基本的な経済観念を身に付けるべく、マクロ経済学を学んでいく。テキストは古典派をしっかりと扱っているという
を用いることにする。
8. 経済成長の理論I:ソロー・モデル
8.1 GDPの成長をどのように説明するか
GDPは国内総所得に等しいため、ある国の住民の豊かさを表す指標と言える*1。そのデータを見るにつれて経済成長に関する諸問題が論点となる。
ここで扱う経済成長を考えるモデルでは、
- 2期間以上の多期間でGDPの成長率を分析する
- 生産要素は資本と労働である
- 家計の行動は外生的に決定される
と仮定する。
8.2 基本的なソロー・モデル
経済成長を扱う最も基本的なモデルとしてソロー・モデルがある。ソロー・モデルは①生産関数と②資本蓄積式の2つを中心に構成される。
これらに加えて、家計の貯蓄行動、資本市場の均衡、人口成長がGDPの水準及び成長率を決定する。このモデルにおける変数は、
- 外生変数:貯蓄率
, 資本減耗率
, 人口成長率
- 内生変数:資本ストック
, GDP
更に生産関数に対して2つの仮定を置く。
- 生産要素は資本ストックと労働の関数である:
- 生産関数が規模に関して収穫一定である:
ここではそれぞれ時点
における資本ストックおよび労働人口である。
仮定から、とおけば
が成り立つ。この関数を1人当たり生産関数という。ここで
は1人当たりGDPおよび1人当たり資本ストックを表す。
8.2.1 Cobb-Douglas型生産関数
上記仮定を満たす典型的な生産関数としてCobb-Douglas型生産関数
がある。ここでは資本分配率に相当するパラメータである。
1人当たりの生産関数は
で表される。
この1人当たり生産関数について
が成り立つ、すなわちこの関数は単調増加(ただし増加率は逓減する)である。
8.3.2 資本蓄積式
資本蓄積式は
で表される。すなわち1期における資本ストックの増減分はその期における設備投資額から同期に減耗した資本ストック分を控除した分である。
8.3.3 家計の貯蓄行動
家計は、実際には現在と将来の可処分所得、利子率、時間選好率に依存して根気の消費や貯蓄を決定する。ただしここでは可処分所得の一定割合を貯蓄すると仮定する。すなわち
と仮定する。
8.3.4 資本市場の均衡
政府部門と海外部門を考えないこととすれば、資本市場の均衡条件として以下が成り立つ:
8.4 ソロー・モデルの分析
資本蓄積式に各変数の定義式を代入すれば、
が成り立つ。両辺をで割ることで
を得る。これは
と同値である。
これに生産関数を代入することで
が得られる。これをについて整理することで
を得る。資本ストックの時間変化をこの式を通じて分析することが出来る。まず
が成り立つため、1期間を経ての資本ストック変化を定式化でき、ここから資本ストックが翌期に増減するかはの符号に一致することが分かる。
貯蓄率が増大するとき、それに伴い1人当たり資本ストックは上昇し、1人当たりGDPも併せて増加する。
8.4.1 定常状態
時点に依存せず、経済変数が一定の値を維持する状態を定常状態という。
8.5 黄金律
貯蓄率を外生変数と見なすとき、それは家計の生涯効用が最大になる、定常状態における1人当たり消費
が最大になるように定められる消費と定常状態の定義から、
が成り立つので、これを最大化するようなを得ればよい。定常状態での1人当たり消費を最大にするような1人当たり資本ストック水準
を黄金律という。
他方で、これを最大化するは
に関する
の微分の方程式
を解けばよい。
8.6 GDP成長率
1人当たりGDP成長率の時間経過による変化を分析する。1人当たりGDPについて
が成り立つから、1人当たり資本ストック
が決まれば自動的に
が成り立つ。
1人当たり資本ストック成長率は以下で定義できる:
このとき
が成り立つ。これは、が
に依存して決定することを意味する。
ではおよび
はどのように変化するか。定常状態において
が成立する。ここで
である。したがってとなり、資本ストックとGDPの成長率は人口成長率
に帰着する。
8.7 技術進歩を考慮したソロー・モデル
ソロー・モデルが正しいならば、定常状態における1人当たり実質GDP成長率はのはずである。しかし実際にそれが観測されたことはない。これは未だ定常状態に至ったことが無いか、これまでで述べたソロー・モデルが不十分だという可能性を示唆する。ここでは後者の可能性を想定し、定常状態でも1人当たり実質GDP成長率を正にするような項を追加する。具体的には、技術進歩の項を追加する。
生産関数に技術水準を表す変数を導入し、
とする(を効率労働と呼ぶ。)。ここで
は一定の成長率で変化すると仮定し、この成長率(技術進歩率)
を
で定義する。更にこれは外生的に与えられているものとする。
この生産関数が1次同次だと仮定すると、
である。
8.7.1 定常状態
定常状態では、
が得られる。これを更に書き換えると、
が得られる。
これをに関して整理することで
が成り立つ。以上から、効率労働当たりの資本ストックの時間変化は
で与えられる。
定常状態における効率労働当たりの資本ストックは以下の条件を満たすような
である:
8.8 経済成長に関する実証研究
ソローが考案した成長会計を用いて経済成長を実証的に研究する。Cobb-Douglas型生産関数を用いて技術進歩を加味した生産関数を用いると、
と書ける。このを全要素生産性(TFP)という
両辺の対数を取ると
またとしてその辺々から引くことで
が得られる。
ここでに対してTaylor展開から
が成り立つから、
となるから、
が得られる。
は、それ以外がデータから計算できることから、計算することが出来る。ここから
と書け、これをソロー残差という。
8.9 ソロー・モデルを超えて
ソロー・モデルは、現実の経済成長を説明することに成功している。しかしある特定の要因がなぜ経済成長に貢献したのかを説明することはできるとは限らない。
ソロー・モデルが仮に現実の経済成長を上手く説明しているならば、技術進歩率が外生変数であること、財市場及び労働市場などの各市場が完全競争市場だと仮定していることのため、経済政策は経済成長に何ら影響を与えないことになる。したがって、ソロー・モデルは経済成長率の相違が偶然の結果だと言わざるを得ない。これにより、技術進歩は内生的に記述しなければならない。
補論 コブ・ダグラス型生産関数と資本分配率、労働分配率
生産物の価格をと仮定した場合、企業の利潤最大化問題は以下で書ける:
ここでは資本の貸借費用、
は実質賃金率を表す。生産関数がCobb-Douglas型であることを仮定すると
および
に関する利潤最大化条件は、
であり、このとき
である。これを更に変形すると、
である。これらの右辺はそれぞれ資本分配率および労働分配率の定義に他ならない。
次回
問題*2
1. Cobb-Douglas型生産関数
1人当たり生産関数としてCobb-Douglas型生産関数
を仮定する。このとき以下の問いに答えよ。
(a) 資本減耗率が上昇した場合、定常状態における1人当たり資本ストック
および1人当たりGDP
がどのように変化するかを答えよ。
(b) 黄金律における1人当たり資本ストックを答えよ。
(c) 黄金律を達成可能な貯蓄率を求めよ。
(d) 貯蓄率がから
まで上昇した場合、1人当たりGDP成長率はどのように変化するか。
2. 技術進歩を考慮したソロー・モデル
技術進歩を考慮したソロー・モデルとして生産関数を
だと仮定する。このとき以下の問いに答えよ。
(a) 効率労働当たりの生産関数を求めよ。
(b) 定常状態における効率労働当たりの資本ストックとGDPを求めよ。
(c) 定常状態における1人当たりの資本ストックとGDPを求めよ。
(d) 定常状態における資本ストックとGDPを求めよ。
(e) 技術進歩率がから
へと上昇した場合、1人当たりGDPの成長率がどのように変化するか説明せよ。
3. 政府部門を加えたソロー・モデル
政府支出が一括固定税、すなわち家計所得から一定額
が税金として徴収される税金のよってのみ賄われるものと仮定する。すなわち
とする。1人当たりの政府支出および租税をそれぞれ
と表し一定だと仮定するとき、以下に答えよ。
(a)定常性条件
定常状態を決定する条件
(b)一人当たり政府支出と資本蓄積の関係
一人当たり政府支出の恒常的な増加が資本蓄積にどのような影響を与えるか説明せよ。
解答
1. Cobb-Douglas型生産関数
1人当たり生産関数としてCobb-Douglas型生産関数
を仮定する。このとき以下の問いに答えよ。
(a)資本減耗率が上昇した場合、定常状態における1人当たり資本ストック
および1人当たりGDP
がどのように変化するかを答えよ。
定常状態では
が成り立つ。したがって資本減耗率が上昇した場合、1人当たり資本ストック
および1人当たりGDP
はいずれも減少する。
(b) 黄金律における1人当たり資本ストックを答えよ。
定常状態における消費は
であり、黄金律ではこれが最大になる。そのときのとすれば
(c) 黄金律を達成可能な貯蓄率を求めよ。
1人当たり資本ストックをの関数
と見たときに、黄金律が達成可能ならば、このときの貯蓄率を
として
が成り立つ。したがって
(d) 貯蓄率がから
まで上昇した場合、1人当たりGDP成長率はどのように変化するか。
貯蓄率がsからs^'にまで上昇したと仮定する。1人当たりGDP成長率g_t^k (s)は
であり、このときにはであるから短期的には
だけ上昇するものの、長期的にはとなる。
2. 技術進歩を考慮したソロー・モデル
技術進歩を考慮したソロー・モデルとして生産関数を
だと仮定する。このとき以下の問いに答えよ。
(a) 効率労働当たりの生産関数を求めよ。
(b) 定常状態における効率労働当たりの資本ストックとGDPを求めよ。
定常状態ではが成り立つから
(c) 定常状態における1人当たりの資本ストックとGDPを求めよ。
(d) 定常状態における資本ストックとGDPを求めよ。
(e) 技術進歩率がから
へと上昇した場合、1人当たりGDPの成長率がどのように変化するか説明せよ。
が成り立つ。したがって1人当たりGDP成長率は単調減少していく。
3. 政府部門を加えたソロー・モデル
政府支出が一括固定税、すなわち家計所得から一定額
が税金として徴収される税金のよってのみ賄われるものと仮定する。すなわち
とする。1人当たりの政府支出および租税をそれぞれ
と表し一定だと仮定するとき、以下に答えよ。
(a)定常性条件
定常状態を決定する条件
資本蓄積式およびから
したがってのとき
(b)一人当たり政府支出と資本蓄積の関係
一人当たり政府支出の恒常的な増加が資本蓄積にどのような影響を与えるか説明せよ。
である場合、資本蓄積には影響を与えない。