以下の書籍
を中心に時系列解析を勉強していきます。
前回
3. ARMA過程
3.7 AR過程における母数推定
過程における母数推定方法は、(1)最小二乗法、(2)最尤法が一般的である。次過程
において推定対象となるのは係数および定数項、さらには分散である。ここでは係数および定数項を知りたいとしよう。
3.7.1 最小二乗法
最小二乗法では通常の回帰モデルと同様に残差平方和を最小化するようなおよびとして推定量を得る。残差平方和は以下の通りである:
二次関数()は任意の区間で下に凸であるからの極小値を与えるようなものを求めればよいということとなる。この計算には個の初期値が必要となる点に注意したい。また上式からも明らかなように、最小二乗法でおよびを推定するにはを考慮しなくてもよい点が利点である。
一致性 | 最小二乗推定量は一致推定量である。 | |
漸近正規性 | 最小二乗推定量を基準化したものは漸近的に正規分布に従う。 | |
正規性の下での漸近有効性 | のとき、最小二乗推定量は一致推定量の中で漸近的に最小の分散共分散行列をもつ。 |
なお過程は過去の誤差項と相関を有するため、最小二乗推定量は不偏性を持たない点に留意されたい。
3.7.2 最尤法
過程はシンプルなモデルであるために最小二乗法が可能であった一方で、過程などより複雑なモデルであれば最尤法を用いる。簡単のためモデルについて、確率変数(およびその確率密度関数)に関するの定理
を適用すると、確率変数および母数ベクトルについて
となる。したがって対数尤度は
であり、求めたかった推定量は
で得られる。
過程に限らない一般のモデルについては時点の情報集合をとすると
過程の最尤推定量は3つの性質をもつ*2:
一致性 | 最尤推定量は一致推定量である。 | |
漸近正規性 | 基準化された最尤推定量は漸近的に正規分布に従う。 | |
漸近有効性 | 最尤推定量はすべての一致推定量の中でも漸近的に最小の分散共分散行列をもつ。 |
3.8 モデル選択
定常かつ反転可能な過程が真のモデルであるとき、観測値を基に適当なモデルを構築する方法を考えたい。
最初、効率的な探索を行うべく標本自己相関ないし標本偏自己相関を用いてモデル候補を絞り込む。過程と過程の自己相関関数の絶対値は指数的に減衰していった。これに対して過程の自己相関は次以降でになるために標本自己相関が次以降で急遽近くになるかどうかが1つの判断材料になるからである。過程と過程との判別は偏自己相関を用いて判断することができる。
確認のために再提示しておくと、任意のについて自己相関係数は
である。
これに対して偏自己相関は直近時点へのの線型射影における係数であり、自己共分散に関する以下の連立方程式の解として得られる*3:
モデルであれば次以降の偏自己相関はとなる一方で過程であれば無限の偏自己相関を有するものの、その絶対値は指数的に減衰していく。
整理すると、
モデル |
自己相関 |
偏自己相関 |
|
---|---|---|---|
モデル | 減衰していく | 次以降で | |
モデル | 次以降で | 減衰していく | |
モデル | 減衰していく | 減衰していく |
3.9 モデルの診断
モデル構築を終えた後、その正当性を判断しなければその妥当性を担保できない。
モデルであれば、回帰分析でいう残差に相当する誤差項についてホワイトノイズであるとの仮定を置いている。そこでこれが自己相関を有するか否かを検定すればよい。このとき母数の数だけ自由度が減るため、モデルであればかばん統計量の値と分布の%点の値とを比較する。
4. 予測
4.1 予測の基本的な考え方
これまでで時系列モデルを構築してきたが、それを用いて予測を立てることが今回の課題である。
推定方法が様々あるように予測の考え方も様々なものがある。そのために如何なる予測が適切なものかを判断するのは難しく、その判断のための尺度が必要となる。
一つには最小二乗法との考え方を敷衍し、予測誤差を最小化するような予測を良い予測であると見なす考え方がある。とはいえ予測誤差は確率変数の差であるからそれ自身も確率変数であり、どのような意味で最小化するものが適当なのかを定めなければ十分とは言えない。これにも様々な考え方があるが、もっとも頻用されるのは平均二乗誤差
を最小化していくことである。このような平均二乗誤差を最小化することで得られる予測を最適予測(optimal forecast)と呼ぶ。
4.2 より厳密な考え方
時点において利用可能な情報(観測値)からなる情報集合を用いて、期先の値を予測したいとする。を用いて得られる予測量をとする。
このとき前述の考えに従うと
を考えることとなる。
これを展開すると、
である。ここでとおくと
が成り立つ。右辺第2項は非負であり、はで最小化できる。以上の考察から、分布に特定の仮定を与えることで計算を可能(ないし容易)にした条件付き期待値を利用するのが妥当であると結論付けることができた。
4.3 AR過程の予測
を基準とすれば、最適予測は条件付き期待値で与えられる。が正規ホワイトノイズだと仮定すると、
を用いればよい。
例:AR(1)モデル
モデルの最適予測とその性質を考える。
まず1期先の予測を考えると、を用いることで
で与えられる。またこのときの予測誤差は
であり、そのはが独立であることに注意すれば、
を得る。
次に期先予測を考えれば、であるから、
を得る。同様にして期先予測を考えると、
と書き直すことができる。したがって
である。
もしならば定常条件よりが得られる。これは予測期間が長くなるにつれて、現在ある情報が徐々に有用でなくなり、その結果、長期的には予測値が過程の期待値とほぼ一致することを意味する。またこの結果は定常過程は長期的に過程の平均の方向に戻ることが期待できることを意味する。これを平均回帰的(mean reverting)という。
を考えると、予測期間が長くなればなるほど単調増加するため、予測が困難になる。またであるから、は予測期間が長くなるにつれて過程の分散に近づいていく。すなわち定常過程ならば平均回帰的であるために、は上限を持ち、それは過程の分散に等しい。
として一般の定常過程
の予測を考える。
で与えられる。また
を得る。
2期先予測は
である。同様にすればより長期の予測もできるが非常に煩雑になる。
そこで逐次予測を用いるのがよい。このとき
で得られる。ここでならばである。他方でこの方法ではの計算は困難である。
証明無しに一般の定常過程の性質を述べる。
定常過程の性質 定常過程()は以下の性質をもつ:
- 最適予測は直近期のすなわちのみに依存する。
- 予測期間が長くなるにつれて最適予測における過去の観測値から受ける影響は指数的に減衰し、過程の期待値に収束する。
- 予測期間が長くなるにつれては単調増加し、過程の分散に収束する。