今回から、金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.79-82まで。
- 問題に沿った(同時)分布に従う(多変量)乱数列の生成
- その乱数列を使った計算
の2つの部分に分けて考えられる。乱数列の生成は更に
- 一様分布に従う乱数列
の生成
- それを元にした必要な同時分布に従う乱数列
の生成
に分けられる。
6. 条件付きモンテカルロ法
Monte Carlo法は高次元問題を取り扱うことはできるものの、誤差を減らすには大きな時間が掛かり時間効率が低い。そこで本章では時間効率を上げるための手段の1つとして条件付きMonte Carlo法を説明する。期待値の取り方を変更することで解の誤差分散を減らす方法の1つである。
Monte Carlo法による関数の積分値を
と書くことにすると、Monte Carlo法のアイディアは以下の2つに分けることが出来ると言える:
- 関数
を同じ積分値を取る別の関数に置換え
- 期待値
の取り方を変更
関数 |
期待値 |
(1) 負の相関法 | (1) 条件付きMonte Carlo法 |
(2) 制御変量法 | (2) 層別化法 |
(3) 回帰分析法 | (2-1) ラテン・ハイパーキューブ法 |
(4) マルチンゲール分散法 | (2-2) Curranの方法 |
(3) 加重サンプリング法 | |
(4) 測度変換法 |
6.1 条件付きMonte Carlo法の原理
を確率変数とする。全確率の公式から
が成り立つ。また条件付き分散を
で定義する。
このときJensenの不等式を用いることで
が成立する。したがって推定対象をとする単純なMonte Carlo法よりも条件付きMonte Carlo法の方が誤差分散を小さく出来る。ただし条件付きMonte Carlo法は期待値の演算が二重でMonte Carlo法が入れ子構造を成すため、上手に式変形・利用することでそれを回避できるようにする方が望ましい。
6.2 例:確率ボラティリティ・モデルを用いたコール・オプション価格評価
Hull and Whiteが提案した確率ボラティリティ・モデルを考える。すなわち株価とそのボラティリティが
を満たすとする。ただしは独立である。
このとき、ペイオフ関数が
であるような満期がで行使価格が
であるヨーロピアン・コール・オプションの価格は
で求まる。ここで
でありはBlack-Scholes方程式における解析解である。
このモデルにおけるオプション価格は条件付きMonte Carlo法に外ならず、期待値は解析的に計算できる。したがって
で得られる。ここでは平均ボラティリティの離散近似値で
により定義される。または
により離散化する。
(1) | |
(2) | ボラティリティのサンプルパスを |
(3) | |
(4) | 第 |
(5) |