証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である
を参考に学んでいく。
- 前回:
https://power-of-awareness.com/entry/2022/04/27/050000power-of-awareness.com
8. オプション評価理論
企業が資金調達のために発行するオプションや展開社債などの金融派生商品に対する評価方法を概説する。
8.3.1 価格の分解
アメリカン・オプションはヨーロピアン・オプションに比較すると満期前に権利行使できることから、その価格は高くなる。その高さを表すのに価格を分解する。
アメリカン・コール・オプションの価格はヨーロピアン・コール・オプションの価格と早期行使に対するプレミアムの和として
に分解できる。ただし早期行使プレミアムは
である。は株価に対する最適権利行使境界を表す。または連続配当率である。
もしならばとなる、すなわち配当支払がないならば、アメリカン・コール・オプションは満期での権利行使が最適で、その価格はヨーロピアン・コール・オプションの価格に一致する。
アメリカン・プット・オプションでは
へ分解でき、は
であり、は株価に対する最適権利行使境界を表す。
8.4 離散時間モデル
オプション価格を数値的に導出すべく、離散時間におけるモデルを導出する。
区間を個に分割する。番目の時点をとする。また時点から満期までの停止時刻の集合をとし、とする。この停止時刻の集合の下で各アメリカン・オプション価格は
で与えられる。ここではの下での条件付き期待値を表す。
また動的計画法の最適性の原理から、のとき
であり、のとき
で与えられる。
それぞれの時点における最適行使境界は
で与えられる。
アメリカン・コール・オプションは、株価が幾何運動に従い、満期までに配当などのキャッシュ・フローなどが存在しないならば、その価格はヨーロピアン・コール・オプションに一致する。
アメリカン・プット・オプションではそのような解析解が存在しないものの、満期が無限大である永久アメリカン・プット・オプションであれば、権利行使の閾値*1をとすれば、その解析解が得られる。満期が無限大の永久オプションの価格は時間には依存しないため、その価格が満たす偏微分方程式は株価のみに依存する常微分方程式になる。株価がのときの永久アメリカン・プット・オプションの価格をとすれば
である。
8.5 ゲーム・オプション
満期までの任意時点で売り手が契約をキャンセルすることができ、買い手が権利を行使できるオプションをゲーム・オプションという。ゲーム・コール・オプションでは、任意の時点において買い手が権利を行使する前に売り手がキャンセルしたとき、売り手は買い手にを支払わなければならない。ここでは売り手が早期キャンセルに伴い買い手に払うペナルティで、である。一方でゲーム・プット・オプションでは時刻に売り手がキャンセルをした場合、売り手は買い手にを支払わなければならない。売り手と買い手が同時に権利行使した場合は、買い手の権利が優先行使されるものと仮定する。
時刻での株価がで与えられるとき、時刻でのゲーム・コール・オプション価格をとする。売り手の停止時刻を、買い手の停止時刻をとすれば、時刻でのゲーム・コール・オプション価格および同プット・オプション価格は
が成り立つ。ただし
である。
このとき、それぞれの最適な権利行使時刻とキャンセル時刻は
で与えられる。
8.5.1 ゲーム・オプション価格の分解
アメリカン・オプションと同様に価格を分解する。ゲーム・オプションの価格をヨーロピアン・オプションの価格と早期行使プレミアムからなるものと考えて、
と分解する。ここではそれぞれ
である。なおは点におけるの局所時間である。
8.5.2 ゲーム・オプションの離散時間モデル
ゲーム・オプションの価格の離散時点における価格
で与えられる。ただし
である。動的計画法の最適性原理から、において
であり、のとき
で与えられる。各時点における買い手の最適行使境界は
で与えられる。
*1:いきちと読まれることもあるが、普通、しきいちと読む。