証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である
を参考に学んでいく。
- 前回:
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7. 確率解析の基礎
時間が連続的に推移する投資決定問題に必要な確率解析の基礎を扱う。
7.2 連続時間の下での動的計画法
投資と消費の最適配分問題はファイナンスにおける経時的モデルの一種である。ここでは計画期間を有界な閉集合としを満期とする。を状態変数とし、を制御変数とする。効用関数をとおき、を期間での
を最大にするような制御変数のパスを選択することである。
ここでは制御変数を含む確率微分方程式を満たす。まず離散時間の下での最適化問題を考える。を時間からまでの期待値の最大値とし、動的計画法の最適性の原理から、に対して
と書ける。この最適化問題は、から出発してまで逆向きに解くことで最適解を得る。
次に連続時間の下での最適化問題を拡張していく。として
である。ここでとおけば、は
と書ける。とおいて両辺をで割ることで
を得る。この式では、確率微分方程式を満足する確率過程の関数であるの確率微分を評価することができれば、に関して解くことができる。そのために伊藤微分を考える。
7.3 伊藤の微分
確率過程が以下の性質を満たすとき、は標準運動(もしくは過程)に従うという。
(1) | である。 | |
(2) | が独立増分をもつ。 | |
(3) | はに関して連続である。 | |
(4) | に対してである。 |
によって記述されるとする。もしならば、は幾何運動(対数正規過程)に従うという。この式は形式的に
と書ける。ここで確率変数に関する確率積分は既に述べたように、
で定義されるものであった。
状態変数と時間の関数であるを考える。の実現値に関して回連続微分可能であり、に関して1回微分可能な関数だと仮定する。このときとして関数を展開すれば
を得る。
これにを代入することで、と書くことにして
である。ここでであることを踏まえれば
であり、漸近オーダー項を無視して
を得る。この式を伊藤の微分則という。
7.3.1 伊藤の微分(ベクトル)
がベクトルの場合、新たにとするとき、
である。のベクトルに関する2階偏微分をと表現しとおけば
が成り立つ。ここで
であるから、
を得る。ここでは共分散行列に他ならないので、状態変動がベクトルの場合の伊藤の微分則は
で与えられる。
伊藤の微分則と密接に関連する概念は次の作用素である。すなわちに関して
とすれば、作用素は確率過程の微分作用素である。の期待値を取りで割ることで
を得る。連続時間の下での動的計画法や最適制御問題を解くに当たり、これらの式が適用されることが少なくない。ファイナンスでは連続時間の下での消費とポートフォリオ選択問題および経時的資本資産評価モデルがその例である。