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一流の大人(ビジネスマン、政治家、リーダー…)として知っておきたい、教養・社会動向を意外なところから取り上げ学ぶことで“気付く力”を伸ばすブログです。データ分析・語学に力点を置いています。 →現在、コンサルタントの雛になるべく、少しずつ勉強中です(※2024年1月21日改訂)。

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ポートフォリオのパフォーマンス分析(2/5)

 ファンド・パフォーマンスの評価方法を学ぶべく、

を参照する。

2. 収益率の計算(応用編)

 運用能力を正確に把握するためには、投資の成果と関係のない時価総額の増減(キャッシュフロー)の影響を取り除かなければならない。キャッシュフローの影響を控除した収益率を時間加重収益率という。日次で時価評価を行なって計算する場合を特に「日次評価法」という。

2.1. ファンド会計の基礎

 ファンド会計は、一般的な企業会計と同様に複式簿記の理論に基づき処理する。

2.1.1. 元本の移動

 投資顧問ファンドにおいて元本の追加がある場合、入金があった日に入金額の分だけ「元本」および「現金」を増加させる。元本の引き出しがあれば「元本」および「現金」を減少させる。投資信託の場合、投資家間の公平性が保たれるように元本の追加・引き出しが処理されるものの、大枠は投資顧問ファンドと同一である。

2.1.2. 運用報酬

 投資顧問ファンドの報酬計算は、半年ごとに直近6か月における各月末の時価総額の平均値に報酬率を乗じ日割り計算を行うのが一般的である。運用報酬の引き落とし日に費用の発生を認識して「投資顧問料」を計上させるとともに「現金」を減少させる。
 投資信託の場合、前営業日の純資産総額に報酬率の365分の1を乗じた額を日々計算し、「信託報酬」および「未払信託報酬」を日々計上する。そして実際に支払われるタイミングで「未払信託報酬」を減少させ「現金」も減少させる。

2.1.3. 配当金

 保有株式からの配当が実施される場合、配当落ち日に収益の実現として「受取配当金」を計上すると同時に「未収配当金」を計上する。
 計上された「未収配当金」は入金を知ったタイミングで、入金額分を減少させ「現金」を増加させる。

2.1.4. 有価証券利息

 利付債を保有している場合、債権額面にクーポンレートの365分の1を乗じた金額をクーポン利息として日々計算する。時間の経過とともに「有価証券利息」を計上すると同時に「未収収益」を計上する。入金を知ったタイミングで「未収収益」から入金額分を減少させ「現金」を増加させる。このとき経過利息の考慮を忘れないようにする。

2.2. キャッシュフローと収益率

 投資家による元本の追加ないし引き出しにより変動した投資金額の動きをキャッシュフローという。
 キャッシュフローが無ければ、ある時点t時価総額V_tとして1期間の収益率r_t


\begin{aligned}
r_t=\displaystyle{\frac{V_t}{V_{t-1}}}-1
\end{aligned}

である。
 キャッシュフローがある場合、1期間を通して実際に運用が出来た金額を分母に、分母の金額が1期間経過後にどのような結果となったのかの金額を分子に当てはめることでキャッシュフローの影響を除く。
 たとえば、

  • 期初に元本の移動C_{t-1}があった場合、


\begin{aligned}
r_t=\displaystyle{\frac{V_t}{V_{t-1}+C_{t-1}}}-1
\end{aligned}

  • 期末に元本の移動C_tがあった場合、


\begin{aligned}
r_t=\displaystyle{\frac{V_t-C_t}{V_{t-1}}}-1
\end{aligned}

2.3. 時間加重収益率

 厳密法による収益率は、1個の期間をキャッシュフローが生じるごとにサブ期間として区切り、当該機関の収益率を計算して累積する。


\begin{aligned}
r_{t,t_k}=\displaystyle{\frac{V_1}{V_0}}\displaystyle{\frac{V_2}{V_1+C_1}}\cdots\displaystyle{\frac{V_{k}}{V_{k-1}+C_{k-1}}}-1
\end{aligned}

キャッシュフローの発生有無にかかわらずある期間を日次で区切りサブ期間とする方法を日次評価法という。

2.4. 資産別時間加重収益率(日次評価法)

 ファンドが保有する国内債券・国内株式・外国債券・外国株式・現金など資産別に収益率を計算することが出来る。
 いずれにおいても投資の成果と関係のない残高の増減についてキャッシュフローを認識する。


\begin{aligned}
\end{aligned}

2.5. 日次評価法の比較

 日次収益率の計算に当たり、実務的にはキャッシュフローの発生時点をいつとするかが焦点である。

  1. 日の始まりに発生:\displaystyle{\frac{当日時価総額}{前日時価総額+当日キャッシュフロー}}-1
  2. 日の終わりに発生:\displaystyle{\frac{当日時価総額-当日キャッシュフロー}{前日時価総額}}-1
  3. 日の中間に発生:\displaystyle{\frac{当日時価総額-キャッシュフロー\div2}{前日時価総額+当日キャッシュフロー\div2}}-1
  4. キャッシュインを日の始まり、キャッシュアウトを日の終わりに発生:\displaystyle{\frac{当日時価総額+当日キャッシュアウト}{前日時価総額+当日キャッシュイン}}-1

実務上の負担が小さい順に並べると、(2)->(1)->(3)->(4)になる。

(1)日の始め (2)日の終わり (3)日の中間 (4)イン:日の始め

アウト:日の終わり
買い始め
×
売り切り
×

2.6. 修正ディーツ法

 日次評価法はまめに各資産の時価総額を把握する必要性がある点が実務上煩わしい。そこで1か月を単位機関として1か月ごとの収益率を内部収益率を用いて求めたうえでそれらを累積することで自由な期間の収益率を求める。その中でも修正ディーツ法を述べる。


\begin{aligned}
修正ディーツ法=\displaystyle{\frac{当月末時価総額-前月末時価総額-月中CFの合計額}{前月末時価総額+\sum\left(CF\times \displaystyle{\frac{CF発生日から月末までの日数}{月日数}}\right)}}
\end{aligned}

2.7. 簿価・時価・評価損益

 収益率計算に当たり分子に該当する収益を検討すべく、その基本となる概念を整理する。

  • 簿価:帳簿価額のこと。
  • 評価損益:時価評価額-簿価。その損益が現金化されているかに応じて実現損益(現金化出来ている場合)、未実現損益または含み損益(現金化出来ていない場合)という。

 簿価単価の計算方法にはいくつかの方法が存在する。実務上は、以下の2つの方法がある:

2.7.1 移動平均

 同じ銘柄の有価証券を取得する都度、簿価単価を計算する方法である。株式や債券、親投資信託受益証券などの簿価金額の計算に用いる。


\begin{aligned}
移動平均法による簿価単価=\displaystyle{\frac{追加取得直前の簿価金額+追加取得した数量\times 当該追加取得単価}{追加取得前の数量+追加取得した数量}}
\end{aligned}

2.7.2 個別法

 同じ銘柄を複数回にわたって取得したとしても、取得ごとに個別に管理し、取得した単価をそのまま簿価単価とする。債権の簿価金額の計算に適用する。

2.8. 収益計算における現金主義

 実際に対価となる現金がファンドに流入したか否かに応じて収益を「未実現損益」および「実現損益」に区別する考え方を現金主義という。
 現金主義のもとでは、有価証券の評価損益や未収配当金・未収利息は未実現損益に該当する。

2.9. 利回り

 運用における利回りでは、何を収益・投資金額と見なすかに応じて様々なものを定義できる。日本ではこうした利回りが度々利用される。
 以下、「現金主義の考え方に基づき、未収配当金、未収利息、評価損益を控除した損益」を実現損益と定義する。


\begin{aligned}
実現利回り=&\displaystyle{\frac{実現損益}{当期元本(簿価)平均残高}}\\
総利回り=&\displaystyle{\frac{実現損益-前期末未収収益+当期末未収収益}{当期元本(簿価)平均残高}}\\
総合利回り=&\displaystyle{\frac{実現損益-前期末未収収益+当期末未収収益-前期末評価損益+当期末評価損益}{当期元本(簿価)平均残高}}\\
修正総合利回り=&\displaystyle{\frac{実現損益-前期末未収収益+当期末未収収益-前期末評価損益+当期末評価損益}{当期元本(簿価)平均残高+前期末未収収益+前期末評価損益}}
\end{aligned}

(1) 実現利回り ある期に実現し現金化された損益を収益と見なし、当期の期中平均簿価元本を投資金額と見なした利回り。
(2) 総利回り ある期に実現し現金化された損益およびその期に確定した未収の配当金・利息を収益と見なし、当期の期中平均簿価元本を投資金額と見なした利回り。
(3) 総合利回り ある期に実現し現金化された損益およびその期に確定した未収の配当金・利息、評価損益を収益と見なし、当期の期中平均簿価元本を投資金額と見なした利回り。
(4) 修正総合利回り ある期に実現し現金化された損益およびその期に確定した未収の配当金・利息、評価損益を収益と見なし、当期の期中平均簿価元本に前期末の未収収益および評価損益を投資金額と見なした利回り。

 なおファンド・マネージャーによる操作がし得る点、金額加重計算をしている点から利回りはファンド・マネージャーの運用能力を測定する手段としては不適当である。
 実現利回りは、評価益の発生している銘柄を売却すれば引き上げることが、評価損の発生している銘柄を売却すれば引き下げることができ、操作が容易である。他方で、総合利回り及び修正総合利回りは、恣意的に変動できない総合損益で収益を測っている点では恣意性は少ない。とはいえ、時間加重収益率ではなく、金額加重計算であるため、適当とは言い難い。

2.10. 約定ベースと受渡ベース

 ファンド・マネージャーの運用能力を測るための尺度としては、ファンド・マネージャーが決定した売買タイミングである約定を起点に計算する約定ベースで収益率を計算するのが適当である。とはいえ、運用委託者の立場から見れば、同人が実際に保有している資産ベースでみる受渡ベースでの計算を求められる場合もあり得る。

2.11. 先物込み収益率

 先物の収益率を計算する場合、金融商品会計基準に則り「評価微時点の終値先物取引を差金決済したと仮定した場合に、受け取る権利がある金額(債権)、支払う義務のある金額(債務)を時価評価額とする」のが原則である。

2.12. GIPS

 資産運用業界における世界共通の自主基準として、グローバル投資パフォーマンス(GIPS)がある。
 これの大きな特徴は、パフォーマンスの開示がコンポジット(同様の投資戦略に基づき運用される複数のファンドを1つにまとめたもの)単位で計算される点である。これにより、各投資戦略について運用会社が会社全体としてどの程度の運用能力があるのかを明らかにすることが可能になる。

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