統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
3. 固有値と固有ベクトル
3.5 非負定値行列
この定理は行列を同時に対角化する方法を示している。前々の定理から、は対称行列であるから、の形で表現される。ここでは直交行列であり、である。行列は正則である。なぜならばは正則であり、かつ
が成り立つからである。同様にについてを得る。
( 後者は前者を含むため、後者を示す。正則な次正方行列はを満たすものとする。ここでである。するとが成り立つ。の階数はであるから、次正方行列は正則な対称行列である。このような行列は既に示したようにある正則な次対称行列を用いてと表現できる。したがって
が成り立つ。したがってと選ぶと、過去に示した定理から
を得る。 )
例:多変量1要因分類モデル
単変量の1要因分類モデルを拡張して多変量1要因分類モデルを導出することを考えよう。個の異なる母集団から反応について番目の母集団から標本サイズの独立な標本が得られているとする。
番目の標本における番目の観測値をで表現する。すなわち反応の各観測値は母集団にのみ依存する定数に誤差が乗ったものとして表現できると仮定する。
分析の目的は各がすべて等しいかどうかを決定することである。すなわち仮説検定を考えることである。
分散分析では処遇間のバラつきを処遇内のバラつき
に対して比較する。ここで
とおいた。
帰無仮説は統計量が自由度の分布に従うことで棄却するか否かを判断する。
いま、各観測対象について異なる個の応答変数の値を得るとする。これでを
というモデルを考える。ここでを定数ベクトルとしに従うとする。処遇間のバラつきと処遇内のバラつきを表す行列は
で与えられる。このモデルにおいて分析する目的は仮説検定
を考えることである。これを考えるための方法の1つに結び交わり法と呼ばれるものがある。
この手法における基本的な考え方は帰無仮説および対立仮説を単変量の検定に分解することである。すなわち任意のに対して帰無仮説を設定し直す。するとすべてのに関するの共通部分は仮説である。加えて対立仮説
を設定し直すとすべてのに関するの共通部分は仮説である。このため少なくとも1つのについてを棄却するとき、しかもそのときに限って帰無仮説を棄却する。
いま帰無仮説は単変量1要因分類モデルを含んでおり、は応答変数であるから、統計量が大きい場合にを棄却する。少なくとも1つのについてが棄却されるならばも棄却されるため、少なくとも1つのについてまたは
が充分に大きい場合にを棄却する。
であり、に注目してを最大化する場合、は関係しないから、
に等しい。ここでであることに注意すれば、
である。すなわちこの最右辺の式を最大化することに等しいのだが、
を得る。したがって最大固有値の分布における%点ををとおけば、
であり、のときを棄却する。
結び交わり法の長所として同時信頼区間が自然に得られることがある。任意の平均ベクトルに対して、
がすべてのに対して確率で成立する。ここで
とおいた。ここでの方法を適用すると、すべてのベクトルおよびを満たすようなすべてのベクトルについて不等式
が確率で成り立つ。