ファンド・パフォーマンスの評価方法を学ぶべく、
を参照する。
前回
5. リスクの計算
ここではリターンのバラつきをリスクと呼ぶ。
5.2 共分散
2つの確率変数の組としてみたときの標本
に対して共分散
を
5.4 リスクの年率換算
ある期間単位(たとえば月次表示)を別の期間単位(たとえば年次表示)に変換することを考える。分散(標準偏差)の性質から、変換後のリスクは変換前のリスクを
として
が成り立つ。ここでは期間単位を変換するときの数である(たとえば1年=12か月なので、
とする。)。
日次表示を年次表示する場合は、1か月=250営業日としてとしたり、同様に
としたりする*1。日次表示を月次表示にする場合は、
とすることがある。
5.5 ベータ
ポートフォリオのリターンをマーケットポートフォリオのリターン
に対して、
ここではリスクフリーレート、
はスペシフィックリターン*2とする。スペシフィックリターンはマーケットポートフォリオと独立である。
このベータは
で定義される。
リターンのヒストリカルデータから統計学的に推定したベータをヒストリカルベータという。これに対して財務データなどからリスクを推定し、推定リスクから定義式に則り計算したベータを予測ベータやファンダメンタル・ベータと呼ぶ。
このモデルをCAPMモデルという。
5.6 リスクの分解
CAPMモデルにおいて
と分解できる。前者の平方根をシステマティックリスク、後者の平方根
をレジデュアルリスクという。
システマティックリスクは市場(マーケットポートフォリオ)そのものが持つリスクが原因となって発生するリスクである。逆にレジデュアルリスクは市場とは独立してポートフォリオ独自の要因で発生しているリスクであり、これは分散投資が徹底されていないことで発生するリスクと解釈できる。
5.7 トラッキングエラー
ポートフォリオのリターンがベンチマーク・リターンから乖離する可能性を表すリスク指標をトラッキングエラーという。アクティブリスクともいう。過去のリターンを用いて計算したトラッキングエラーを実績トラッキングエラー(実績アクティブリスク)という。
ベンチマーク・リターンをとして、ポートフォリオのリターン
との差分
をアクティブリターンとすれば、トラッキングエラー
はアクティブリターンのリスク
で定義できる。
ベンチマーク・リターンを上回ったリターンを目指すアクティブ運用においてリスクを測るのに用いる。またベンチマークへの追随を目指すインデックス運用においてもうまく追随できた(でき得る)かを表す尺度としても用いることが出来る。
トラッキングエラーが発生するのは、(1)銘柄ごとのオーバーウェイト、アンダーウェイト幅、(2)市場におけるリターンの銘柄間のバラつきが要因である。
5.7 リスク調整後収益率
一般にリスクとリターンはトレードオフの関係にある。すなわち大きなリターンを求めれば大きなリスクを取らざるを得ないし、リスクを小さく取るならば、得られるリターンは小さくなり得るというものである。
そこでファンド(ポートフォリオ)のパフォーマンスを評価するには、リスク1単位当たりのリターンを表す「リスク調整後リターン」を比較するのが妥当である。すなわちあるポートフォリオのリスク調整後リターン
は
で定義できる。
5.7.1 シャープレシオ
リスク調整後リターンの1つとしてシャープレシオ(Sharpe ratio)がある。シャープレシオはポートフォリオの超過リターン(ポートフォリオのリターンからリスクフリーレートを差し引いたもの)をポートフォリオのリターンのリスクで割ったもの
で定義される。
5.7.2 インフォメーションレシオ
リスク調整後リターンの1つとしてインフォメーションレシオ(情報レシオ;information ratio)がある。アクティブリターンをトラッキングエラー(アクティブリスク)で割ったもの
で定義される。アクティブ運用においてパフォーマンスを測るために用いる。
5.7.3 下方リスクとソルティノレシオ
下落局面におけるリスクを表すのに、下方リスク(down side risk)を以下で定義する:
実務的には、期間のリターン
に対して、リスクフリーレートを
として
で計算できる。
下落局面のリスクを反映したリスク調整後リターンとして、ポートフォリオのリスクをこの下方リスクに置き換えたものをソルティノレシオという。
さらに十分に分散投資されたマーケット連動ファンドの評価をより適当に評価する尺度としてトレイナーレシオがある。ポートフォリオのリターンのベータをとして
で定義する。
指標名 |
定義式 |
主な用途 |
||
(1) | シャープレシオ: | ポートフォリオの総合的なパフォーマンスを測る。 | ||
(2) | ソルティノレシオ: | 下落局面に注目しつつ全体局面でリターンを上げているかという観点でポートフォリオのパフォーマンスを測る。 | ||
(3) | トレイナーレシオ: | 充分に分散投資されたマーケット連動ファンドを主な対象としてパフォーマンスを測る。 | ||
(4) | インフォメーションレシオ: | アクティブ運用においてパフォーマンスを測る。 |