投資理論を以下の書籍
をベースに学ぶこととする。
前回
5. CAPMの実証とJensenのalpha
が現実に成立するかの実証分析にはベータと
の
を活用して行う。
5.2 ベータの推定
アルファを実際に推定してポートフォリオの運用パフォーマンスを比較する場合、個別銘柄のベータ推定が決定的に重要な意味を持つ。
5.2.1 t値による標本抽出
ポートフォリオ・ベータの推定値を安定化させる方法として、値による標本抽出がある。
を推定する際の
値は回帰係数であるベータを最小二乗法で推定する場合の残差分散の関数である。残差分散はベータ推定における誤差と捉えることができるため、
値を用いて標本を抽出し、推定精度が充分に高い銘柄のみを選別してポートフォリオを構築する。すなわち総変動のうち市場ポートフォリオの代理変数によって説明可能な部分が充分に大きい銘柄のみを抽出する方法である。
基本的に多数の株式銘柄に効率よく分散投資されたポートフォリオを組んで数年間にわたる運用を行う場合、ポートフォリオ・ベータの予測精度は比較的高く、実用に耐えるものと想定しても良い。
5.2.2 ベイジアン・ベータ
個別銘柄のヒストリカル・ベータは一般に時間を通じて不安定である。様々な時期に個別銘柄に行うベータ推定はいずれも推定誤差を含み、その誤差の大きさはそれぞれ異なる。この推定誤差を先験的情報として利用してベータの予測精度を引き上げるのにベイズ推定量を用いたベイジアン・ベータを用いる方法がある(銘柄から構成されるポートフォリオについて、各々の真のベータを
とおく。これらを普通の方法(最小二乗法)で得た推定量を
、ある標本を用いたときのそれらの推定値を
とおく。
銘柄のヒストリカル・ベータの推定量
が、真の値が所与である下では
だと仮定する。他方で真の値もクロスセクションで
だと仮定する。ここではベータのクロスセクションでの分布の平均、
は分散である。
いま推定値が得られたとするとき、
の定理から、このときの
の事後分布は
であるから、ヒストリカル・ベータの推定値が得られたときの
の
推定量として、事後平均を取れば、
の期待値は
で得られる。にヒストリカル・ベータを推定した際の標本分散(標準誤差の二乗)、
としてヒストリカル・ベータの標本平均
および
にヒストリカル・ベータの不偏分散を採用する。こうして
と表現できる。これはおよび
をそれらの標本分散による加重平均と解釈できる。
米メリル・リンチが提唱するベイジアン・ベータでは一律と仮定して
と簡略化している。
6. ファクター・モデル
は市場均衡を満たす理論的帰結として得られる概念であって、各銘柄のリターンと市場ポートフォリオの関係を予め仮定していない。言い換えれば、
は各銘柄のリターンがどのような構造を持ち、どのような経済変数に左右されているかに一切の制約を課していない。株式リターンがどのような経済変数に依存して変動するか、その構造を明らかにするモデルを収益生成モデル(Return generating model)と呼ぶ。
6.1 シングル・インデックス・モデル
個別銘柄と市場インデックス(株式市場全体の動向を表す指標)のリターンの間にある関係を表現したモデルをシングル・インデックス・モデル(:
)という。
は市場インデックスが表す記号として
を用いると
である。ここで
:銘柄 |
||
:市場インデックスの(単利表示)リターン(確率変数) | ||
:インデックスとは無関係な銘柄 |
||
:銘柄 |
||
:誤差項(確率変数) | ||
:想定する全銘柄数 |
とする。
本式は経済変数として1つのインデックス(もしくはリスク・ファクター)のみがに影響を与えると仮定するリターン・モデルである。このモデルにおける本質的な仮定は相違する銘柄の誤差項が無相関であるというものである。これはすなわち個別銘柄の株価が同時的かつ組織的に変化する理由が市場変動を捉えるインデックスとの連動(相関)のみであると仮定していることを意味する。誤差項
はその銘柄自身にのみ影響を与える。
このとき
とインデックスの変動に起因する、株式市場全体に共通して現れるリスク(市場リスク/システマティックリスク)および銘柄
に固有のリスク
(固有リスク/アンシステマティックリスク/)のみからなる。