統計学に習熟するには線形代数の習得が不可欠である。が、初等的な線形代数ではカバーしきれないような分野も存在する。そこで以下の参考書
を基により高等な線形代数を学ぶ。
5. 一般化逆行列
5.6 Moore-Penrose形一般化逆行列の連続性
-型一般化逆行列の連続性を考える。そのためにまずは一般的な正則行列とその逆行列に関する連続性を議論する。
次正方行列とその逆行列を考える。の行列式はその項(の要素の積を倍または倍したもの)の和で表すことができ、和に関する連続性およびスカラー積に関する連続性により、以下が成り立つ。
次正方行列を正則、すなわちとする。このとき逆行列は、をの随伴行列としたとき、
である。
数列が、であるならば、関数
の連続性から、が成り立つから、
が成り立たなければならない。また随伴行列の各成分は行列式の倍または倍であるから、行列式関数の連続性から、の随伴行列に対して、も導かれる。
以上をまとめることで、以下の定理を得る。
次いで-型一般化逆行列の連続性を考える。一般に、行列および列についてであるとしても、とは限らない。実例からその例を見てみよう。
例
に対して、次正方行列の列を考える。ここでとする。
とおけば、明らかにである。しかし、すべてのにおいて、であるのに対してであることに注意すれば、これがであることが理由であると推察できる。実際、
では成分が正の無限大に発散するので決して収束しない一方で、
である。
以上の例から、の連続性はそのランクで議論できる可能性が分かった。実際の以下の定理が知られている。
-型一般化逆行列は推定や仮説検定において重要な意味を持つ。以下の例で見てみよう。
例:一致性と-型一般化逆行列の連続性
標本サイズがであるような標本から計算された母数の推定量が確率収束する、すなわちが成り立つならば、推定量は母数の一致推定量であるという。
一致性に関しては、一致推定量の連続関数も一致推定量になることが知られている。この考えを-型一般化逆行列の推定を含む状況へ適用しよう。
を階数の次非負定値共分散行列とする。また行列は未知で推定の対象であるとする。
ここでの一致推定量でであるようなが見つかったとする。すなわちの各成分はの対応する成分の一致推定量であると仮定する。このときであるから、はの一致推定量ではない。
したがって、もしがであるようなのスペクトル分解であるならば、の一致性は、が増加するにつれてにおける小さい方から個までの対角成分がに収束し、における大きい方から個までの対角成分が限りなく大きくなることを意味する。