2. ニュース(1):バルカン半島
(1) 知っておきたいこと
- 「スレブレニツァの虐殺」から25年が経った
- その間にセルビア側の否認主義は文化的・学術的に加え政治的な支持を得るようになった
コソボ紛争の結果、この事件の舞台となったスルプスカはセルビア人の領土としてスルプスカ共和国となった*1。25年が経ったものの、未だに対立の火種が転がっている。
(出典:日本貿易保険(NEXI)*2)
欧州の弾薬庫たるバルカン半島は21世紀になってもその役割を変えていない。今でもその状況は西欧諸国の懸念となっている。実際、あまり公的に発信を行うことの少ないフランスの対外インテリジェンス機関である対外治安局(DGSE)が2017年に西バルカン諸国の状況に関する報告書を公開している*3。
こうした中で欧州連合(EU)はコソボ、セルビアの加盟を推進している。そもそもEUは、経済格差の大きい加盟国の通貨をユーロで統一することで、元来の経済的強国が経済圏を拡大させていく仕組みであった。しかし、加盟国基準を満たしていなかったギリシャの加盟をコール独首相が独断したように、自壊していく仕組みも同時に組み込まれたものだった。コソボまたはセルビアが加盟することとなれば、EUはまた爆弾を抱えることとなる。
3. ニュース(2):医療用大麻
(1) 知っておきたいこと
2018年ベースではあるが、イスラエルとドイツの人口はそれぞれ888.4万、8,279万人と8倍以上の開きがあるため、医療用大麻の輸入量の多さは推して図るべし、である*4。
(出典:New Frontier Data*5)
そもそもイスラエルは医療用大麻先進国として知られている*6:
今日(引用者註:2018年4月時点)、イスラエルの 50 以上のあらゆる大学や学術機関の研究所において医療用大麻の研究が行われている。包括的な科学的知見と科学的・産業的発展の機会の探究は、他の薬物の扱いと必ずしも同じでなく、イスラエルを大麻改革の道に導いている。同国は1992 年に大麻の医療目的の使用を認め、やがて大麻品種や工業製品の科学研究・開発の中心となった。法令の行使権は特別に設立された保健省医療用大麻局(IMCA)にあり、イスラエル警察、農業省、経済産業省と連携し、科学研究の第一人者であるメシュラム教授率いる運営委員会を創設した。IMCA は栽培・抽出・梱包・流通に関わる様々なライセンスを発行する。IMCA はまた、激痛やその他の症状に悩む患者に対し特別に医療用大麻を処方することのできる臨床医の認定も担当。その他にも、臨場試験の一貫で、病院で大麻を使用することのできる病気もまた認められている。2017年までの時点で、4 万人程の患者がすでに医療用大麻を処方されている。
古代中東のユダ族がかつて宗教儀式で大麻を利用してきたことが学術的に判明しており、そもそも大麻の生育に中東は適当なのだろう*7。他方で今や大麻の主要な生産地はアフリカに移動しつつあるようだ*8。大麻マーケットにおいてもアフリカはエマージング・マーケットになるようだ。
4. ニュース(3):バチカンと金融
(1) 知っておきたいこと
- バチカンは収益不足に金融スキャンダル、そして迫りつつある国際金融部門の検査による危機に晒されている
- 月曜日(6日)にリークされたメモによると、バチカンの各組織が有する資産を宗教事業協会(IOR)に集めるよう伝達したという
歴史的に宗教は「交通(Verkehr)」と金融と結びついてきた。平安時代という、今よりもはるかに諸国への行き来に難のある時代であっても、空海は諸国を行脚してきたわけだ。それは国家権力はさておき、宗教事業体自体がネットワークを有し、衣食住に旅賃(金融)などの面でサポートしてきたからであった。バチカンもその例に漏れない。
第二次世界大戦の後、1960年代には避妊具製造メーカーなど宗教上の禁忌にも触れるような企業にまでバチカンからの投資が流れるほど、金融マーケットにおいて大きなプレゼンスを有していたのだという*9。それが、「バチリークス(Vatileaks)」に始まる様々なスキャンダルに塗れることで根本的な改革を余儀なくされてきたのだった。
前述したEUの自壊システムもそうだが、金融資本主義に支えられたこれまでのインフレ経済がシステム転換するために、宗教事業体も変革しつつある。
(2) まとめ
- バチカンが財政面で危機的状況にある
- グローバル規模でシステム転換が進んでおり、宗教もその例外ではない
5. ニュース(4):デジタル円
(1) 知っておきたいこと
- 日銀の量的緩和が日本経済の成長に寄与していない
- そうした中でデジタル円が日本経済の変革に寄与し得る
人と話していて意外に思うのだが、日本の金融は意外と見くびられているようだ。つい最近金融庁長官に指名された氷見野良三・金融国際審議官は、銀行の国際的な規制を扱うバーゼル規制委員会において主導的な役割を担ってきた一人であり、米欧、それ以外の地域でも大いに知られている*10。日本円のグローバルな流通量シェアを考えれば、明らかなだと思うのだが*11。
(出典:Bank for International Settlement*12)
さて、日銀は欧州中央銀行(ECB)と共同でデジタル通貨の研究を行なってきた。去る2日にはCBDC(中央銀行によるデジタル通貨)の実証実験を行うことを日銀は報告書として公表している*13。このようにデジタル円の導入に向けて日銀が動いているのは間違いないのである。
では、いつそれをやるのか?一つ考えておきたいのは、2024年を目途に財務省が新紙幣を発行するとしていることだ。単にビジネス上の利便性といった理由であれば、リアル通貨からデジタル通貨へと転換する意義は薄い。
逆に言えば、何らかの別の意思があると考えるならばどうだろうか。たとえば、新通貨への切り替えを通じて通貨切り下げを行うということ、である。通貨がデジタル化されることの利点の一つは流通の管理が容易になる点であり、そのための備えとしてデジタル円を準備している可能性もある。
現在が実証実験中であるということであれば、デジタル円の導入は少なくとも2021年以降になると考えるのが妥当だ。
(2) まとめ
- デジタル円は既存の円通貨からの切り替えに用いるのだが、通貨の切り上げ(切り下げ)に用いる可能性を憂慮すべきである
- 早くてもその切り替えは2021年であろう
*2:https://www.nexi.go.jp/webmagazine/country/202003.html参照。
*3:https://www.defense.gouv.fr/fre/content/download/543112/9298500/Interaxions-CR-Balkans-occidentaux-entre-integration%20et%20fragilites-14-12-2017.pdf参照。
*4:ドイツは医療用大麻の供給を完全に輸入依存している(大麻へのドイツのアプローチからヨーロッパは何を学ぶことができますか? •Drugs Inc.eu参照。)。
*5:[https://newfrontierdata.com/cannabis-insights/the-global-hemp-market-expansion/参照。
*6:http://cannabis.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20180528163600-E58B5FB67156756A1AEF6628181C36D0B731B1B620BCB72E8B1FBC1AA4E60F1F.pdf参照。
*7:https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/03344355.2020.1732046参照。
*8:https://blogs.timesofisrael.com/with-israel-as-partner-africa-can-turn-cannabis-into-an-economic-game-changer/参照。
*9:ジャンルイージ・ヌッツィ著、竹下・ルッジェリ・アンナ 監訳、花本知子他訳「バチカン株式会社 金融市場を動かす神の汚れた手」柏書房 参照。
*10:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61245900X00C20A7EE8000/参照。
*11:いろいろ言われている中国の人民元の国際的なシェアはまだまだ日本円に及ばない