前回、企業分析の第一弾としてユニリーバを調べた。
今回はその後篇ということで、より深くユニリーバを見ていこう。
【今日のポイント】
- 3. ユニリーバは「買い」なのか?
- 4. ユニリーバは「安全」なのか?
- 5. ユニリーバをより深く探る ~ユニリーバのビジネスモデルを考える~
- 6. まとめ ~ユニリーバは規模・OEMを活用した超効率的な企業である~
3. ユニリーバは「買い」なのか?
(1) 利益指標を見てみる:増収増益の優良企業
前回はビジネスとしてどこから売上をあげているかを大雑把に見たに過ぎない。そこで全社的に利益構造を見てみよう。
(図表3 ユニリーバの各利益指標)
どの利益指標を見ても堅調に上昇しているのが分かるが、2017年度からのROEの上昇が顕著である。財務レバレッジが同タイミングで明らかに上昇していることから、ROEが上昇したのは利益が増えたというよりもレバレッジを大きくかけたことが原因である。いずれにしても増収増益なのは確かだ。
(2) 株式指標を見てみる:増収増益を織り込んで株価は高騰
前回簡単に考察したように、Unileverは健全に利益を上げていることが分かった。となれば株式は「買い」なのだろうか?株式指標を見ていこう:
(図表4 ユニリーバの各株式指標)
(出典:Unilever Annual Reportを基に筆者作成)
- BPS(1株当たり純資産):微増している
- EPS(1株当たり利益):2016年までは堅調に伸びたもののそれ以後に悪化したため、結果的に微増した
- EV/EBITDA倍率*1:堅調に伸びている
- PBR(株価純資産倍率):堅調に伸びているうえ、1を大きく上回っており割安と言える
- PCFR(株価キャッシュフロー倍率):堅調に伸びているうえ、1を大きく上回っており割安と言える
- PER(株価収益率):1を非常に大きく上回りつつ堅調に伸びており非常に割高と言える
- PSR(株価売上高倍率):堅調に伸びている
(図表5 Unilever, N.V.(NYSE上場分)の直近10年間の株価推移)
(出典:Yahoo! Finance)
これらを総合すると、長年堅調に利益を上げていることで株価が充分に上がってきており、インカムゲイン目当てでは割に合わないと判断できる。
4. ユニリーバは「安全」なのか?
(1) 債務負担は適正か? ~利益に見合った負債調達を行なっている~
先ほど見たように、2017年度以降、レバレッジを大きくかけることでユニリーバはROEを大きく向上させていることが分かった。そうなると、債務負担の大きさが気になる所だ。そこで、ユニリーバの債務構造を見てみよう。
まず、ユニリーバにとって有利子負債はどのくらいの負担になっているのだろうか?
(図表6 ユニリーバの債務関係指標)
(出典:Unilever Annual Reportを基に筆者作成)
- DEレシオ*2:レバレッジを掛けたことで有利子負債は自己資本の2倍近くにまで上昇している
- インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)*3:一時期上昇したものの、2019年度は2010年度と同水準にまで下落しており、結果的に利息支払の負担は変化していない
- (純)債務償還年数*4:レバレッジを掛けたことで債務償還年数は伸びているものの、日本の伝統的な財務分析で危険度を測るときのメルクマールとなる10年の半分以下であるから、問題ない水準と言ってもよいだろう
- EBITDA純有利子負債倍率:これで見ても債務の負担はあまりないと言ってもよいだろう
これらを総合すると、確かにユニリーバは直近3年でレバレッジを掛けるべく債務負担を増大させてきたものの、それは利益に見合った水準であり*5、特段問題は無いと言えそうだ。
5. ユニリーバをより深く探る ~ユニリーバのビジネスモデルを考える~
(1) ユニリーバのバリューチェーン
ここまでで、財務指標を通じて企業体(連結)としてのユニリーバの業績を見てみたが、非常に優秀な企業であることは分かった。ではこの優秀さはビジネスモデルのどこに秘訣があるのだろうか?
ユニリーバは有り体に言えば非耐久消費財および食品のメーカー、つまり製造業である。そのため、ユニリーバのバリューチェーン(サプライチェーン)としては、
「(原料)調達」 ⇒ 「製造」 ⇒ 「輸送(物流)」 ⇒ 「マーケティング」 ⇒ 「販売」
というフローになりそうだ。
ユニリーバが自称するバリューチェーンを見ると、より詳細であることが分かる*6:
(図表8 ユニリーバのバリューチェーン)
(出典:Unilever*7)
- コンシューマー・インサイト(Consumer Insight):既存の調査手法を通じたソーシャルリスニングを組み合わせながら世界各地に全部で30あるデータセンターを活用し移り変わる顧客心理をトラッキングする
- 協業(Collaboration):必要があれば外部と協業する
- イノベーション(Innovation):顧客心理を踏まえてマーケティングチームとR&Dチームが外部の知見を踏まえながらブランドと製品を創っていく
- 調達(Sourcing):210億ユーロ規模の原材料及び梱包材料を調達し140億ユーロを掛けて事業を成り立たせるためのサービスを活用する
- 製造(Manufacturing):300以上の自社工場と700以上の外部生産者がユニリーバが毎年販売する製品を造る
- 物流(Logistics):400以上の物流企業からなるグローバル・ネットワークが数百万以上ある小売店に1,500億単位以上の製品を流通させている
- マーケティング(Marketing):ユニリーバは世界で2番目に多額を投資する広告主である。また消費者とつながりユニリーバブランドを選ぶのを容易にすべく自前のデジタルコンテンツ作成を増大させている
- 販売(Sales):ユニリーバブランドの製品を190以上の国の消費者がどこでもいつでもアクセスできるようにさまざまなチャネルを用いている。ユニリーバの製品は2,500万の小売店で販売している
これらを受けて毎日25億人がユニリーバの製品を購入しているという。
(2) ユニリーバの高利益率の秘密は何か? ~OEMの活用か?~
ではどうやってあのような高利益率を実現しているのだろうか?ここからは仮説だが、OEMの利用にあるのではないか。
唐突だが、カップスープのブランドをいくつか挙げてみて欲しい。
恐らく「クノール」が含まれているのでは?このクノールは味の素の商品であるように思うかもしれないが、実はユニリーバのものである。ユニリーバからのライセンス生産を受けて製造販売を味の素が一貫して請け負っているのである。
(図表9 ユニリーバのポリシー)
(出典:ユニリーバ公式Webサイト)
これはポリシーに則ったやり方である。こういった形でOEMを活用する一方で、特許が絡むものなど重要なものは自社工場で生産するという形であれば、高利益率を実現できそうだ。
6. まとめ ~ユニリーバは規模・OEMを活用した超効率的な企業である~
以上で簡単にユニリーバを見てきた。ブランドを重要視し、効率的な生産を実現させることでここまで来たということだろう。
他方で、ユニリーバの直近の話題として、二元上場制の廃止がある。
2018年にはオランダへの統合を提案したものの、英国側の株主から猛反発を受けた経緯がある。今度もオランダ側の株主から反発を受ける可能性がある。とはいえ、それの合否が事業を即座に左右するわけでもない。その進退について注視したいところだ。
次回はシーメンスを取り上げたいと思います。乞うご期待!
*1:EBITDAマルチプルとも呼ばれる。EV(事業価値)は期末株価×発行済株式数+純有利子負債で算出した。
*3:支払利息÷事業利益。ユニリーバはIFRS適用会社につき、営業利益+金融収益を事業利益と見なした。
*4:(純)有利子負債÷フリーキャッシュフロー。フリーキャッシュフローは直近3期平均値を用いた。
*6:https://www.unilever.com/Images/unilever-annual-report-and-accounts-2019_tcm244-547893_en.pdf参照。
*7:https://www.unilever.com/Images/unilever-business-model_tcm244-509974_1_en.pdf参照。