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金融工学でのモンテカルロ法(16/22):アメリカン・オプションの評価(2)停止時刻型モンテカルロ法

 金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.112-115まで。

8. アメリカン・オプションのMonte Carlo法による評価

 アメリカン・オプションの価格は、有限差分法またはツリー法によるのが一般的であった。しかしMonte Carlo法でも計算できるようになってきた。

8.1 停止時刻型Monte Carlo法

 まずはバンドリング・アルゴリズム、最適行使境界のバックワード・サーチ法のフレームワークとなる停止時刻型Monte Carlo法を定義し、基本的な枠組みを示す。

 停止時刻Monte Carlo法とは、停止時刻が定義できる場合にその停止時刻\tauにおいて1つのパスを終了させ、同時点でペイオフを確定させるMonte Carlo法である。
 停止時刻\tauにおけるペイオフh(\tau)とおけば、\tauを確率変数と見なして


\begin{aligned}
E[e^{-r\tau}h(\tau)\boldsymbol{1}_{\{\tau\lt T\}}]+E[e^{-rT}h(\tau)\boldsymbol{1}_{\{\tau\geq T\}}]
\end{aligned}

でオプション価格を算出する。

8.1.1 事例:株価リンク債への応用

 株価S(t)が満期Tまでに予め定められた株価水準(閾値Kを下回れば、その時点で価格Kで期限前償還され、株価が満期Tまで閾値を下回らなければ、満期株価S(T)が償還されるような証券を考える。
 このとき停止時刻\tau


\begin{aligned}
\tau=\displaystyle{\inf_{0\leq t\leq T}\{t:S(t)\leq K\}}
\end{aligned}

により定義できる。
 停止時刻型Monte Carlo法を用いることで


\begin{aligned}
E[e^{-r\tau}h(\tau)\boldsymbol{1}_{\{\tau\lt T\}}]+E[e^{-rT}h(\tau)\boldsymbol{1}_{\{\tau\geq T\}}]
\end{aligned}

を算出できる。

株価リンク債価格の算出アルゴリズム

(1) i=1とする。
(2) 株価サンプルパス
\begin{aligned}\boldsymbol{S}_i=&(S_{i1},\cdots,S_{iM}),\\S_{ij}=&S_{i(j-1)}+rS_{i(j-1)}\Delta t+\sigma\sqrt{\Delta t}S_{i(j-1)}\xi_{ij},\\j=&1,2,\cdots,M,\ M\Delta t=T,\ \xi_{ij}\sim N(0,1)\end{aligned}
を、S_{it}\lt Kになるまで、またはM=Tになるまで生成する。
(3) 株価の第iサンプルパスにおいて株価が閾値Kを初めて下回る時点を\tau_iとして
 (a)もし\tau_i\lt TならばペイオフX_i=e^{-r\tau_i}Kとする、
 (b)もし\tau_i\geq TならばペイオフX_i=e^{-rT}S(T)とする。
(4) i=2,3,\cdots,Nとして(2)-(3)を繰り返す。
(5) 証券価格を
\begin{aligned}\displaystyle{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}X_i}\end{aligned}
で算出する。

8.2 アメリカン・プット・オプション評価における停止時刻型Monte Carlo法

 アメリカン・プット・オプションでは満期前での権利行使が最適になる場合がある。具体的には株価がある程度下がった場合にはそこで権利行使するのが最適になるような株価水準S^{*}(t)が存在し、それを最適行使境界または早期行使境界と呼ぶ。これはオプションの早期行使価値がある程度以上に高まった場合にはその時点で行使することに等しい。

 一般にアメリカン・プット・オプションを時点tにおいて行使すべきかは、早期行使する場合の価値e(t,S(t))および持ち越した場合の価値V(t,S(t))の差額


\begin{aligned}
d(t,S(t))=e(t,S(t))-V(t,S(t))
\end{aligned}

を用いた最適行使基準


\begin{aligned}
d(t,S(t))&\geq 0\Leftrightarrow 早期行使が最適である\\
d(t,S(t))&\lt 0\Leftrightarrow 持ち越しが最適である
\end{aligned}

により判断する。
 ただしアメリカン・プット・オプションの場合、最適行使境界S^{*}(t)が存在することが分かっているため、それを特定できるならば、最適行使基準は


\begin{aligned}
S(t)&\geq S^{*}(t)\Leftrightarrow 早期行使が最適である\\
S(t)&\lt S^{*}(t)\Leftrightarrow 持ち越しが最適である
\end{aligned}

に置き換えることが出来る。
 Monte Carlo法では前進的にパスを生成させるため、持ち越し価値V(t,S(t))が定まらない。そのため一般的な最適行使基準による判定ができない。一方で時刻tにおいて最適行使境界S^{*}(t)を定めるためには、時刻t以降の最適行使境界[texS^{*}(t)]を定めるためには、時刻t以降の最適行使境界S^{*}(u),\ t\leq u\leq Tが必要となり、これも前進的にパスを発生させるMonte Carlo法には算出が難しい。

8.2.1 事例:アメリカン・プット・オプションへの応用

 実際に、アメリカン・プット・オプションの評価に停止時刻型Monte Carlo法を応用する。ただしS^{*}(t)が既知であると仮定する。
 このとき、停止時刻\tau


\begin{aligned}
\tau=\displaystyle{\inf_{0\leq t\leq T}\{t: S(t)\leq S^{*}(t)\}}
\end{aligned}

により定義する。
 これにより停止時刻型Monte Carlo法によるオプション価格


\begin{aligned}
E[e^{-r\tau}\max\{K-S(\tau),0\}\boldsymbol{1}_{\{\tau\lt T\}}]+E[e^{-rT}\max\{K-S(T),0\}\boldsymbol{1}_{\{\tau\geq T\}}]
\end{aligned}

を算出する。

アメリカン・プット・オプションの算出アルゴリズム

(1) i=1とする。
(2) 株価サンプルパス
\begin{aligned}\boldsymbol{S}_i=&(S_{i1},\cdots,S_{iM}),\\S_{ij}=&S_{i(j-1)}+rS_{i(j-1)}\Delta t+\sigma\sqrt{\Delta t}S_{i(j-1)}\xi_{ij},\\j=&1,2,\cdots,M,\ M\Delta t=T,\ \xi_{ij}\sim N(0,1)\end{aligned}
を、S_{it}\lt S^{*}(t)になるまで、またはM=Tになるまで生成する。
(3) 原資産価格の第iサンプルパスにおいて株価が閾値S^{*}(t)を初めて下回る時点を\tau_iとして
 (a)もし\tau_i\lt TならばペイオフX_i=e^{-r\tau_i}\max(K-S(\tau_i),0)とする、
 (b)もし\tau_i\geq TならばペイオフX_i=e^{-rT}\max(K-S(T),0)とする。
(4) i=2,3,\cdots,Nとして(2)-(3)を繰り返す。
(5) 証券価格を
\begin{aligned}\displaystyle{\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}X_i}\end{aligned}
で算出する。

8.3 エキゾチック・オプション評価における問題点

 経路依存型オプションや多資産のオプションでは、早期行使の判断を多数の変数により行うため、停止時刻型Monte Carlo法を上手く構成できるとは限らない。早期行使価値を基準にする最適行使境界を定義するのも難しい。
 たとえば多資産を原資産とするオプションでは一部の試算では早期行使が、残りでは持ち越しが最適であるとなってしまった場合、ペイオフの形状次第でオプション自体の行使可否の判断が付かない。
 以降で解説するバンドリング・アルゴリズムおよび最適行使境界のバックワード・サーチ法はプレーン商品にのみ、また後者の改良版はアメリカン平均値オプションでのみ利用可能である。

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