統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
4. 行列の因数分解と行列ノルム
4.8 行列ノルム
ベクトルの系列の極限や行列の系列の極限が興味の対象となる場合がある。各について、の番目の成分がとなるにしたがっての番目の成分に収束するならば、すなわち各についてになるにしたがって
となるならば、ベクトル系列はの番目の成分に収束する。同様にとなるにつれての各成分が対応するの成分に収束するならば、次正方行列の数列は次正方行列に収束する。一方で系列の収束の概念は特定のノルムの視点から捉えることができる。そこでベクトルノルムでこの議論を捕らえると、となるにしたがってとなるならば、はに収束する。
以下の定理は、この議論においてどのノルムを選択するかが重要でないことを示している。
ノルムの収束性 任意の次列ベクトルに対して定義された任意の2つのベクトルノルムを考える。次列ベクトル列に対して、となるにしたがってに関してがに収束することが、のときにに関してがに収束することが必要十分条件である。
これらから以下の系を得る。
ノルムの収束性(系) 任意の次正方行列に対して定義された任意の2つのベクトルノルムを考える。次正方行列の列とするとき、となるのにしたがってに関してがに収束することが、のときにに関してがに収束することが必要十分条件である。
他方で固定された次正方行列に対して定義されるについて、この列が零行列に収束するための十分条件が以下で与えられる。
冪行列の列の収束性 任意の次正方行列に対して定義されたある行列ノルムについてが成り立つものとする。このとき、が成り立つ。
を得る。仮定からが成り立つから、ノルムについて
が成立する。このとき上で言及した系からは行列ノルム
に関してもに収束する。これはにおいて各についてであることを示している。 )
またの零行列への収束とのスペクトル半径の大きさの関係も以下のように示すことができる。
( のときにだと仮定する。このとき任意の次列ベクトルに対してが成立する。いまの固有値に対応する固有ベクトルをとすれば、が成り立つから、も成り立つ。これはのときのみ成立するから、である。
逆にであるならば、前に示した定理から、を満たすような行列ノルムが存在する。したがって別の前の定理からが成立する。 )
スペクトル半径と行列ノルム 次正方行列は、任意の行列ノルムに対して
が成立する。
が得られる。したがってに対して、すべてのに対してを満たすような整数の存在を証明すればよい。
これはに対してあるいは同等に
を満たすような整数が存在することを示すとの同値である。ここでである。
一方で
であるから、は、前の定理から直ちに成り立つ。 )