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アクティブ・ポートフォリオ・マネジメント(その01/X)

 定量的なアクティブ運用の妙味を議論すべく、

とその続編

を整理していく*1

1. はじめに

 定量アクティブ運用は現代ポートフォリオ理論とは関係が薄い。正当性なく現代ポートフォリオ理論の効力と構造を有している。現代ポートフォリオ理論は投資に関わる学問に経済学、定量的手法および科学的知見をもたらす。経済学は、均衡および効率性に関する強力な基盤を与えるが、成功するアクティブ運用に関してほとんど何も言及しない。経済学において、成功するアクティブ運用が不可能だというのはほぼ理論の前提である。しかしアクティブ運用は、経済学者が投資の分析にもたらした定量的なツールの一部をアクティブ運用の困難な問題に立ち向かうのに借用する。

  • 顧客は多数の投資アドバイザーを認識可能な区分に仕分けすることができる。それにより顧客ないしそのコンサルタントは調査や比較を同じ区分に所属するアドバイザーに限定することができる。
  • ベンチマークは、プリンシパルであるファンドの顧客からエージェントであるファンド・マネージャーへの指示として機能する。ベンチマークはマネージャーによる投資の射程を定める。ベンチマークから乖離することは重要な投資と事業リスクをもたらす。
  • ベンチマークは、寄託者またはスポンサーに個々のマネージャーの保有する資産に関する完璧な知識を持たなくともポートフォリオ総体を管理することを可能にする。スポンサーはベンチマークの集合体を管理することで、青写真を維持する。

 実際、ベンチマークと比較して投資を評価することは標準的なトータル・リスクおよびトータル・リターンの枠組みよりもより一般的である。現金をベンチマークにすることで、従来のフレームワーク気に帰着することができる。
 相対的なリスク・リターンに従えば、経済学や教科書における「市場」からより実務的な「ベンチマーク」に話を移すことができる。ポートフォリオ分析における道具の大半は依然として有効である。特に、ベンチマークポートフォリオを効率的にする期待リターンを決定することは依然として可能である。この極度に価値のある洞察は平均/分散モデルにおける効率的ポートフォリオにおける概念を資産の期待リターンのリストに結び付けることができる。
 相対的な観点からの議論はリターンの残差部分、すなわちベンチマーク・リターンと相関を持たないリターン部分へ注目させることになる。インフォメーション・レシオは、残差リターンの年次ボラティリティに対する期待年次残差リターンの比率であり、インフォメーション・レシオはアクティブ・マネージャーが利用可能な機会を規定する。インフォメーション・レシオが高ければ高いほど、アクティブ運用の可能性が増すことになる。
 投資機会を選択することは、選好に依存する。アクティブ運用では、選好は高い残差リターンと低い残差リスクを求めるものである。これを残差リターンから残差リスクによる罰則項を差し引くことによる平均・分散スタイルで捉える。その選好を無差別曲線で描写する。ここでは同じ付加価値を達成するような期待残差リターンと残差リスクを区別しない。各無差別曲線は残差リスクが0であるような残差リターンである「確実性等価」も含む。
 選好が投資機会と直面するとき、投資の選択肢が生まれる。アクティブ運用では最も高付加価値な達成度はインフォメーション・レシオの平方根に比例する。
 インフォメーション・レシオは、アクティブ運用における機会を測定する者であり、インフォメーション・レシオの平方根は価値を付与できる能力を示唆する。インフォメーション・レシオが高い方が低い方よりもよい。アクティブ運用の基本的な原理に依れば、2つの考えが存在する。第一に各資産の残差リターンを予測する能力であり、この予測する能力を情報効率性、すなわち予測と最終的な実現リターンとの相関で測る。情報効率性は、スキルの水準を評価する。
 

2. コンセンサス期待リターン

2.1 はじめに

 リスクと期待リターンはアクティブ運用に関するゲームにおいて主要なプレイヤーである。ここでは、期待リターンに関する問題に取り組む最初の試みを扱う。資本資産評価モデル(\mathrm{CAPM}])を扱い、そのモチベーション、その含意およびアクティブ・マネージャとの関連性を述べる。
 アクティブ運用に関する書籍が、アクティブ運用を疑わしい事業かのように思わせる\mathrm{CAPM}理論を擁護して始めることは殆ど無い。\mathrm{CAPM}を扱うのには2つの目的がある。まずは冒頭から謙虚な原則を構築すべきだからである。これはアクティブ・マネージャーには難しいものである。次に\mathrm{CAPM}を擁護すべく元来発展してきた分析の多くが定量アクティブ運用に応用することができるからである。
 \mathrm{CAPM}からの価値のある副産物の1つは、コンセンサス期待リターンを決定する手続である。これらのコンセンサス期待リターンは、比較の基準を提供するために有用である。アクティブ運用の意思決定は自前の期待リターンとそのコンセンサスの間の差異を際立たせる。
 \mathrm{CAPM}は想定できる期待リターンの予測方法というだけでなく、最良のものでもある。ヒストリカルでのリターン平均を用いることが代替方法としてあり得るが、これは主に2つの理由で良いアイディアとは言えない。まずヒストリカル・リターンは多量の標本誤差を含んでいる。次に銘柄ユニバースは時間に応じて変化していく。新規上場銘柄が利用可能になったり、上場銘柄が上場廃止になったり合併したりする。銘柄自体時間と共に変化していく。収益は変化し資本構造も変わり得る。そしてボラティリティも変化し得る。ヒストリカルでの平均は、コンセンサス予測の代替にはなり得ない。
 2つ目の代替案は\mathrm{APT}である。とはいえ興味深いツールではあるものの、コンセンサス期待リターンのソースとしてはそうだとは言えない。

2.2 リターンの分解

 \mathrm{CAPM}は2つの構成概念からなり、1つ目は市場ポートフォリオMという概念であり、2つ目はベータ(\beta)の概念である。理論的に市場ポートフォリオはすべての資産を含む。実務上は、取引可能な内国エクイティの何らかの価値加重平均指数、たとえば日本の\mathrm{TOPIX}、を市場ポートフォリオと見なす。
 超過リターンr_Pを持つ任意のポートフォリオPおよび超過リターンr_Mを持つ市場ポートフォリオMを考えよう*2。このときポートフォリオPのベータを


\begin{aligned}
\beta_P=\displaystyle{\frac{\mathrm{Cov}\left[r_P,r_M\right]}{V\left[r_M\right]}}
\end{aligned}

で定義する。ベータはポートフォリオのリターンと市場ポートフォリオのリターンの共分散\mathrm{Cov}\left[r_P,r_M\right]に比例する。これは将来の予測である。なお市ポートフォリオのベータは1であり、無リスク資産のベータは0である。
 ベータはフォワード・ルッキングな概念であるが、ベータの概念は、時点t=1,\cdots,TにおけるポートフォリオPの超過リターンr_P(t)を同時点の市場ポートフォリオ・リターンr_M(t)に回帰する単回帰モデルに由来するもので、その回帰は


\begin{aligned}
r_P(t)=\alpha_P+\beta_P r_M(t)+\varepsilon_P(t)
\end{aligned}

である。
 回帰から得られた\beta_Pおよび\alpha_Pの推定値は、フォワード・ルッキングなものと区別すべく、実現(ないしヒストリカル・)ベータおよびアルファと呼ばれる。その推定値はポートフォリオが過去の値とどのように関係しあっていたのかを示すものである。ヒストリカル・ベータは、より良い方法があるものの、将来に実現し得るベータの合理的な予測である。
 ベータはリスクおよびリターンを2つの構成に分解する方法でもある。ポートフォリオのベータが既知であるとして、ポートフォリオの超過リターンを市場部分残差部分、すなわち


\begin{aligned}
r_P=\beta_P r_M+\theta_P
\end{aligned}

と分解できる。更に残差リターン\theta_Pは市場リターンr_Mとは無相関であり、そのためポートフォリオPの分散は


\begin{aligned}
\sigma_P^2=\beta_P^2 \sigma_M^2+\omega_P^2
\end{aligned}

である。ここで\omega_P^2ポートフォリオPの残差分散、すなわち\theta_Pの分散である。
 ベータは任意のポートフォリオの超過リターンを2つの無相関な部分、すなわち市場リターンと残差リターンに分解することを可能とする。
 ここまでで、\mathrm{CAPM}は仮定していない。すなわち上記の議論をするのに、理論も仮定も必要ではない

2.3 CAPM

 \mathrm{CAPM}は、任意の資産およびポートフォリオの期待残差リターンが0,すなわちE[\theta_P]=0であると主張している。これはポートフォリオの期待超過リターンE[r_P]=\mu_Pがマーケットの期待超過リターンE[r_M]=\mu_Mおよびポートフォリオのベータ\beta_Pで完全に説明できると計測している。すなわち、


\begin{aligned}
E\left[r_P\right]=\beta_PE\left[r_M\right]=\beta_P\mu_M
\end{aligned}

が成り立つとしている。\mathrm{CAPM}の下では、任意の銘柄ないしポートフォリオの期待残差リターンは0である。期待超過リターンは、銘柄(もしくはポートフォリオ)のベータに比例する。
 \mathrm{CAPM}は全投資家が銘柄に対して同じ見通し(期待リターン見通し)を持ち、リスクの許容度合いのみが相違すると仮定している。
 \mathrm{CAPM}の結果、市場ポートフォリオ保有しなければならない。もし全銘柄のリターンを(時価総額加重ベースで)合算すれば、市場リターンを得ることができ、したがって残差リターンの時価総額加重平均はぴったり0になるはずである。しかし\mathrm{CAPM}は更なる議論を行うことができ、各銘柄の期待残差リターンは0であるとも言っている。

2.4 CAPMは繊細である

 \mathrm{CAPM}による言及の背景にある論理は、実にシンプルである。そのアイディアは、投資家が必要なリスクを取り、不必要なリスクを取らないことを補償することにある。市場ポートフォリオのリスク(市場リスク)は必要である。市場リスクを取ることは避けられない。市場は投資家全体が負担しなければならないリスクという厄介な問題である。一方で、残差リスクは自発的に取るものである。あらゆる投資家が残差リスクを避ける。
 \mathrm{CAPM}の下では、市場と相違するポートフォリオを持つ個人はゼロ・サムゲームに興じていることになる。その参加者は余計なリスクを取っているのに余計な期待リターンを得ることはない。この論理によりパッシブ投資が導かれる。すなわち市場ポートフォリオをバイ・アンド・ホールドすることである。

2.5 CAPMと効率的市場仮説

 \mathrm{CAPM}は効率的市場仮説とは整合的であるものの、等価ではない。効率的市場仮説は3つの強度を持つ、すなわちウィーク、セミストロングおよびストロングである。ウィーク型では投資家は過去のリターンおよび出来高情報のみを使ってはマーケットをアウトパフォームすることができない状態を表す。セミストロング型は一般に公開された情報、すなわち過去の価格に加え、ファンダメンタルズやアナリストの交換された推奨情報などを用いるだけでは市場をアウトパフォームすることができない状態を表す。効率的市場仮説におけるストロング型では投資家は決して市場をアウトパフォームできず、市場価格はすべての情報を織り込んでいるとする。
 \mathrm{CAPM}は少し違った観点からではあるものの、類似した言及をしている。市場と一致しないポートフォリオを有する任意の投資家にとって、市場に対して自分と真逆のポジションを取った投資家が別に存在することは相違ない。したがって、「あまりに愚かな投資家」がいない限り、そうした投資家のいずれかが市場をアウトパフォームするとは期待すべきではない。効率的市場理論は市場価格がすべての有用な情報を反映しているするため、「あまりに愚かな投資家」は存在しないとしている。

2.6 期待リターンとポートフォリオ

 ここまでで、期待残差リターンは0であり、そこからパッシブ運用が最適であるという\mathrm{CAPM}の仮定を述べてきた。平均分散アプローチの下では、より一般的な議論として期待リターンとポートフォリオとの連関を導くことができる。\mathrm{CAPM}を、ポートフォリオの期待リターンと分散のトレードオフを表現する最適化に入力することで、市場ポートフォリオが得られる。別の方向から言えば、市場ポートフォリオから議論を始め、市場ポートフォリオが最適だと仮定すると、\mathrm{CAPM}の期待リターンとまさに整合的な期待リターンを導出することができる。実際、最適と定義した任意のポートフォリオが所与である場合、他の全ポートフォリオの期待リターンは最適ポートフォリオに関してベータで比例する。
 こうした理由から、\mathrm{CAPM}の期待リターンは、均衡期待リターン(\mathrm{consensus\ }\mathrm{expected\ return})と呼ぶことにする。
 アクティブ運用をする場合、その定義から、アクティブ・マネージャーは市場ないし均衡ポートフォリオ保有することはない。したがってそうしたマネージャーの期待リターンは均衡期待リターンと一致することはない。

2.7 事後と事前

 \mathrm{CAPM}は期待に関する理論である。もし任意の銘柄群やポートフォリオの相した銘柄群のベータに対して\mathrm{CAPM}から導出した期待リターンをプロットすれば、切片が金利のリスクフリーレートであるi_Fに等しく、傾きが市場の期待超過リターン\mu_Mに等しい直線を引くことができる。この直線は証券市場線と呼ばれる。
 事後、すなわち事後に実際に実現したリターンを見れば、ポートフォリオのベータに対する実際の超過リターンを見ることができる。事後線(ex post line)は、もし市場ポートフォリオがどう動くかを知っていたとして\mathrm{CAPM}が予想していたリターンの部品を提供する。特に市場リターンがリスクフリー・レートよりも低い期間には直線の傾きが下落する。

2.8 CAPMはどれだけ上手く働くか

 リターンとリスクを市場部分と残差部分に分解できるかは、ベータを予想する能力に依存する。\mathrm{CAPM}は一段進み、全銘柄の期待残差リターンは0だとする。最後の仮定は物議を醸している。理論や高度な統計学の多くは\mathrm{CAPM}の予測値が実際に観測できるか否かという疑問が投げかけられている。
 基本的に、\mathrm{CAPM}は、たとえば全銘柄の期待リターンは全く同じであるといったナイーブな仮説とよく比べられる。抽象的な統計的仮説検定を用いると良い結果を返すことがある。
 アクティブ・マネージャーとしての真の疑問は、\mathrm{CAPM}の背景にある概念はどこまで自らのために活用できるかである。

2.9 アクティブ・マネージャーとの連関

 アクティブ・マネージャーの目標は市場に打ち勝つことである。\mathrm{CAPM}は、全資産の期待リターンはそのベータに比例するのみで、期待残差リターンは0であると主張している。したがって、\mathrm{CAPM}はアクティブ・マネージャーにとっては暗いニュースである。\mathrm{CAPM}の原則はアクティブ・マネージャーにとっては採用できないものである。
 \mathrm{CAPM}はアクティブ・マネージャーには助けになり得る。\mathrm{CAPM}は理論で、社会科学の理論のようであり、必ずしも明確ではない仮定に則っている。特に市場参加者は異なるか情報を持っており、したがって異なる期待を持つ。優れた情報がファンド・マネージャーに超過機会を提供する。絶望する必要はない。成功する機会はあり、\mathrm{CAPM}は何らかの助けになる。
 \mathrm{CAPM}は特に一般の効率的市場理論は、付加価値をどのように予想するかに注目することでアクティブ・マネージャーの助けになる。立証責任はファンド・マネージャーに移る。ファンド・マネージャーは、なぜその洞察が何らかの効率的市場において超過リターンを得るかを擁護することができるに違いない。立証責任というのは不快かもしれない一方で、ファンド・マネージャーはアクティブ戦略のアイディアを発展しマーケティングすることをより深く掘ってより明瞭に考えることになる。アクティブ・マネージャーはしたがって、多少なりとも効率的な市場の精査を避けられないから、保守的で偶然とスキルを混同することがよりないようにし、非生産的な概念を排除するようにすべきである。
 \mathrm{CAPM}はアクティブ・マネージャーに立証責任をシフトさせる。
 \mathrm{CAPM}は、リターンを市場部分と残差部分に類別することでまたアクティブ・マネージャーの助けになる。思い起こしたいのは、リターン分解は何の理論も要求しないということである。ベータの高度な予測のみが必要である。これはファンド・マネージャーが市場リスクをコントロールする助けをになり得、アクティブ・マネージャーの多くは市場のタイミングを厳格に読み取りポートフォリオのベータを1近くに保ち続けることを好むかもしれない。リスク分解はこうしたマネージャーが市場へのポジションを余計に取るのを避けることができる。
 市場部分と残差部分にリターンを分解することはアクティブ・マネージャーの調査を助け得る。ベータをコントロールするのであれば、期待超過市場リターン\mu_Mを予想する必要が無い。マネージャーは残差リターンの予想調査に注力することができる。残差リターンのコンセンサス期待は0であるが、これは便利なスタート時点になる。\mathrm{CAPM}は、マネージャーがその考え方を対比することに対するコンセンサス期待リターンを提供する。
 \mathrm{CAPM}の背景にある考え方はアクティブ・マネージャーに市場のタイミングを取るリスクを避け、コンセンサス期待リターンが0であるという残差リターンの調査に注力することを助ける。

2.10 ベータおよび期待市場リターンの推定

 \mathrm{CAPM}における期待リターンの予測はベータの予測と同程度の精度になる。ベータを予測するには多数の手順がある。過去リターンからヒストリカル・ベータを用いるものが最もシンプルなものである。これよりもわずかに複雑なものはこうしたヒストリカル・ベータをベイズ的手法で修正するものである。
 ヒストリカル・リターンを分析することにより、期待超過市場リターン\mu_Pを推定できる。任意のベータ中立戦略では正確な期待リターン\mu_Pの推定は不要である。ベータが1.0に等しいポートフォリオについて、市場超過リターンはアクティブ・リターンには寄与しない。

*1:手許には原書しかないので、上記書籍と表記が異なる可能性がある。

*2:ここで超過リターンは、ある同一期間におけるある資産のトータルリターンから無リスク資産のトータルリターンを差し引いたものである。

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