統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
5. 一般化逆行列
5.1 導入
矩形行列や非正則正方行列のような逆行列を定義できないような行列を扱う場合でも逆行列に相当するものが必要になる場合がある。その背景には連立方程式の解を求めることがある。
一般に連立方程式は
と書くことができる。ここでは定数行列、は次列ベクトルである。
このとき解ベクトルは、かつが正則であるならば、として得られる。一方でが存在しない場合、どう考えればよいのか。
統計学では、他に2次形式やカイ二乗分布に関する話題に応用できる。まず平均ベクトルがで分散共分散行列がであるような確率ベクトルを考える。実用上、分散共分散行列が単位行列になるようにこれを変換することもある。たとえばその変換後のベクトルをとおくとき、であればがカイ二乗分布に従うことが知られている。他方でもしある次正方行列がを満たす場合、がその共分散として単位行列を持つ。さらにを正定値だとして
が成り立つ。
他方でもしが階数の半正定値であるならば、と定めたとき
かつでが成り立つような次正方行列を見つけることができるだろうか。このがの一般逆行列であり、が正規分布に従う場合、このときもはカイ二乗分布に従う。
5.2 Moore-Penrose形一般逆行列
統計学への応用において有用な一般逆行列の1つが-形一般逆行列である。この一般逆行列は正則行列の逆行列が持つ4つの性質を満たすように定義されている。
-形一般逆行列が他の一般逆行列とは異なる有用な点は、一意に定義できるという点である。
( まずが存在することを示す。もし行列が零行列であるならば、はの零行列とすれば4条件すべてを満たす。もしならばであり、特異値分解に関する性質から
を満たすような行列が存在する。ここでは正の対角成分を持つ対角行列である。
ここでと定義すれば、
であり、
が成り立つ。以上から、の存在は示された。
次にをの満たすべき4条件を満たすような任意の2つの行列だとする。このとき
であり、また
が成り立つ。ここでに注意すれば、
が得られる。 )