今回から、金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.17からP.19まで。
2. モンテカルロ法の理論的背景
モンテカルロ法は、乱数により試行を実験的に多数発生させ、その実験値を元に知りたい分布の統計量を得る方法である。その背景には、
- 多数の試行を実験的に発生させることで、観測値から得た統計量が理論的に欲しい値に近づくことが保障されること
- 観測値から得た統計量が特定の分布に収束すること
の2つが理論的に保障されていることにある。
2.1 大数の法則
モンテカルロ法では、試行回数を増やしたときの実現値について、その平均値を取れば元の分布の期待値に近づくと考えている。これを理論的に保障しているのが大数の法則である。
まず期待値を復習しておこう。実確率変数に対して期待値は、その分布関数の確率密度関数(確率質量関数)を()として
で定義する。ただしならば期待値は存在しないものとする。
2.1.1 大数の強法則
さて、確率変数列について、部分和および標本平均
を定義する。このとき以下のKolmogorovの大数の強法則が成り立つ:
確率変数列が互いに独立で同一の分布に従うとする。このとき、ならば、
すなわち標本平均が期待値に概収束する。
逆に標本平均がとしたときにある値に収束するならば、期待値は存在する。
概収束について確認しておくと、
任意の正数に対して、殆ど至る所の点で充分に大きいある自然数を取ると
が成り立つこと
だった。
すなわちこの文脈では、(確率がになるような事象は無視した上で)確率変数を試行して得た値*1について、試行回数をある数よりも大きくすればするほど標本平均は元の分布の期待値に近づいていくと解釈できる。ただし概収束では定数に収束するとは限らない(もっともほとんど至る所定数である)。
*1:実際にモンテカルロ法でシミュレーションして値を具体的に得てしまえば、各値は実現値(慣習的に確率変数は大文字、実現値は小文字で書く)である。ただしシミュレーションで得るつもりだという理論的な段階では、未実現値であるから確率変数で表現する。ただしこれらは確率変数をシミュレーションしたものであるから、いずれの統計的性質(分布や統計量)はすべてに一致するはずである。
*2:https://power-of-awareness.com/entry/2021/08/31/050000参照。