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金融工学でのモンテカルロ法(18/22):アメリカン・オプションの評価(5)バックワード・サーチ法

 金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.124-132まで。

8. アメリカン・オプションのMonte Carlo法による評価

 アメリカン・オプションの価格は、有限差分法またはツリー法によるのが一般的であった。しかしMonte Carlo法でも計算できるようになってきた。

8.5 バックワード・サーチ法

 Grant, Vora and Weekは1変量アメリカン・オプションの最適行使境界を解くバックワード・サーチ法を示した。
 時点0から満期Tまでを


\begin{aligned}
t_j,\ j=1,2,\cdots,M,\ M\Delta t=T
\end{aligned}

で離散化する。また時点t_jにおける株価を


\begin{aligned}
S_j,\ j=0,1,\cdots,M
\end{aligned}

と書く。また時点t_jにおける株価をグリッド


\begin{aligned}
0\lt S_{j}^{1}\lt\cdots\lt S_{j}^{g}\lt\cdots\lt S_{j}^{G}\lt\infty
\end{aligned}

に分ける。

8.5.1 バックワード・サーチ法によるアメリカン・プット・オプション評価法

 満期T、行使価格Kアメリカン・プット・オプションを考える。価格算出アルゴリズムは①最適行使境界の決定、②停止時刻型Monte Carlo法に依るオプション価格の算出、という手順から成る。
 最適行使境界は満期t_Mから後進的に定める。
 まず満期t_Mでは行使価格Kを最適行使境界の値とする。
 次に満期直前t_{M-1}では早期行使価値と持越し価格の差d(S_{M-1}^{g})


\begin{aligned}
d(S_{M-1}^{g})=&\max[K-S_{M-1}^{g},0]-e^{-r\Delta t}E_{M-1}[P_{M}|S_{M-1}^{g}],\\
P_{M}(S_{M})=&\max[K-S_M,0]
\end{aligned}

で計算する。
 アメリカン・プット・オプションでは


\begin{aligned}
\left\{
\begin{array}{ll}
d(S_{M-1})&\geq0\ \Leftrightarrow\ S_{M-1}\lt S_{M-1}^{*}\ \Leftrightarrow\ 早期行使が最適\\
d(S_{M-1})&\lt0\ \Leftrightarrow\ S_{M-1}\gt S_{M-1}^{*}\ \Leftrightarrow\ 持越しが最適
\end{array}
\right.
\end{aligned}

が成り立つような最適行使境界値S_{M-1}^{*}が存在することが知られている。したがって全グリッド\{S_{M-1}^{g};g=1,\cdots,G\}についてd(S_{M-1}^{g})を計算することで近似的にS_{M-1}^{*}を算出できる。そして持越し価値E_{M-1}[P_M|S_{M-1}=S_{M-1}^{g}]は状態(t_{M-1},S_{M-1}^{g})から開始するMonte Carlo法またはBlack-Scholes式により求めればよい。

8.5.2 バックワード・サーチ法による経路依存型オプション評価

 全てではないが早期行使価値に最適行使境界を設けて最適行使判断が可能な経路依存型オプションが存在する。

 たとえばアメラジアン・コール・オプションの評価を考える。最適行使境界を\bar{S}^{*}(t,S(t))と書くことにする。
 アメラジアン・コール・オプションではすべての時点tおよびS(t)において


\begin{aligned}
\left\{
\begin{array}{ll}
\bar{S}(t)\geq& \bar{S}^{*}(t,S(t))\ \Leftrightarrow\ 早期行使が最適\\
\bar{S}(t)\lt& \bar{S}^{*}(t,S(t))\ \Leftrightarrow\ 持越しが最適
\end{array}
\right.
\end{aligned}

を満たすような最適行使境界\bar{S}^{*}(t,S(t))が存在する。したがって事前に\bar{S}^{*}(t,S(t))が把握できれば


\begin{aligned}
\tau=\inf\{t\gt0: \bar{S}(t)\geq \bar{S}^{*}(t,S(t))\}
\end{aligned}

による停止時刻型Monte Carlo法を構成できる。

 また以上の改良版として以下のような\bar{S}^{*}(t,S(t))構成法がある。
 基本的な流れは今までと同様に

  • 最適行使境界の決定
  • 停止時刻型Monte Carlo法によるオプション価格の算出

という手順である。
 以下、最適行使境界の決定方式を述べる。


\begin{aligned}
\bar{S}_j=\displaystyle{\frac{1}{j}\sum_{k=1}^{j}S_k}
\end{aligned}

で算術平均値\bar{S}_jを定める。この時株価S_jのグリッドを


\begin{aligned}
0\lt S_{j}^{1}\lt\cdots\lt S_{j}^{g}\lt\cdots\lt S_{j}^{G}\lt\infty
\end{aligned}

で分ける。またアメラジアン・コール・オプションのペイオフ関数を


\begin{aligned}
f(\bar{S}_j)=\max(\bar{S}_j-K,0)
\end{aligned}

とする。
 今、離散時間t=t_1,\cdots,t_Mを考えているので、最適行使境界\bar{S}^{*}(t,S(t))を定めるには、各時点について曲線として描かれる境界曲線を定めればよく、それを\bar{S}^{*}(t_j,S(t_j))と書くことにし、特に株価に注目する場合、\bar{S}_j^{*}(s)=\bar{S}^{*}(t_j,s)と書くものとする。この境界曲線\bar{S}^{*}(t_j,S(t_j))を満期t_Mから後進的に最適行使境界\bar{S}^{*}(t,S(t))を境界曲線の集合として定める。
 まず時点t_Mでは\bar{S}^{*}_M(s)=Kである。
 次にその1時点前であるt_{M-1}における境界曲線\bar{S}^{*}(s)を定める。この際、


\begin{aligned}
(t_{M-1},S_{M-1}^{g}),\ g=1,\cdots,G
\end{aligned}

についてG個の境界曲線の値\bar{S}_{M-1}^{*}(S_{M-1}^{g})を計算し、その後にこれらを直線で補間することで境界曲線を定める。具体的には、状態(t_{M-1},S_{M-1}^{g})を固定し、このときの平均株価を\bar{s}とおけば、早期行使価値と持越し価値の差d(S_{M-1}^{g},\bar{s})


\begin{aligned}
d(S_{M-1}^{g},\bar{s})&=\max[\bar{s}-K,0]-e^{-r\Delta t}E_{M-1}[P_M|S_{M-1}^{g},\bar{s}]\\
P_{M}(\bar{S}_M)&=\max[\bar{S}_M-K,0]
\end{aligned}

と書ける。
 したがって状態(t_{M-1},S_{M-1}^{g})における平均株価\bar{s}に関して


\begin{aligned}
\left\{
\begin{array}{ll}
d(S_{M-1},\bar{s})\geq0\ &\Leftrightarrow\ ,\bar{s}\lt S_{M-1}^{*}(S_{M-1}^{g})\ \Leftrightarrow\ 早期行使が最適\\
d(S_{M-1},\bar{s})\lt0\ &\Leftrightarrow\ ,\bar{s}\gt S_{M-1}^{*}(S_{M-1}^{g})\ \Leftrightarrow\ 持越しが最適
\end{array}
\right.
\end{aligned}

が成立する。平均値に関する全グリッド点\bar{s}=\bar{S}_{M-1}^{h},h=1,\cdots,Hについてd(S_{M-1}^{g},\bar{s})を計算すれば、子の符号が入れ替わる点から境界曲線の値\bar{S}_{M-1}^{*}(S_{M-1}^{g})を近似的に算出可能である。
 グリッド点(t_{M-1},S_{M-1}^{g},\bar{S}_{M-1}^h)における持越し価値


\begin{aligned}
E_{M-1}[P_M|S_{M-1}^{g},\bar{S}_{M-1}^{h}]
\end{aligned}

は状態(t_{M-1},S_{M-1}^{g},\bar{S}_{M-1}^h)からスタートする単純なMonte Carlo法で求める。
 なお異時点先におけるアメラジアン・コール・オプションのペイオフは平均値を


\begin{aligned}
\bar{S}_M=\displaystyle{\frac{(M-1)\bar{S}_{M-1}^{h}+S_M}{M}}
\end{aligned}

で算出した上で


\begin{aligned}
f(\bar{S}_M)=\max\{\bar{S}_{M}-K,0\}
\end{aligned}

で得る。
 以上の操作をg=1,\cdots,Gについて行うことで境界曲線の値


\begin{aligned}
\bar{S}_{M-1}^{*}(S_{M-1}^{g}),\ g=1,\cdots,G
\end{aligned}

を得ることが可能で、これらを直線で補間することで境界曲線\bar{S}_{M-1}^{*}(s)を決定する。
 更に時点t_{M-2}における境界曲線\bar{S}_{M-2}^{*}(s)を定める。これには既に定まっている\bar{S}_{M}^{*}(s),\bar{S}_{M-1}^{*}(s)を用いる。
 具体的には、状態(t_{M-2},S_{M-2}^{g})を固定し、このときの平均株価を\bar{s}とおけば、早期行使価値と持越し価値の差d(S_{M-2}^{g},\bar{s})


\begin{aligned}
d(S_{M-2}^{g},\bar{s})&=\max[\bar{s}-K,0]-e^{-r\Delta t}E_{M-2}[P_{M-1}|S_{M-2}^{g},\bar{s}]\\
P_{M-1}(\bar{S}_M)&=\left\{
\begin{array}{ll}
e^{-r\Delta t}P_M(S_M,\bar{S}_M),&\ \bar{S}_{M-1}\leq \bar{S}^{*}(t_{M-1},S_{M-1}),\\
\bar{S}_{M-1}-K,&\ \bar{S}_{M-1}\gt \bar{S}^{*}(t_{M-1},S_{M-1})
\end{array}
\right.
\end{aligned}

と書ける。したがって状態(t_{M-2},S_{M-2}^{g})における平均株価\bar{s}に関して


\begin{aligned}
\left\{
\begin{array}{ll}
d(S_{M-2},\bar{s})\gt0\ &\Leftrightarrow\ ,\bar{s}\lt S_{M-2}^{*}(S_{M-2}^{g})\ \Leftrightarrow\ 早期行使が最適\\
d(S_{M-2},\bar{s})\lt0\ &\Leftrightarrow\ ,\bar{s}\gt S_{M-2}^{*}(S_{M-2}^{g})\ \Leftrightarrow\ 持越しが最適
\end{array}
\right.
\end{aligned}

が成立する。時点t_{M-1}のときと同様に平均値に関する全グリッド点


\begin{aligned}
\bar{s}=\bar{S}_{M-2}^{h},\ h=1,\cdots,H
\end{aligned}

についてd(S_{M-2}^{g},\bar{s})を計算することで境界曲線\bar{S}_{M-2}^{*}(s)を近似的に算出できる。
 各グリッド(t,S_{M-2}^{g},\bar{S}_{M-2}^{h})における持越し価値


\begin{aligned}
E_{M-2}[P_{M-1}|S_{M-2}^{g},\bar{S}_{M-2}^{h}]
\end{aligned}

は同グリッド(t,S_{M-2}^{g},\bar{S}_{M-2}^{h})からスタートする停止時刻型Monte Carlo法により計算すればよい。
 そして時点t_{M-1}における最適行使判断は、この時点で既知である境界局面\bar{S}_{M-1}^{*}(s)を用いた最適行使基準で行う。また時点t_{M-1}における平均値\bar{S}_{M-1}


\begin{aligned}
\bar{S}_{M-1}=\displaystyle{\frac{(M-2)\bar{S}_{M-2}^{h}+S_{M-1}}{M-1}}
\end{aligned}

により算出する。\bar{S}_{M}は前述した


\begin{aligned}
\bar{S}_M=\displaystyle{\frac{(M-1)\bar{S}_{M-1}^h+S_M}{M}}
\end{aligned}

にて求める。
 以上のようにt_{M},t_{M-1},t_{M-2}の順番で境界局面\bar{S}_{j}^{*}を定めていくことで、最終的に最適行使境界\bar{S}^{*}(t,S(t))を定めることが出来、第1段階としての最適行使境界を決定することができる。

 ただし本方法の適用範囲には制約条件が2つある:

  • 停止時刻型Monte Carlo法を用いるため、最適行使境界が存在しないと利用できない。
  • バックワードに最適行使境界を定めるため、その途中で算出すべき式(たとえば算術平均値)が将来データや2時点以上前のデータを持つと計算できない。
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