古典的名著
を基に「コンピュテーショナル・ファイナンス」を学んでいきます。
2. ツリーモデルによるオプションの評価
ツリーモデルを用いたデリバティブ評価の理論的背景と具体的なアルゴリズムを照会する。
2.1 二項モデルによるオプションの評価
2.1.1 通貨を原資産とした1期間2項モデル
1期間の2項モデルを考える。国内の連続複利でのリスクフリーレートを、対象となる外国のリスクフリーレートをとする。ここで両者とも一定であると仮定する。現時点における外国通貨1単位当たりの価値をとする。1期間後に通貨価値が上昇した場合に、下落した場合にはになるとする。時間間隔をとおく。
このとき無裁定性を確保するために、
が成立しなければならない。
1期間モデルにおけるコール・オプションの評価を考える。通貨価値の上昇・下落確率はそれぞれであるとする。翌期間における上昇時・下落時の同オプションの価値をそれぞれとし、もしこの翌時点がオプション満期であれば
である。同時に自国通貨の借入を行なうとし、この時の国内金利を借入金額をとすると、同翌期間の返済額はである。
いま単位だけ外国通貨を買い持ちすると、1期間後におけるポジションの価値は
である。
以上から、ネット・ポジションの翌時点における価値は
である。このポートフォリオがコールオプションと同じリターンになるように複製するには、
を満たすようなを求めればよい。
より
を(1)に代入して
以上の仮定からコールオプションと複製ポートフォリオが等価であるから
である。このは新たな確率と見なすことができる。
さてここまでの議論には上昇(下落)確率が登場しない。更に投資家の効用も明示的に存在しない。したがってリスク中立的な投資家のみが存在する世界を仮定しても差し支えない。実際にリスク中立性を仮定すれば、通貨の期待変動率はであるから
が成立する。これを解くことで
となり、に一致する。この意味で、のことをリスク中立確率と呼ぶ。
以上から次の時点におけるコールオプションの価値が分かれば、その時点におけるリスク中立確率を用いて期待値を計算し、それを国内金利を用いて現在価値に割り引くことで現在時点におけるオプション価値を計算することが出来る。を計算するためにはを決定しなければならない。