証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である
を参考に学んでいく。
- 前回:
4. 資本資産評価モデル
4.3 国際CAPM
CAPMのもう1つの拡張としてSolnik(1974)による国際CAPMを扱う。国際CAPMでは国際分散投資を前提とし、外国為替の存在を前提とする。ここでは為替リスクが取引戦略で除却可能であると仮定し、投資家は自国でのみ消費を行うとする。更に投資家は証券のリターンおよび為替レートについて同一の期待予想を有すると仮定し、ヘッジ戦略は自国のリスクフリーレートで実施可能とする。
すべての投資家は証券価格(=リターン)について同質の情報を保有するため、CAPMが成立するいずれの国においても同一の投資行動を取り、その結果、証券価格もCAPMの枠組みの下で決定される。任意の国におけるリスクフリーレート、リスク証券の為替ヘッジ後のリターンをとすれば、その国におけるCAPMモデル
が成立する。ここでは国における市場ポートフォリオの為替ヘッジ後リターンであり、はヘッジ後リターンを用いて定義されたベータ
である。以上は任意の国家において成立する。
しかしここまでの議論は為替ヘッジを行なった後のリターンであるから、それを考慮する必要がある。ある国の証券リターンが現地通貨ベースで表現されるならば、その国の市場ポートフォリオのリターンをとおく。ヘッジ戦略としてすべての投資家が海外に投資するならば国内市場でリスクフリーレートで資金調達可能だと仮定する。を国に投資する富の比率とし、を国における投資家が国へと投資する富の比率とすれば、期待ヘッジ収益率は
すなわち国内でのリターンから無リスク証券による外国からの借入コストを差し引いた上で国内の無リスク証券のリターンを加算したものに等しい。
国ごとでのあらゆる投資家の富の投資比率について総和を取ればであるから、
である。これを上式の右辺第3項に代入すれば
を得る。いずれの国においても市場ポートフォリオの期待ヘッジ収益率は国内の市場ポートフォリオの期待リターンに国内のリスクフリーレートおよび国外のリスクフリーレートの加重平均との和を加味したものに等しい。もし証券の取引市場がその国の市場ならば、ヘッジ収益率および国内市場でのリターンが等しいから、国の証券の期待リターンをとおけば、その期待リターンは
である。ただし
である。
以上から
を得る。したがって国内通貨によるリターンのベータはヘッジ収益率によるベータに等しい、すなわち
が成立する。国際CAPMでは各国通貨に成立するCAPMの一連の関係式を得る。
国際CAPMにおいて各国のCAPMの総和を取ることで、グローバル市場ポートフォリオにおける証券価格の評価式を導出できる。国際CAPM
を整理することで
を得る。
グローバル市場ポートフォリオのリターンを
とおけば、先程整理したに関する式について両辺にを乗じた後にに関して総和を取れば、
が成り立つ。これはすべてのリスク証券で成立するから、グローバル市場ポートフォリオでも同様に成立する、すなわち
が成り立つ。ここでは各国のリスクフリーレートの保有ウェイトによる加重平均
である。したがって
および国際CAPMの関係式
を得る。
4.4 CAPMの問題点
CAPMはさまざまな仮定をおいてさまざまな結論を得る。無リスク証券による無制限な借入は制約があってもCAPMは成り立つ(BlackのCAPM)ことは分かった。他方でMarkowitzの平均=分散モデルに依拠し、投資家のリスク尺度としてリスクを最小化することを目的として最適ポートフォリオヲ導出した。これは投資家の効用関数が2次式で与えられるか、証券価格のリターン変動が正規分布に従う場合に正当化できる。
しかし証券価格のリターンが正規分布に従うとの仮定は実証上、否定されることが多い。さらには以下のような批判が存在する:
(1) | CAPMにおいて採用される期待リターンは、過去の実証データに基づくリターンの算術平均ではなく、投資家の将来リターン分布に関する期待値である。この期待値が計算可能な場合にのみリスク尺度としての分散が計算できるため、CAPMは証券価格の期待リターンおよびその分散ないし共分散との関係を記述したものであって、期待リターンを導出する均衡価格式ではなく、部分均衡価格である。 | |
(2) | CAPMで言及される市場ポートフォリオが具体的には何を指すのかが不明で、*1ベータの観測は不可能である。 |
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