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金融工学でのモンテカルロ法(01/23):収束の概念

 今回から、金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.17まで。

1. 収束の概念

 モンテカルロ法は、乱数により試行を実験的に多数発生させ、その実験値を元に知りたい分布の統計量を得る方法である。その背景には、

  • 多数の試行を実験的に発生させることで、観測値から得た統計量が理論的に欲しい値に近づくことが保障されること
  • 観測値から得た統計量が特定の分布に収束すること

の2つが理論的に保障されていることにある。
 まずはそれらについて説明する。その大前提として実確率変数列\{X_n(\omega)\}および実確率変数X(\omega)について収束の概念を整理する。条件の厳しいものからより緩いものまで順番に説明する。


図1 確率変数に関係する各種収束の概念

(出典:湯前祥二 ・鈴木輝好(2000)*1

 前提とする数学的な設定として、確率空間(\Omega,\mathcal{F},P)としてLebesgue空間(0,1],M(0,1),mを取ることとする。

1.1 一様収束

 一般的な解析学における一様収束と同様の概念である。

 任意の正数\varepsilonに対して充分に大きいある自然数Nを取るとすべての\omega\in(0,1]


\begin{aligned}
n\geq N \Rightarrow |X_n(\omega)-X(\omega)|\lt\varepsilon
\end{aligned}

が成り立つとき、\{X_n(\omega)\}X(\omega)一様収束するという。

1.2 各点収束

 一様収束は個々の点\omegaの値に依存せずに一定以上のNを求めてきた。これを緩めたものが各点収束である。

 任意の正数\varepsilonに対して、\omegaに依存する充分に大きいある自然数N(\omega)を取るとすべての\omega\in(0,1]


\begin{aligned}
n\geq N(\omega) \Rightarrow |X_n(\omega)-X(\omega)|\lt\varepsilon
\end{aligned}

が成り立つとき、\{X_n(\omega)\}X(\omega)各点収束するという。

 各点収束するならば、各点\omega_{i}, i=1,\cdots,n,\cdotsについてN_{i}=N(\omega_{i})とおけば、N:=\max{\{N_{1},\cdots,N_{n},\cdots}\}を取ることで


\begin{aligned}
n\geq N\geq N(\omega) \Rightarrow |X_n(\omega)-X(\omega)|\lt\varepsilon
\end{aligned}

が成り立つ、すなわち一様収束が成り立つ。このように各点収束は一様収束の条件を緩めたものであることが確認できた。
 逆は成り立たない。湯前・鈴木(2000)に挙げられた例を紹介する*2。Lebesgue空間(0,1], M(0,1),m)上の確率変数列\{X_{n}(\omega)\}


\begin{aligned}
X_n(\omega)=\omega+\omega^{n}, \omega\in (0,1]
\end{aligned}

と定義する。このとき、\{X_n(\omega)\}は以下のX(\omega)に各点収束する。


{\displaystyle 
X(\omega)=
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      \omega, \ \ \ \ \ \ \ \ \ \omega\in(0,1) \\
      \omega+1, \ \ \omega=1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
}

しかし\omega=1のときはN\geq1において


|X_n(\omega)-X(\omega)| \lt \varepsilon
が成り立つ一方で、\varepsilon_{0}\gt \omegaを取れば、N=1において

|X_1(\omega)-X(\omega)| \geq \varepsilon_{0}
が成り立つために一様収束ではない。

1.3 概収束

 各点収束はすべての点\omegaにおける収束を求めているものの、確率が0になる点\omegaは頻繁に表れる。実際、連続確率変数を扱っていれば、その値がある値(1点)になるような確率は0である。このような点は興味の範疇から外すこともあり得る。たとえば6面サイコロを振って出た目の確率を考える場合に、7の目が出る事象を考える(定義する)こと自体は可能である。しかしそのような事象が生じる確率は明らかに0で、定義する必要性は無い。そこでこうしたことを加味して各点収束をより緩やかな条件に替えたものとして概収束がある。
 確率1である命題Aが成り立つことを「命題Aほとんど至る所で成り立つ」という*3
 任意の正数\varepsilonに対して、殆ど至る所の点\omegaで充分に大きいある自然数Nを取ると


\begin{aligned}
n\geq N(\omega) \Rightarrow |X_n(\omega)-X(\omega)|\lt\varepsilon
\end{aligned}

が成り立つとき、\{X_n(\omega)\}X(\omega)概収束するという。

 概収束するならば各点収束するが、逆は成り立たない。1.2で与えた例を改めて考える*4。連続な確率変数ではそれが1点を取る確率は0であるから、


\begin{aligned}
X_n(\omega)\rightarrow X(\omega)=\omega, a.s.
\end{aligned}

と概収束するものの、これは\omega=1で成り立たないから各点収束しない。

1.4 確率収束

 ここまでは各点における収束に注目したものであった。視点を変えて、定義域全体のうち収束しない部分の確率測度が0に近づく様子を表すものが確率収束である。これまでは各点\omegaにおける条件であったものの、確率収束は確率の取り方に対する条件であるため、収束しない点が存在し得る点がこれまでとは異なるものである。

 任意の正数\varepsilonに対して、


\begin{aligned}
\lim_{n\rightarrow\infty} P(\{|X(\omega)-X_{n}(\omega)|\gt\varepsilon\})=0
\end{aligned}

が成り立つとき、\{X_n(\omega)\}X(\omega)確率収束するという。

1.5 法則収束

 ここまでは同一の確率空間における議論を扱ってきた。他方で当然ながら、同じような状況に異なる確率空間(特に確率)を設定することは可能であり、そうした確率に関して収束を議論することも可能である。
 
 確率空間(\Omega_{n},\mathcal{F}_{n},P_{n})上の実確率変数列\{X_n(\omega)\}および確率空間(\Omega,\mathcal{F},P)上の実確率変数列\{X(\omega)\}に対し、分布をそれぞれF_{n}(x), F(x)とする。F(x)のすべての連続点xにおいて\{F_n(x)\}F(x)に収束するとき、\{X_n(\omega)\}X(\omega)法則収束するという。

*1:湯前祥二 ・鈴木輝好(2000)「モンテカルロ法金融工学への応用」朝倉書店

*2:同前掲書P.11参照

*3:記号としてはa.e.(almost everywhere)と書くことがある。またこの言い方は測度論の文脈での呼び方で、確率論の文脈では「ほとんど確実に」という(a.s.(alomost surely)と書く)ことがある。

*4:同前掲書P.12参照

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