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時系列解析の基礎(07/XX)

 以下の書籍

を中心に時系列解析を勉強していきます。

5. VARモデル

5.1 Granger因果性

 変数間の因果性の有無を判断することをデータから(\mathrm{data}-\mathrm{oriented})行うべく、予測を基準とした因果性を\mathrm{Granger(1969)}は提案した:



\mathrm{Granger}因果性 (ベクトル)過程\boldsymbol{x}_t,\boldsymbol{y}_tを考え、\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}の現在と過去の値を含む、時点tにおいて利用可能な情報の集合を\Omega_tとする。更に\Omega_tから現在と過去の\boldsymbol{y}を取り除いたものを\tilde{\Omega}_tとする。このとき\tilde{\Omega}_tに基づく\boldsymbol{x}の将来予測値と\omega_tに基づく\boldsymbol{x}の将来予測値とを比較し、後者の平均二乗誤差の方が小さくなる場合にy_tから\boldsymbol{x}_tへの\mathrm{Granger}因果性が存在するという。


 \mathrm{Granger}因果性は現在と過去の変数値\boldsymbol{y}が将来の\boldsymbol{x}に関して\boldsymbol{x}の現在と過去の値以上の情報を有しているかどうかを基準としている*1
 \mathrm{Granger}因果性が良く用いられるのは、\mathrm{VAR}モデルの枠組みでは\mathrm{Granger}因果性の有無がF検定により判断できるからである。もし\mathrm{Granger}因果性が存在しないならば、\mathrm{VAR}モデルにおいてある変数の項(方程式)において別変数の過去値に対する係数はすべて0になる。そこでF検定を用いればよい。



n変量\mathrm{VAR}(p)モデルにおける\mathrm{Granger}因果性検定の手順

  • \mathrm{VAR}モデルにおけるy_{kt}のモデルを最小二乗法により推定し、その残差平方和を\mathrm{SSR}_1とする。
  • \mathrm{VAR}モデルにおけるy_{kt}のモデルに制約を課したモデルを最小二乗法により推定し、その残差平方和を\mathrm{SSR}_0とする。
  • F定量
    \begin{aligned}F=\displaystyle{\frac{\displaystyle{\frac{\mathrm{SSR}_0-\mathrm{SSR}_1}{r}}}{\displaystyle{\frac{\mathrm{SSR}_1}{T-np-1}}}}\end{aligned}
    で計算する。ここでr\mathrm{Granger}因果性検定に必要な制約の数である。
  • rF100(1-\alpha)%点と比較し、rFの方が大きければ、ある変数(群)からy_{kt}への\mathrm{Granger}因果性は存在し、小さければ\mathrm{Granger}因果性は存在しないと結論付ける。

 \mathrm{Granger}因果性を理解する上では、\mathrm{Sims(1972)}による分布ラグモデルからの解釈も重要である。ある時系列y_tが別の時系列x_tと期待値0の誤差項\varepsilon_tを用いて



\begin{aligned}
y_t=c+\displaystyle{\sum_{k=0}^{\infty}b_kx_{t-k}}+\varepsilon_t,\ \mathrm{Cov}[x_t,\varepsilon_s]=0,\ {}^{\forall}t,s
\end{aligned}


という形で表現できるとき、y_tx_tの分布ラグモデルに従うという。
 分布ラグモデルの特徴はどの時点sを考えても説明変数x_tが誤差項\varepsilon_sと無相関であることである。これはy_t将来のxに関して現在と過去のxが持つ以上の情報を有さないことを意味する。逆にy_tからx_tへの\mathrm{Granger}因果性が存在しない場合、y_tx_tの分布ラグモデルで表現できることも示すことができる。

  • \mathrm{Granger}因果性は実際の因果性とは逆の方向に観測される可能性もあり、経済理論などにより因果関係の方向性が明確な場合を除いては、定義どおりに予測に有用か否かに用いるのが望ましい
  • \mathrm{Granger}因果性は定性的概念であり、その強度に関しては一切の情報を持たない。

5.4 インパルス応答関数

 \mathrm{Granger}因果性は定量的な解析ができない点がデメリットであった。そこを補うのがインパルス応答関数である。

 一般的なn変量\mathrm{VAR}(p)モデル



\begin{aligned}
\boldsymbol{y}_t=\boldsymbol{c}+\boldsymbol{\Phi}_1\boldsymbol{y}_{t-1}+\cdots+\boldsymbol{\Phi}_p\boldsymbol{y}_{t-p}+\boldsymbol{\varepsilon}_t,\ \boldsymbol{\varepsilon}_t\sim \mathrm{W.N.}(\boldsymbol{\Sigma})
\end{aligned}


を考え、\boldsymbol{\Sigma}は対角行列でないとする。このとき、非直交化インパルス応答関数を定義できる、


5.4.1 非直交化インパルス応答関数


非直交化インパルス応答関数 n変量\mathrm{VAR}(p)モデルにおいて、y_{jt}の攪乱項\varepsilon_{jt}だけに1単位(または1標準偏差)のショックを与えたときのy_{i,t+k}の値の変化をy_jのショックに対するy_ik期後の非直交化インパルス応答と呼ぶ。また非直交化インパルス応答をkの関数と見たものをy_jのショックに対するy_i非直交化インパルス応答関数と呼ぶ。


 数学的には、(1単位の変化に対する)非直交化インパルス応答関数は



\begin{aligned}
\mathrm{IRF}_{ij}(k)=\displaystyle{\frac{\partial y_{i,t+k}}{\partial\varepsilon_{jt}}},\ k=0,1,2,\cdots
\end{aligned}


と表すことができる。インパルス応答分析では攪乱項\varepsilonの確定的な変化に対するyの確定的な変化を調べている。非直交化インパルス応答関数を得るには、k=0から逐次的に計算していくのが1つの方法である。
 非直交化インパルス応答関数には問題が1点ある。それは攪乱項が同時点で互いに相関しているにもかかわらず、その相関を無視している点である。その点を改善したのが次節で説明する直交化インパルス応答関数である。

5.4.2 直交化インパルス応答関数

 非直交化インパルス応答関数の問題点である、同時点における攪乱項の相関を無視している点を解消するのに、攪乱項の分散共分散行列が修正\mathrm{Cholesky}分解可能だと仮定する方法がある。


直交化インパルス応答関数 n変量\mathrm{VAR}(p)モデルにおいて、攪乱項の分散共分散行列\boldsymbol{\Sigma}を修正\mathrm{Cholesky}分解した結果を\boldsymbol{\Sigma}=\boldsymbol{A}\boldsymbol{D}{}^{t}\boldsymbol{A}(\boldsymbol{A}は対角成分が1に等しい下三角行列、\boldsymbol{D}は対角行列)とするとき、互いに無相関な攪乱項を直交化攪乱項と呼ぶ。直交化攪乱項に1単位(または1標準偏差)のショックを与えたときのy_{i,t+k}の値の変化をy_jのショックに対するy_ik期後の直交化インパルス応答と呼ぶ。また直交化インパルス応答をkの関数と見たものをy_jのショックに対するy_i直交化インパルス応答関数と呼ぶ。


 一般にインパルス応答関数というときは、直交化インパルス応答関数を指す。
 攪乱項\boldsymbol{\varepsilon}_tの分散共分散行列を\boldsymbol{\Sigma}とするとき、これは正定値行列であるから、\boldsymbol{A}を対角成分が1に等しい下三角行列、\boldsymbol{D}を対角行列として



\begin{aligned}
\boldsymbol{\Sigma}=\boldsymbol{A}\boldsymbol{D}{}^{t}\boldsymbol{A}
\end{aligned}


と書ける。このとき直交化攪乱項\boldsymbol{u}_t



\begin{aligned}
\boldsymbol{u}_t=\boldsymbol{A}^{-1}\boldsymbol{\varepsilon}_t
\end{aligned}


と定義され、これは各変数固有の変動を表す。



\begin{aligned}
\mathbb{V}\left[\boldsymbol{u}_t\right]=\mathbb{V}\left[\boldsymbol{A}^{-1}\boldsymbol{\varepsilon}_t\right]=\boldsymbol{A}^{-1}\mathbb{V}\left[\boldsymbol{\varepsilon}_t\right]{}^{t}\boldsymbol{A}^{-1}=\boldsymbol{A}^{-1}\boldsymbol{\Sigma}{}^{t}\boldsymbol{A}^{-1}=\boldsymbol{D}
\end{aligned}


から、直交化攪乱項は確かに互いに無相関である。
 y_jのショックに対するy_iのインパルス応答関数はu_{jt}1単位のショックを与えたときのy_iの反応を時間の関数として見たときで、



\begin{aligned}
\mathrm{IRF}_{ij}(k)=\displaystyle{\frac{\partial y_{i,t+k}}{\partial u_{jt}}}
\end{aligned}


と表すことができる。他にも分散共分散行列を\mathrm{Cholesky}分解して表すこともできる。
 直交化攪乱項の計算では、修正\mathrm{Cholesky}分解することで\boldsymbol{\varepsilon}_t=\boldsymbol{A}\boldsymbol{u}_tが成立するから、元々の攪乱項は直交化攪乱項に対角成分が1に等しい下三角行列を掛けた形で表現できることが分かる。このため、元来の攪乱項はその添字以下の添字を持つ直交化攪乱項の線形和で表される。このことは、攪乱項に与えた添字によっては、影響を受けない直交化攪乱項が発生しなくなることを意味する。このような構造を再帰的構造という。このためインパルス応答関数を計算する場合には、変数を外生性の高い順に並べる必要があることに注意しなければならない。

参考文献

  • 沖本竜義(2010)「経済・ファイナンスデータの 計量時系列分析」(朝倉書店)
  • 北川源四郎(2020)「Rによる時系列モデリング入門」(岩波書店
  • 柴田里程(2017)「時系列解析」(共立出版)
  • 白石博(2022)「時系列データ解析」(森北出版)
  • 萩原淳一郎,瓜生真也,牧山幸史[著],石田基広[監修](2018)「基礎からわかる時系列分析 Rで実践するカルマンフィルタ・MCMC・粒子フィルタ」(技術評論社)

*1:このように予測という観点から評価しているもので、いわゆる「原因=結果」という意味合いでの因果関係を有するか否かを判断するものではないことはしっかりと押さえておかなければならない。

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