金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.153-165までを取り扱う。
8. 準Monte Carlo法
法は
- 問題に沿った(同時)分布に従う(多変量)乱数列の生成
- その乱数列を使った計算
の2つの部分に分けて考えられる。乱数列の生成は更に
- 一様分布に従う乱数列の生成
- それを元にした必要な同時分布に従う乱数列の生成
に分けられる。
8.1 準Monte Carlo法
準法は-列を用いて次元の超立方体での積分を計算する手法である。もし解こうとする問題が超立方体での積分で表現できる場合、準法を適用できる。通常の法において点列(擬似乱数列)を-列に取り換えればよい。
法と準法では様々な性質が異なる:
相違点 |
法 |
準法 |
(1) 用いる点列の性質 | 擬似乱数列 | -列 |
(2) 基盤となる定理 | 大数の法則・中心極限定理 | -の不等式 |
(3) 誤差のオーダー | ||
(4) 誤差の上限 | 存在するとは限らない。 | 存在する。 |
準法の方が誤差のオーダーが低いため、より少ない試行回数で正しい値に近い計算結果が得られる可能性がある。
8.2 van der Corput列
-列の1つである 列を用いた準法を考える。そのために 列を定義する。
その準備として進法で表した際の10進法整数を小数点で対称に折り返した- を定義する:
進法の整数をで表したときの桁目の数字を、すなわち
とする。このとき
を基数の- という。
のすべての整数でが成り立つ。
これを基に 列を定義する:
ある整数について
で得られる点列を基数の 列という。
例として、1次元の積分
を計算する。
これを、 列の最初の個からなる点集合を用いて
で近似する。
まで取ると、数値積分の典型的な手法である台形則での離散点に一致する。
8.3 Low-discrepancy列
-列を説明する。その前にまずを考える。とは生成した各点の散らばり具合を表す概念である。
8.3.1 一次元のdiscrepancy
まず1次元で有限な場合を考える。線分上に個の点からなる点集合を取る。この線分の上でをからまで動かしたときにに入るの個数をと書くことにする。このとき
- をに入る点の比率とする。
- の軌跡を平面にプロットすることで階段状のグラフを得る。
- この平面に傾きがの直線を書き加える。
- この階段と直線の2つの線の食い違いの度合いを点集合のとする。
食い違いの度合いは以下の にて測る:
点集合において
これを基に-列を以下で定義する:
以上のすべてのについて
を満たす点集合を-列という。
この-列を使った準法での誤差を評価する。
が成立する。
すなわち準法の結果と真の解の差は点列の を用いてで押さえられる。
8.3.2 多次元のdiscrepancy
次元のを定義すべく、まずは前提事項を導入する。
をの中の点集合とし、をの中の点とする。また
とし、に入るの個数をとする。このとき、
を点集合の という。
点列においての最初の個を取った点集合の をと書く。更に多次元の-列は1次元と同様に定義される:
以上のすべてのについて
を満たす点集合を-列という。
の準法に関する誤差は次の-の不等式に基づき評価できる:
がで-の意味での有界変動を持てば
が成立する。
-列では、に対してが十分に小さければ、準法では試行回数を増やすとほぼのオーダーで誤差が小さくなる。また通常の法ではその根拠となる中心極限定理が確率収束であることから誤差は上限を持たない一方で、準法では-の不等式により確定的な上限が存在する。
8.3.3 さまざまな多次元low-discrepancy列
多次元の-列にはさまざまなものがある。
- 列
互いに素な個の基数に対して- を用いて
で表される点列をHalton列である。
- '列
基数の 列の2進法での表現において桁目の数字に着目すれば
を繰り返す。ここでを前から順に個ずつのまとまりに分けて、そのまとまりにおいて桁の数字とを
と入れ替えても全体として-列であることには変わらない。このように互いに異なる-列を個束ねて次元のベクトルの列にしたものを'列という。
- 列
列は次元の問題に対して以上の素数を基数として用いる-列である。
- 最初の次元について基数の 列、すなわちとなるを用いてとおく。
- 残りの次元については
- これらをまとめて列を得る。
8.4 準Monte Carlo法での正規分布
-列はで一様に分布する確率変数の期待値計算に用いられる点列である。したがって準法で相関のある多次元正規分布に従う確率変数を扱うためには分解と逆関数法を用いてで一様に分布する確率変数の問題に変換する。
逆関数法と分解を順番に用いることでで一様に分布する確率ベクトルから、多次元標準正規分布に従う確率ベクトルを介して一般の多次元正規分布に従う確率ベクトルが得られる。これをからに逆に辿ると、一般の多次元正規分布による期待値計算がで一様に分布する確率変数による期待値計算に置き換えられる。したがって一般の多次元正規分布を扱う問題が準法に置き換えられる。
このを用いることで、一般の多次元正規分布を扱った問題を準法で解くことが出来る。