「大人の教養・知識・気付き」を伸ばすブログ

一流の大人(ビジネスマン、政治家、リーダー…)として知っておきたい、教養・社会動向を意外なところから取り上げ学ぶことで“気付く力”を伸ばすブログです。データ分析・語学に力点を置いています。 →現在、コンサルタントの雛になるべく、少しずつ勉強中です(※2024年1月21日改訂)。

MENU

ポートフォリオのパフォーマンス分析(5/5)

 ファンド・パフォーマンスの評価方法を学ぶべく、

を参照する。

5. リスクの計算

 ここではリターンのバラつきをリスクと呼ぶ。

5.1 分散と標準偏差

 確率変数Xの標本X_1,X_2,\cdots,X_nに対して分散V[X]を以下で定義する: 


\begin{aligned}
V[X]=\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}(X_i-E[X])^2}
\end{aligned}

また標準偏差\sigma[X]


\begin{aligned}
\sigma[X]=\sqrt{V[X]}
\end{aligned}

で定義する。

5.2 共分散

 2つの確率変数X,Yの組としてみたときの標本(X_1,Y_1),\cdots,(X_n,Y_n)に対して共分散Cov[X,Y]


\begin{aligned}
Cov[X,Y]=&\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\left(X_i-E[X]\right)\left(Y_i-E[Y]\right)}\\
                =&\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_iY_i} -E[X]E[Y]
\end{aligned}

5.3 相関係数

 2つの確率変数について一方が増加したときにもう一方が増加する(減少する)しやすさを表した尺度を相関係数という。


\begin{aligned}
\rho_{XY}=\displaystyle{\frac{Cov[X,Y]}{\sqrt{V[X]V[Y]}}}
\end{aligned}

5.4 リスクの年率換算

 ある期間単位(たとえば月次表示)を別の期間単位(たとえば年次表示)に変換することを考える。分散(標準偏差)の性質から、変換後のリスク\sigma_{After}は変換前のリスクを\sigma_{Before}として


\begin{aligned}
\sigma_{After}=\displaystyle{\frac{1}{\sqrt{A}}\sigma_{Before}}
\end{aligned}

が成り立つ。ここでAは期間単位を変換するときの数である(たとえば1年=12か月なので、A=12とする。)。
 日次表示を年次表示する場合は、1か月=250営業日としてA=250としたり、同様にA=252としたりする*1。日次表示を月次表示にする場合は、A=25とすることがある。

5.5 ベータ

 ポートフォリオのリターンr_Pをマーケットポートフォリオのリターンr_Mに対して、


\begin{aligned}
r_P-r_F=\alpha+\beta (r_M-r_F)+\varepsilon,\ \alpha,\beta\in\mathbb{R}
\end{aligned}

ここでr_Fはリスクフリーレート、\varepsilonはスペシフィックリターン*2とする。スペシフィックリターンはマーケットポートフォリオと独立である。
 このベータ\beta


\begin{aligned}
\beta=&\displaystyle{\frac{Cov[r_P,r_M]}{V[r_M]}}
\end{aligned}

で定義される。
 リターンのヒストリカルデータから統計学的に推定したベータをヒストリカルベータという。これに対して財務データなどからリスクを推定し、推定リスクから定義式に則り計算したベータを予測ベータやファンダメンタル・ベータと呼ぶ。
 このモデルをCAPMモデルという。

5.6 リスクの分解

 CAPMモデルにおいて


\begin{aligned}
V[r_P-r_F]&=V[\alpha+\beta (r_M-r_F)+\varepsilon]=\beta^2V[r_M-r_F]+V[\varepsilon]
\end{aligned}

と分解できる。前者の平方根|\beta|\sqrt{V[r_M-r_F]}をシステマティックリスク、後者の平方根\sqrt{V[\varepsilon]}をレジデュアルリスクという。
 システマティックリスクは市場(マーケットポートフォリオ)そのものが持つリスクが原因となって発生するリスクである。逆にレジデュアルリスクは市場とは独立してポートフォリオ独自の要因で発生しているリスクであり、これは分散投資が徹底されていないことで発生するリスクと解釈できる。

5.7 トラッキングエラー

 ポートフォリオのリターンがベンチマーク・リターンから乖離する可能性を表すリスク指標をトラッキングエラーという。アクティブリスクともいう。過去のリターンを用いて計算したトラッキングエラーを実績トラッキングエラー(実績アクティブリスク)という。
 ベンチマーク・リターンをr_Bとして、ポートフォリオのリターンr_Pとの差分r_A=r_P-r_Bをアクティブリターンとすれば、トラッキングエラー\sigma_Aはアクティブリターンのリスク


\begin{aligned}
\sigma_A=\sqrt{V[r_A]}=\sqrt{V[r_P-r_B]}=\sqrt{V[r_P]+V[r_B]-2Cov[r_P,r_B]}
\end{aligned}

で定義できる。
 ベンチマーク・リターンを上回ったリターンを目指すアクティブ運用においてリスクを測るのに用いる。またベンチマークへの追随を目指すインデックス運用においてもうまく追随できた(でき得る)かを表す尺度としても用いることが出来る。
 トラッキングエラーが発生するのは、(1)銘柄ごとのオーバーウェイト、アンダーウェイト幅、(2)市場におけるリターンの銘柄間のバラつきが要因である。

5.7 リスク調整後収益率

 一般にリスクとリターンはトレードオフの関係にある。すなわち大きなリターンを求めれば大きなリスクを取らざるを得ないし、リスクを小さく取るならば、得られるリターンは小さくなり得るというものである。
 そこでファンド(ポートフォリオ)のパフォーマンスを評価するには、リスク1単位当たりのリターンを表す「リスク調整後リターン」を比較するのが妥当である。すなわちあるポートフォリオPのリスク調整後リターン\tilde{r}_P


\begin{aligned}
\tilde{r}_P=\displaystyle{\frac{r_P}{\sqrt{V[r_P]}}}
\end{aligned}

で定義できる。

5.7.1 シャープレシオ

 リスク調整後リターンの1つとしてシャープレシオ(Sharpe ratio)がある。シャープレシオポートフォリオの超過リターン(ポートフォリオのリターンからリスクフリーレートを差し引いたもの)をポートフォリオのリターンのリスクで割ったもの


\begin{aligned}
{SR}_P=\displaystyle{\frac{r_P-r_F}{\sqrt{V[r_P]}}}
\end{aligned}

で定義される。

5.7.2 インフォメーションレシオ

 リスク調整後リターンの1つとしてインフォメーションレシオ(情報レシオ;information ratio)がある。アクティブリターンをトラッキングエラー(アクティブリスク)で割ったもの


\begin{aligned}
{IR}_P=\displaystyle{\frac{E[r_A]}{\sqrt{V[r_A]}}}
\end{aligned}

で定義される。アクティブ運用においてパフォーマンスを測るために用いる。

5.7.3 下方リスクとソルティノレシオ

 下落局面におけるリスクを表すのに、下方リスク(down side risk)を以下で定義する:


\begin{aligned}
\sigma_{DSR}=\sqrt{E[\min\{r_P-r_F,0\}]}
\end{aligned}

 実務的には、n期間のリターンr_{P,1},\cdots,r_{P,n}に対して、リスクフリーレートをr_{F,i},\ i=1,2,\cdots,nとして


\begin{aligned}
\sigma_{DSR}=\sqrt{\displaystyle{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \boldsymbol{1}_{\{r_P-r_F\gt0\}}\left(r_{P,i}-r_{F,i}\right)}}
\end{aligned}

で計算できる。
 下落局面のリスクを反映したリスク調整後リターンとして、ポートフォリオのリスクをこの下方リスクに置き換えたものをソルティノレシオという。


\begin{aligned}
{SR}_P=\displaystyle{\frac{r_P-r_F}{\sigma_{DSR}}}
\end{aligned}

 さらに十分に分散投資されたマーケット連動ファンドの評価をより適当に評価する尺度としてトレイナーレシオがある。ポートフォリオのリターンのベータを\beta_Pとして


\begin{aligned}
{TR}_P=\displaystyle{\frac{r_P-r_F}{\beta_P}}
\end{aligned}

で定義する。

  
指標名
定義式
主な用途
   (1) シャープレシオ \displaystyle{\frac{r_P-r_F}{\sqrt{V[r_P]}}} ポートフォリオの総合的なパフォーマンスを測る。
   (2) ソルティノレシオ: \displaystyle{\frac{r_P-r_F}{\sigma_{DSR}}} 下落局面に注目しつつ全体局面でリターンを上げているかという観点でポートフォリオのパフォーマンスを測る。
   (3) トレイナーレシオ: \displaystyle{\frac{r_P-r_F}{\beta_P}} 充分に分散投資されたマーケット連動ファンドを主な対象としてパフォーマンスを測る。
   (4) インフォメーションレシオ: \displaystyle{\frac{r_A}{\sqrt{V[r_A]}}} アクティブ運用においてパフォーマンスを測る。

5.8 最大ドローダウン

 損失のみに注目したリスク尺度として最大ドローダウンがある。
 ある期間t=1,2,\cdots,nにおいて、最大ドローダウン{DD}_{t_1,t_n}をある時点tにおけるポートフォリオ価値をP_tとして


\begin{aligned}
{DD}_{t_1,t_n}=\displaystyle{\min_{t\in\{t_1,\cdots,t_n\}}\left\{P_t-\displaystyle{\min_{t^{\prime}\gt t}\left\{P_t^{\prime}\right\}}\right\}}
\end{aligned}

で定義できる。これは期間中においてポートフォリオが最高価値のときに組成され最低価値のときに解体(すべてを現金にした)とした場合に生じる損失を表す。

5.9 バリュー・アット・リスク

 現在のポートフォリオの価値(またはリターン)が特定の期間を経てどの程度の損失(下落率)を取り得るかを統計学を活用して求めた尺度をバリュー・アット・リスク(VaR)という。
 現時点の価値がPVであるようなポートフォリオに対し、ある期間T後における将来価値FVの分布関数をFとしたときに、0\lt\alpha\lt1を指定して


\begin{aligned}
VaR_{T,\alpha}=\inf\{FV; F(FV)\geq\alpha\}-PV
\end{aligned}

で定義する。言い換えれば将来価値の100\alpha\%点からPVを差し引いた損失である*3
 リターンを用いればr\sim Fとして


\begin{aligned}
VaR_{T,\alpha}=\inf\{r;F(r)\geq\alpha\}
\end{aligned}

で定義できる。

*1:無論、実日数を取ることも、365日(366日)とすることも考えられる。

*2:一般の回帰分析にいう攪乱項のことである。

*3:現在価値からの損益の分布を考えればPVの項は不要となる。

プライバシーポリシー お問い合わせ