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一流の大人(ビジネスマン、政治家、リーダー…)として知っておきたい、教養・社会動向を意外なところから取り上げ学ぶことで“気付く力”を伸ばすブログです。データ分析・語学に力点を置いています。 →現在、コンサルタントの雛になるべく、少しずつ勉強中です(※2024年1月21日改訂)。

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時系列解析の基礎(09/XX)

 以下の書籍

を中心に時系列解析を勉強していきます。

6. 単位根過程

 ここまでの議論は過程が(弱)定常であることを前提としてきたが、一般的には解析したい過程がすべて(弱)定常であるという保証はない。そうしたデータを扱うために有用な概念として単位根過程を導入する。

6.1 単位根過程とは?

 非定常過程の典型として単位根過程は以下のとおり定義される。



単位根過程 原系列y_tが非定常過程でありその差分系列\Delta y_t=y_t-y_{t-1}が(弱)定常過程であるような過程を単位根過程という。


 単位根過程の名前は、もし単位根過程を誤差項が定常であるような\mathrm{AR}過程を用いて表現した場合に特性方程式



\begin{aligned}
\left|1-\phi_1 z-\cdots-\phi_p z^p\right|=0
\end{aligned}


が解(根)としてz=1を持つことに起因する。他方で他にも様々な呼称があり、たとえば差分定常過程とも呼ばれ、さらに1次和分過程(y_t\sim I(1))と表記する。しかももし単位根過程の差分系列が定常かつ反転可能な\mathrm{ARMA}(p,q)過程であるとき、単位根過程は\mathrm{ARIMA}(p,1,q)過程とも呼ぶ。これらをそれぞれまとめて以下のように言うことができる。



和分過程 d-1階差分を取った系列は非定常である一方でd解差分を取った系列が定常であるような過程をd次和分過程もしくはI(d)過程と呼ばれる。



\mathrm{ARIMA}過程 d階差分を取った系列が定常かつ反転可能な\mathrm{ARMA}(p,q)過程に従う次数(p,d,q)の自己回帰和分移動平均過程もしくは\mathrm{ARIMA}(p,d,q)過程と呼ばれる。

例:ランダムウォーク
 過程y_tについて



\begin{aligned}
y_t&=\delta+y_{t-1}+\varepsilon_t,\ \varepsilon_t\sim i.i.d.(0,\sigma^2),\\
\delta&\in\mathbb{R}, y_0=0
\end{aligned}


が成り立つとき、y_tランダムウォークと呼ばれる。このときの定数項\deltaはドリフト率と呼ばれる。
 定義から明らかにランダムウォークは攪乱項が期待値0i.i.d.系列で\mathrm{AR}係数が1であるような\mathrm{AR}(1)過程と呼ぶこともできる。

6.1.1 単位根過程のトレンド

 単位根過程は線形トレンドを記述できるという特徴がある。ランダムウォークを例に考えると、簡単のためにy_0=0として



\begin{aligned}
y_t&=\delta+y_{t-1}+\varepsilon_t\\
&=\delta+(\delta+y_{t-2}+\varepsilon_t)+\varepsilon_t\\
&=\cdots\\
&=\delta t+\varepsilon_{t}+\varepsilon_{t-1}+\cdots+\varepsilon_{1}\\
&=\delta t+\nu_t,\ \nu_t=\varepsilon_{t}+\varepsilon_{t-1}+\cdots+\varepsilon_{1}
\end{aligned}


が成り立つ。このとき\nu_t=\varepsilon_{t}+\varepsilon_{t-1}+\cdots+\varepsilon_{1}確率的トレンドと呼ぶ。このようにドリフト率\deltaランダムウォークは線形トレンドを記述できる。
 線形トレンドを記述できるモデルとして、トレンド定常過程も存在する。



トレンド定常過程 x_tを定常過程として


\begin{aligned}
y_t=\delta t+x_t
\end{aligned}

と表される過程をトレンド定常過程と呼ぶ。

 トレンド定常過程は、定常過程部分の分散が有限であることもあり、全体の分散もある程度一定の大きさを持つ、すなわち過程とトレンドの差はほぼ一定の範囲内に収まる。これに対して単位根過程は確率的トレンドを有するために不確実性を線形的に増大させていくという特徴がある。
 単位根過程は


\begin{aligned}
E\left[\displaystyle{\frac{\nu_t}{\delta t}}\right]=\displaystyle{\frac{\sigma^2t}{\delta^2t^2}}\rightarrow0(t\rightarrow\infty)
\end{aligned}


が成り立つため、一般的にE[y_t/\delta t]\rightarrow1が成立するという意味で単位根過程は線形トレンドを記述している。

6.1.2 単位根過程の予測

 単位根過程であっても予測の原則に変わりはない。\delta=0とすれば、ランダムウォークの場合、



\begin{aligned}
y_{t+h}=y_t+\varepsilon_{t+}+\varepsilon_{t+h-1}+\cdots+\varepsilon_{t+1}
\end{aligned}


を得、したがって



\begin{aligned}
\hat{y}_{t+h|t}=y_t
\end{aligned}


が成り立つ。このようにランダムウォークy_tの影響が常に残ることから推察できるように、単位根過程は平均回帰的ではない。
 ランダムウォークの予測について平均二乗誤差を考えると、



\begin{aligned}
\hat{e}_{t+h|t}=\varepsilon_{t+h}+\varepsilon_{t+h-1}+\cdots+\varepsilon_{t+1}
\end{aligned}


であるから、



\begin{aligned}
\mathrm{MSE}(\hat{y}_{t+h|t}^2)=E[\varepsilon_{t+h}+\varepsilon_{t+h-1}+\cdots+\varepsilon_{t+1}]=\sigma^2h
\end{aligned}



を得る。したがってランダムウォークの予測の平均二乗誤差が予測期間が長くなるにつれて過程の分散は大きくなっていく。長期予測であれば、定常\mathrm{AR}(1)過程であれば過程の期待値に収束していくのとは対照的に、分散が大きくなっていくという違いがある。

6.1.3 単位根過程のインパルス応答関数

 ランダムウォークについて、



\begin{aligned}
y_{t+h}=y_t+\varepsilon_{t+}+\varepsilon_{t+h-1}+\cdots+\varepsilon_{t+1}
\end{aligned}


に注意すれば、



\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{\partial y_{t+h}}{\partial\varepsilon_t}}&=\displaystyle{\frac{\partial}{\partial\varepsilon_t}}(y_t+\varepsilon_{t+}+\varepsilon_{t+h-1}+\cdots+\varepsilon_{t+1})\\
&=1
\end{aligned}


を得る。すなわちインパルス応答関数は常に1であり、ショックは恒久的な影響を持つ。

参考文献

  • 沖本竜義(2010)「経済・ファイナンスデータの 計量時系列分析」(朝倉書店)
  • 北川源四郎(2020)「Rによる時系列モデリング入門」(岩波書店
  • 柴田里程(2017)「時系列解析」(共立出版)
  • 白石博(2022)「時系列データ解析」(森北出版)
  • 萩原淳一郎,瓜生真也,牧山幸史[著],石田基広[監修](2018)「基礎からわかる時系列分析 Rで実践するカルマンフィルタ・MCMC・粒子フィルタ」(技術評論社)
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