以下の書籍
を中心に時系列解析を勉強していきます。
前回
8. GARCHモデル
8.2 GARCHモデル
8.2.3 GARCHモデルの統計的推測
モデルの推定はたいてい(条件付き)最尤法で行う。具体的には同時密度を条件付き密度に分解した
を最尤推定の対象とする。問題なのがの計算である。たとえば
の分布として、正規分布、
分布または一般化誤差分布を与えた場合の推定を考えることにする。一般に正規分布を仮定してもある程度のファットテイル性を確保できるものの、実証上は不充分であり、
分布や一般化誤差分布を用いることが普通である。
まずの場合を考える。このとき
の条件付き分布も正規分布であるから、
である。したがって
のとき
で与えられる。
次にの場合を考える*1。この場合、
の条件付き分散が
に等しくなる。このとき
は
で与えられる。
最後にの場合、
は
で与えられる。ここで
である。
8.2.4 GARCHモデルの選択と診断
複数のモデルから当てはまりの良いモデルを選択するには情報量基準を用いることが多い。ただし情報量基準が正当化されるのは、真のモデルを含むパラメトリックモデルのみである。そのため異なる分布族の比較、たとえば
モデルと
モデルの比較はできない。
真のモデルでは
は
系列になるから、
は自己相関を持たない。そのためもし選択した
モデルが正しいモデルであるならば、推定結果から得られる標準化した推定誤差
およびは自己相関を持たないはずである。そこで
の自己相関を検定することでモデルの診断をおこなうことができる。ただしこの診断は推定値
を用いた検定であるから、モデルに応じて修正が必要になる。
8.3 多変量GARCHモデル
多変量モデルを紹介する。一般に
変量
モデルは
と書ける。の分布には、分散共分散行列が
となるように基準化された自由度
の多変量
分布を用いることもある。上のモデルでは、
を時点
における情報集合
に含まれる変数でモデル化すると、
となるから、は
の条件付き分散共分散行列になる。これは対称行列であるから、
個の独立な成分を持つ。これらをモデル化するための代表的なモデルを以下では紹介する。
8.3.1 VECモデル
行列に対して
演算子を
すなわち下三角成分を列方向を優先に並べた列ベクトルと定義するとき、モデルは
で定義する。モデルは
モデルの自然な拡張であるが、
の増大に伴い変数の数が急速に大きくなるという問題がある。
過剰パラメータ問題を解決するために改良したモデルが、
を対角行列に限定した
モデルである。具体的には
とモデル化する。
モデルでは、条件付き分散がその他の変数の条件付き分散や攪乱項の影響を受けなくなっているため、条件付き分散間の相互依存関係は存在しない。したがって変数間の動学的依存関係をモデル化するには適当とは言い難い。
8.3.2 BEKKモデルとCCCモデル
モデルにおける問題点を解消するためのモデルの1つに
モデルがある。
モデルは
で与えられる。は
次正方行列、
は
次対称行列である。このモデルの利点の1つは
が正定値であれば
も正定値になるという点である。
このモデルは正定値性を保証できること、モデルよりも変数の数が少ないこと、変数数の少なさに対して条件付き分散間の相互依存関係を柔軟にモデル化できるため、非常に良く用いられる。
他によく用いられるのがモデルである。
の条件付き相関が時間を通じて一定であると仮定し、条件付き分散と共分散のみが動学的依存関係を持つ。具体的には、まず
の対角成分のみを1変量
モデルでモデル化し、
とおく。またの
成分(
)は、事変的でない相関行列
の
成分を用いて
とする。モデルにおける
は
と書くことができる。
8.4 相関変動モデル
多変量モデルにおいては変数間の動学的関係の分析が主目的の1つであるが、そこで重要な役割を果たすのは相関係数である。そのため変数間の動学的関係を分析するには条件付き相関係数をモデル化する方が望ましく、これらは直接的にモデル化する。
8.4.1 DCCモデル
モデルは
モデルにおける条件付き相関を事変的に拡張したもの、すなわち
という形に拡張したモデルと見なすことができる。
モデルの1つに、
による
モデルがある。このモデルでは
と拡張する。ここで
とする。は各変数の標準化残差からなるベクトルで、
で与えられる。さらに
は
の条件なし相関行列である。
のとき
は必ず正定値行列になり、
は相関行列になる。
もう1つのモデルは
とモデル化するものである。ここでは
で与えられる。これが相関行列になるためにはでなければならない。さらに
が相関行列になることを保証すべく、
と仮定することが多い。
8.4.2 コピュラ
モデルは変数間の依存構造がすべて相関を通じて変化する。しかし相関は依存性を表現するのには、たとえば非線形な依存関係や非対称な依存関係を表現できないなど、完璧とは言い難い。そのためコピュラを用いて依存関係を表現する。
コピュラが有用なのは、の定理から、任意の同時分布関数
を、その第
変量周辺分布関数
の関数として一意に書けること、すなわち
を満たすようなコピュラが一意に存在することが保証されていることが背景にある。すなわちコピュラは多変量分布を変数の依存関係を周辺分布と依存構造に分割することができる。なお逆も成り立つ。
8.4.3 DCDモデル
モデルと同様にコピュラのパラメータを変動させたのが
モデルである。依存構造のモデリングには非常に強力である。
ただしいくつか問題がある。特に問題なのが、3変量以上に柔軟に拡張可能なコピュラが少ないことである。またモデルにはコピュラのパラメータ変動をどのように過去のショックと関連付けるかが難しい。他方でコピュラを用いると、分布の上側と下側の依存構造に対して異なる強さや動学を許容することができる。
参考文献
*1:自由度の
分布の分散が
であり、これを規格化するために係数を調整した。