統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
4. 行列の因数分解と行列ノルム
4.7 2つの対称行列の同時対角化
前回議論した固有値と正則行列の関係において、の条件を厳格化する一方での条件を緩和することによってが同時に対角化可能であるためのもう1つの十分条件を得ることができる。
( とし、一般性を失うことなくと仮定する。をのスペクトル分解だとすると、行列はを満たし、は正の対角成分を持つ次対角行列である。
としておよびを定義し
に注意すれば、はを対角化する。は非負定値であるから、の後半対角成分のいずれかがである場合、その行と列のすべての成分はである。もしの成分がで、しかもの成分と成分がであり、
を定義すれば、は成分と成分がそれぞれとなるように行に行の定数倍を加え、列に列の定数倍を加えた以外はと同一であるような行列を生成する。この手順を繰り返し用いることで
となるような正則行列をに与えられた形式の行列の積で得ることができる。ここでは階数の次正方行列、はそれぞれが正である個の非零対角成分を持った次対角行列で、を満たす。したがっておよびは分割された場合に、ある行列および次正方行列を用いて
で表される。ここからを得る。最後にを
と定義する。ここではを満たす次直交行列であり、はそれぞれが正である個の非零対角成分を持った次対角行列である。このときとしてかつを得る。 )
以上で論点となったを対角化する行列は正則でなければならないが、直交である必要性は無く、2つの対角行列の対角成分はのいずれの固有値でもない。このような対角化は正規確率ベクトル2次形式に関する考察において大変に便利である。の双方を対角化する直交行列が存在するかについて議論するとき、次の定理はそのような直交行列が存在するための必要十分条件を与える。
( まずを対角行列とし、を満たすような直交行列が存在することを示す。
は対角行列であるから、であり、
が成り立つから、は可換である。
逆にが可換だと仮定し、これらを対角化するような直交行列が存在することを示す。の互いに異なる固有値としてを取り、それらにそれぞれ重複度が対応するものとする。は対称行列であるから、
を満たす直交行列が存在する。についても同様の変換をしてを分割することで、行列をブロック行列として
を得る。このとき仮定からであるから
が成立しなければならない。の成分の部分行列との成分の部分行列を対応させることで
が成り立つ。ならばであるから、ならばでなければならない。すなわち行列はブロック対角行列である。は対称行列であり、各についても対称であるから、
を満たすような次直交行列を求めることができる。ここでは対角行列である。をブロック対角行列とし、が成立するとする。
であるから、は直交行列である。
最後には対角であり、
かつ
が成り立つ。 )
行列の列はのみならずの固有ベクトルでもある。すなわち行列が共通した固有ベクトルを持つことがこれらが可換であることの必要十分条件である。または共に対称行列であるから、
が成り立ち、したがってが対称であるならば、で逆も成り立つ。そこで以下が得られる。
これをより一般化したものとして以下が成り立つ。