統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
4. 行列の因数分解と行列ノルム
4.2 対称行列のスペクトル分解
対称行列のスペクトル分解は特異値分解の特殊例に相当する。過去の章で導いた結果を改めて述べる。
非負定値行列の平方根行列を見つけるべくのスペクトル分解を利用することができる。すなわちを満たすような次非負定値行列を見つけたいとする。上記のようにとを定義し、とすると、であるから
を得る。であることに注意すれば、はの対称平方根行列と呼ばれる。が非負定値でない場合、のいくつかの固有値が負のとき、は複素行列になる。
非負定値の平方根行列が一意に定まることを示す。のスペクトル分解は
と書ける。ここではのスペクトル値である。の固有射影は一意に定まり、が成り立つ。またに関してを満たす。
を
を満たす次非負定値行列だとする。もしならば
が成り立つ。これより、で、各々のおよびあるに関してでなければならない。これは
であることを意味し、上述したという表現と同等である。
が対称行列であることに限定しなければ、平方根行列の集合を拡張できる。すなわちを満たす任意の行列を考える。を任意の次直交行列とすると、
であるから、は平方根行列である。
が非負の対角要素を持つ下三角行列であるとき、分解をの分解と呼ぶ。
分解の存在性 を次非負定値行列だとする・このとき非負の対角要素を持ち、となるような次下三角行列が存在する。さらにが正定値行列であるならば、このとき行列は一意で正の対角成分を持つ。
( 正定値行列に関する結果を証明する。のとき明らかに定理は成立する。なぜならばこのときは正のスカラーであり、はの正の平方根によって一意に与えられるからである。いますべての次正定値行列に関して定理が成り立つと仮定する。次正方行列を用いてが
と分割できるものとする。このときが正定値行列ならばも正定値行列でなければならないため、正の対角成分を持ちを満たすような次下三角行列が存在することが分かる。
もし次ベクトルと一意な正のスカラーがあり、
が成り立てば、題意が示される。このときでなければならない。
は正則でなければならないから、はで一意に与えられ、または
でなければならない。
は正定値行列であるから、とすれば
が成り立つから、は正数であり、はにより一意に与えられる。 )