統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
4. 行列の因数分解と行列ノルム
4.4 正方行列の対角化
スペクトル分解の定理を応用すると、適切に選ばれた直交行列を用いることですべての対称行列が対角行列に変換することができることが導かれる。これを一般的な正方行列に拡張することを考えたい。
固有値の基本性質から、相似な行列の固有値は等しい。しかし逆、すなわち固有値の等しい行列同士が相似だとは限らない。
既述のとおり、スペクトル分解の定理よりすべての対称行列は対角行列に変換できる。しかしこれと同じことがすべての正方行列に言えるわけではない。対角行列の対角成分がの固有値でそれに対応する固有ベクトルがの列であるならば、は恒等式を導く。これが成り立つのはが正則である場合である。これはすなわち次正方行列の対角かは個の固有ベクトルが存在するかに依存する。したがって以下が得られる。
ただしこれは必要条件ではない。すなわち重複する固有度を持つ非対称行列には対角行列に相似なものもある。そこで行列が対角か可能であるための必要十分条件を考える。
( が対角化可能であると仮定する。このときが成り立つ。ここでおよびこれらの固有値に対応する固有ベクトルをとすれば、である。このとき
が得られる。いまは重複度を持つため、対角行列はちょうど個の非零対角成分を持つ。これはと同値である。
逆にに対してだと仮定する。このとき行列の核の次元がであることを意味するため、
を満たすような個の線形独立なベクトルが得られる。このようなは固有値に対応するの固有ベクトルに他ならない。したがって固有値に対応する個の線形独立な固有ベクトルの集合が得られる。このような異なる固有値に対応する固有ベクトルは線形独立であるから、の任意の個の固有ベクトルの集合もまた、各に対してに対応する個の線形独立な固有ベクトルを持ち、それらは線形独立である。したがっては対角化可能である。以上で題意は示された。 )
例
をそれぞれ以下で与えられる次正方行列だとする。
の特性方程式はであるから、固有値はであり、したがっては対角化可能である。これら2つの固有値に対応する固有ベクトルはである。以上からを対角化したものは
で与えられる。の階数はで、これはの非零固有値の数と等しい。
次にの固有方程式はで重複度の固有値を持つ。であるから、は2つの線形独立な固有ベクトルを持たない。方程式はに対してただ1つの線形独立な解を持つ。したがっては対角化可能ではない。またの階数はである。
最後にの固有方程式はであるから、重複度の固有値を持つ。この行列はであるため、対角化可能ではない。しかしは対角化可能でないもののその階数はである。
が成り立つ。ここでは]の核である。定義から、の核はを満たすようなのことで、これは固有値に対応する固有ベクトル全体の集合に他ならないから、題意が得られた。 )