金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.124-132まで。
8. アメリカン・オプションのMonte Carlo法による評価
アメリカン・オプションの価格は、有限差分法またはツリー法によるのが一般的であった。しかし法でも計算できるようになってきた。
8.5 バックワード・サーチ法
は1変量アメリカン・オプションの最適行使境界を解くバックワード・サーチ法を示した。
時点から満期までを
で離散化する。また時点における株価を
と書く。また時点における株価をグリッド
に分ける。
8.5.1 バックワード・サーチ法によるアメリカン・プット・オプション評価法
満期、行使価格のアメリカン・プット・オプションを考える。価格算出アルゴリズムは①最適行使境界の決定、②停止時刻型法に依るオプション価格の算出、という手順から成る。
最適行使境界は満期から後進的に定める。
まず満期では行使価格を最適行使境界の値とする。
次に満期直前では早期行使価値と持越し価格の差を
で計算する。
アメリカン・プット・オプションでは
が成り立つような最適行使境界値が存在することが知られている。したがって全グリッドについてを計算することで近似的にを算出できる。そして持越し価値は状態から開始する法またはBlack-Scholes式により求めればよい。
8.5.2 バックワード・サーチ法による経路依存型オプション評価
全てではないが早期行使価値に最適行使境界を設けて最適行使判断が可能な経路依存型オプションが存在する。
たとえばアメラジアン・コール・オプションの評価を考える。最適行使境界をと書くことにする。
アメラジアン・コール・オプションではすべての時点およびにおいて
を満たすような最適行使境界が存在する。したがって事前にが把握できれば
による停止時刻型法を構成できる。
また以上の改良版として以下のような構成法がある。
基本的な流れは今までと同様に
- 最適行使境界の決定
- 停止時刻型法によるオプション価格の算出
という手順である。
以下、最適行使境界の決定方式を述べる。
で算術平均値を定める。この時株価のグリッドを
で分ける。またアメラジアン・コール・オプションのペイオフ関数を
とする。
今、離散時間を考えているので、最適行使境界を定めるには、各時点について曲線として描かれる境界曲線を定めればよく、それをと書くことにし、特に株価に注目する場合、と書くものとする。この境界曲線を満期から後進的に最適行使境界を境界曲線の集合として定める。
まず時点ではである。
次にその1時点前であるにおける境界曲線を定める。この際、
について個の境界曲線の値を計算し、その後にこれらを直線で補間することで境界曲線を定める。具体的には、状態を固定し、このときの平均株価をとおけば、早期行使価値と持越し価値の差は
と書ける。
したがって状態における平均株価に関して
が成立する。平均値に関する全グリッド点についてを計算すれば、子の符号が入れ替わる点から境界曲線の値を近似的に算出可能である。
グリッド点における持越し価値
は状態からスタートする単純な法で求める。
なお異時点先におけるアメラジアン・コール・オプションのペイオフは平均値を
で算出した上で
で得る。
以上の操作をについて行うことで境界曲線の値
を得ることが可能で、これらを直線で補間することで境界曲線を決定する。
更に時点における境界曲線を定める。これには既に定まっているを用いる。
具体的には、状態を固定し、このときの平均株価をとおけば、早期行使価値と持越し価値の差は
と書ける。したがって状態における平均株価に関して
が成立する。時点のときと同様に平均値に関する全グリッド点
についてを計算することで境界曲線を近似的に算出できる。
各グリッドにおける持越し価値
は同グリッドからスタートする停止時刻型法により計算すればよい。
そして時点における最適行使判断は、この時点で既知である境界局面を用いた最適行使基準で行う。また時点における平均値は
により算出する。は前述した
にて求める。
以上のようにの順番で境界局面を定めていくことで、最終的に最適行使境界を定めることが出来、第1段階としての最適行使境界を決定することができる。
ただし本方法の適用範囲には制約条件が2つある:
- 停止時刻型法を用いるため、最適行使境界が存在しないと利用できない。
- バックワードに最適行使境界を定めるため、その途中で算出すべき式(たとえば算術平均値)が将来データや2時点以上前のデータを持つと計算できない。