証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である
を参考に学んでいく。
6. 債券ポートフォリオ
6.1 債券投資
投資元金に対する債券からの年当たりのリターンは利回り(yield)と呼ばれる。債券には利付債と割引債の他にデリバティブなどを組み込んだ仕組債があり、一概にローリスク・ローリターンとは言い難い。
債券の額面(償還価格)をクーポンを
満期を
最終利回りを
とするとき、時点
での債券価格
は、確定的な世界では
が成り立つ。すなわち割引債であれば
が成り立つ。
逆に現在の価格が分かれば、債券利回り
は
で与えられる。これらは離散時間での債券価格と利回りである。
次に連続的な債券価格の変動と利回りの変動について、債券のボラティリティは償還利回りの変動に対する価格感度の尺度である。価格変動と利回りの関係は、①価格変動により生じる資本損得と②利子所得に関する個々の債券の特性に依存する。
債券価格償還利回り
に対してボラティリティ
は
で与えられる。であるから
は正である*1。
これを変形することで
という債券価格リターンと利回り
に関する微分方程式を得る。
6.2 デュレーションとボラティリティ
債券のボラティリティは償還利回りの変動に対する価格感度の尺度であったのに対してデュレーションは利回り曲線の変化に対する債券価格の感度を表す。
半年ごとに同額のクーポンが支払われ満期を
とする。満期
で額面
が支払われるとする。さらに
とする。デュレーション
は
で定義される。
分母は
に等しいから、
である。
より一般に回目のクーポン支払時点およびクーポンを
とし
を額面とすれば
で定義できる。
デュレーションとボラティリティには密接な関係がある。であるから
とおけば
である。第
期のクーポン
の現在価値は
である。満期
でのキャッシュ・フロー
を額面とクーポンの和とすれば
と書くことができる。を
に関して微分すれば
であるから、直上のに関する式の両辺に
を掛けることで
を得る。であり、
は
の利回りに関して線形の関係にある。
6.3 イミュナイゼーション
イミュナイゼーション(immunization)はスポットレートの変動に対して免疫(immunized)されることを意味し、債券ポートフォリオの運用手段の1つである。債券の償還期間と運用期間とを連動させた債券運用が可能になる。
イミュナイゼーションはデュレーションの概念と密接に関係している。債券価格を利子率
の関数と見なし、その
に関して
の周りで
展開することで
を得る。他方で債券価格は
であり、これをに関して微分することで
を得る。これを更にに関して微分することで
である、に対して
であり
は
に関して下に凸である。
展開で得た結果にこれらを代入することで
であるから、利子率の変化による債券のリターン
は
となる。ここで最後の式展開ではとして近似化した。
とおけばデュレーションの式より
を得る。このときは
の
に関する凸性を表す項であり、
をコンベクシティという。デュレーションは債券の満期
、クーポン
および利子率
に依存して決まる。
6.3.1 イミュナイゼーションの働き
イミュナイゼーションの働き方を調べる。イミュナイゼーションは資産のデュレーションと負債のデュレーションを一致させることにより利子率の変動からの影響を除去する方法である。もしデュレーションが利子率の変動に対する感応度の適正な尺度ならば、期間構造の変動は資産と負債の現在価値に対してもそれぞれ同じ影響を与える。将来の支払義務を満足するためのデュレーションの効果は資産と負債に対しても同様である。
イミュナイゼーションは資産のデュレーションに等しい時期に再投資によるリターン変動を債券価格の変動と一致させることで金利変動から防御することを意図する。凸性も考慮すれば利子率の期間構造の変化に対するより精度の高い防御になり得る。しかし凸性とデュレーションの両方を満たす債券ポートフォリオは割高になり得るため、これらはトレード・オフの関係にある。
6.4 イミュナイズド債券ポートフォリオ
債券ポートフォリオの現在価値をとし、負債の現在価値を
で表す。それぞれを
に関して
展開し3次以上の項を無視すれば、リターンの変動を
に対してそれぞれ
を得る。債券ポートフォリオの現在価値と負債の現在価値が等しいと仮定すると、であり、
であるから、
を得る。ここではそれぞれ債券ポートフォリオおよび負債のデュレーションである。
であるからもし
ならば
である。
を
に関して微分すれば
を得る。同様に
である。
ここで
について、保有期間を確率変数と見なせば、
が上式に対応するから、
はそれぞれ割引された平均保有期間を
とすれば、その保有期間のバラつきを表す。
もしで更に
ならば
である。当初考えた
展開式において、この条件下で
が成立する。すなわち
- 債券ポートフォリオの現在価値は負債の現在価値に等しい。
- 債券ポートフォリオの平均保有期間
は負債の平均保有期間
に等しい。
- 債券ポートフォリオの割引平均保有期間のバラつき
が負債の割引平均保有期間
に等しい。
が成り立つならば、リターンの小さな変動に対して債券ポートフォリオの現在価値は負債の現在価値を常に上回る。こえrを債券ポートフォリオは利子率の変動に対してイミュナイズされたという。
この考えは債券運用に応用されている。利子率変化にイミュナイズドされた債券ポートフォリオの構築を考える。債券ポートフォリオのデュレーションは個々の債権のデュレーションの加重平均である。債券の数を
債券
への投資ウェイトを
債券
のデュレーションを
とし、債券ポートフォリオのデュレーションを
とすれば
である。
*1:そうなるように右辺にマイナスを掛けている。