだけできるかが重要である ③利益成長性の正しい評価に加え、株価水準を考慮することが重要である。③の視点を加味したグロース投資を特に投資(適正株価を考慮した成長投資)と呼ぶことがある。バリュー投資で割安銘柄を判断するための代表的指標にがある。利益成長を考えなければ、
が成り立つ。そのための逆数は、利益成長を考えなければ割引率に等しくなる。とはいえ成長性やリスク水準の違いから、個々の銘柄ごとの適正は時間的に不安定で銘柄間でも異なる。バリュー投資の成否は、リスク・プレミアムの代理変数であるバリュー指標を如何に上手く捉えるか、また如何に新たに工夫して作成するかにかかっており、これが付加価値の源泉になる。
*1:どうも最近の書籍でこれくらいしっかりと書いてある本が見当たらなかったので…