証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である
を参考に学んでいく。
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4. 資本資産評価モデル
前章のポートフォリオ選択モデルでは投資家がリターンの期待値および分散に基づき自らのポートフォリオを選択するモデルを導入した。もし無リスク証券がある場合は、
が成り立つ。
両辺をで割ることで
を得る。これはポートフォリオ・リターンのリスク1単位当たりの超過収益率の絶対値がで与えられることを意味する。この関係性を平面上に描くと、がその直線の傾きを与えることを意味する。
このポートフォリオの期待リターンおよびリスクの関係が個々の有価証券のリターンに当てはまるかを市場ポートフォリオ(後述)との関係で考察するのが、資本資産評価モデル(CAPM)である。
4.1 CAPMの導出
前章までのポートフォリオ理論では、投資家が平均=分散モデルに代表される投資基準に則り自らのポートフォリオを選択した。資本市場では投資家の集合としての意思決定の結果、有価証券の価格が決定される。
資本資産評価モデル(CAPM)では以下の4つを仮定する:
(仮定1) | 資本市場の完全性 | 資本市場は以下の3つを満たす: ・個々の市場参加者は価格形成に一切の影響力を与えない。 ・すべての情報が全市場参加者に一様かつ瞬時に浸透する。 ・有価証券の売買にコストは一切かからず、また各証券は任意の実数単位で売買できる。さらに全投資家が一無リスク利子率で任意額の資金を貸借できる。 | |
(仮定2) | 投資決定の尺度 | 全投資家はポートフォリオ・リターンの期待値と標準偏差に基づき投資する有価証券を決定する。 | |
(仮定3) | リスク回避的 | すべての投資家はリスク回避的である。 | |
(仮定4) | 全投資家は期首・期末からなる同一期間において期末までの証券価格の確率予測を行い、投資に関わる意思決定を期首に行う。 |
これらの仮定の下で資本資産評価モデル(CAPM)は、システマティック・リスクと呼ばれる資本市場全体のリスクを基に個別証券の超過リターンを規定する。
CAPMでは市場ポートフォリオ(すべての有価証券から構成されるポートフォリオ)のシステマティック・リスクを市場リスクと呼ぶ。
市場ポートフォリオを(リターン)とし、その期待リターンをとおく。有価証券のリターンの市場ポートフォリオとの相対的なリスク尺度であるベータを
で定義する。
CAPMにおいて証券の期待リターンは、リスクフリーレート(無リスク利子率)をとして
を満たす。
このモデルにおいて空間上に上式を描くと直線になり、これを証券市場線と呼ぶ。証券市場線は証券の期待リターンとで表現される証券のリスクとの関係を表す。
図表1 証券市場線
もしならばとなる。もしならば、でありが成り立つ。
4.1.1 CAPMの解析的導出
無リスク証券の存在下にあって、リスクフリーレートで無制限に資金の貸借が可能であることを完全市場の下で仮定した。いま任意のポートフォリオを想定する。これが平均=分散モデルにおいて最適なポートフォリオとなるためには、リスクフリーレート()から曲線平面上の傾きが実行領域において最大となることである。すなわちからの直線が効率的フロンティアと接する最小分散ポートフォリオであるから、
となるようなを求めることである。
とすれば、傾きは
であるから、
を得る。ここで
とおけば
が成り立つ。この式は各証券に対して成立し、について市場参加者である投資家が期待値と分散共分散について同一の予想をすると仮定していたから、上式は各証券に対して一意で成り立つ。その結果、すべての投資家は同一の最適ポートフォリオを選択し、均衡においてはすべての証券からなる市場ポートフォリオの投資比率は最適ポートフォリオの投資比率に等しい。言い換えれば、証券への投資ウェイトは市場ポートフォリオの市場価値における証券の市場価値の比率に等しい。
市場ポートフォリオのリターンは
であるから、証券と市場ポートフォリオの共分散は
で与えられる。これを用いれば、証券毎の関係式を以下のように書き換えることが可能である:
これもすべての証券について成立するから、すべてのポートフォリオについても成立する。市場ポートフォリオもそのような1つのポートフォリオであるから、上式において証券の代わりに市場ポートフォリオを代入すれば、
となることを踏まえ、
を得る。これを代入することで
を得る。この式が証券市場線である。任意の証券の期待リターンとで計測したその証券の市場リスクとの関係を表している。市場リスクが高いほど、証券の期待リターンも高くなることを市場が要求することを主張している。
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