定番書
を基に線形代数を学び直していく。
今日のまとめ
- 上の線形空間のに対して内積が定義されており、それが以下を満たすとき、を計量線形空間と呼ぶ。(1) (2) (3) (4)
- 計量線形区間の元が互いに直交し、どの元のノルムもであるとき、それらを正規直交系という。特にそれらがの基底であるとき、それらを正規直交基底と呼ぶ。
- Gram-Schmidtの直交化法:の任意の基底に対して、まずとおく。次にとする。こうして得たはの正規直交基底を成す。
- 計量空間の部分空間に対してをの直交補空間という。
- が共に上の計量線形空間であり、同型写像がを満たすとき、を計量同型写像という。このようなが存在するとき、とは計量同型であるという。更にユニタリ空間(実線形空間)からへの計量同型写像をのユニタリ変換(直交変換)という。
4. 線形空間
4.8 計量線形空間
線形空間に更なる概念を導入する。
のときをユークリッド空間という。またのときをユニタリ空間という。
のうち負でないものをの長さあるいはノルムといい、と書く。またあるについてが成り立つとき、とは直交するという。
ノルムに関しても、Schwartzの不等式および三角不等式が成り立つ。すなわち
また直交と線形独立には明確な関係がある。
直交と線形独立でないが互いに直交するならば、それらは線形独立である。
があるときに、との内積を取ることでを得る。これはこれらが線形独立であることの定義に他ならない。 )
これを踏まえると、更なる線形空間に関する議論を深化できる。
正規直交系があるときに、がそれらの線形結合で表されないとき、
とおけば、かつはのすべてと直交する。したがってとおけば、もまた正規直交系になる。
これを応用して、の任意の基底から正規直交基底を生成することが出来る。すなわち、まず
とおく。次に
これを逐次的に繰り返すことで
とする。こうして得たはの正規直交基底を成す。この方法をGram-Schmidtの直交化法という。
以上をまとめることで以下が得られる。
計量空間の部分空間に対して
をの直交補空間という。
直交補空間には以下が成り立つ。
計量空間と直交補空間 計量空間はその部分空間との直交補空間の直和である。
とおけば、が成り立つ。または
である、すなわちと直交するから、である。したがってが成り立つ。またに対してによりだから、が成り立つ。これはと同値である。 )
直交補空間の性質 計量空間の部分空間に対してその直交補空間は以下を満たす:
(1)
(2)
(3)
( (1) について、がの任意の線形結合で表されるとし、これらを含むようなの基底を取る。この基底にGram-Schmidtの直交化法を用いることでの正規直交基底を得る。
このときはの任意の線形結合で表される。実際、正規直交系は互いに直交するから、はすべてと直交する。したがっての線形結合で表される任意のベクトルはと直交するからが成り立つ。またよりが成立するが、の次元もである。したがってはの任意の線形結合で表される。これをもう一度適用することで、が得られる。
(2)について、まずを示す。に対して、定義からが成り立つ。同様にが成り立つ。
ある直和の任意の元は各集合の元の和で表されるから、を用いてが成り立ち、であるから、が成立する。
次にを示す。に対して、であるからに対してが成り立ち、である。同様にである。したがってである。以上からである。
(3)について、に(2)を適用すると、(1)に注意すれば
以上から(3)が示された。 )
を満たすとき、を計量同型写像という。このようなが存在するとき、とは計量同型であるという。
計量空間の正規直交基底がこれによって定まる同型写像はからの計量同型写像である。実際、
に対して、
である。一方で
であるから、
となり両者が等しいことが分かる。特に上の次元の等しい計量空間はすべて互いに計量同型である。
またに2つの正規直交基底があるとき、基底をからに取り換える行列をとすれば、はユニタリ行列(または直交行列)である。実際は計量同型写像であるから、既に示したとおり、計量写像であること、すなわちが成り立つこととがユニタリ行列であることは同値である。逆もまた成り立つ。
の線形変換がが成り立つならば、はのユニタリ変換(直交変換)である。一般に以下が成り立つ。
定理:ユニタリ変換とユニタリ行列の対応 のユニタリ変換(直交変換)の任意の正規直交基底に関する行列はユニタリ行列(直交行列)である。逆にの線形変換のある正規直交基底に関する行列がユニタリ行列(直交行列)ならばはユニタリ変換(直交変換)である。
逆にがユニタリ行列(直交行列)であるならば、は計量同型写像であるから、はからへの計量同型写像である。 )