- 1.今日のポイント
- 2. ニュース(1):米国のシステムは着実に瓦解している
- 3. ニュース(2):Royal Dutch Shellの蘭離脱
- 4. ニュース(3):北欧という反ユダヤの本場
- 5. ニュース(4):米軍の汚点
1.今日のポイント
●【米国】トランプ米大統領、プエルトリコ売却を検討していた
●【英蘭】Royal Dutch ShellがオランダHQの閉鎖を検討
●【ユダヤ人問題】スウェーデン政府機関が反ユダヤ主義活動団体に資金提供
●【日本】岩国米軍基地でも新型コロナ患者が発生
2. ニュース(1):米国のシステムは着実に瓦解している
(1) 知っておきたいこと
- トランプ米大統領が2017年にプエルトリコの売却を検討していたことをエレーヌ・デューク元米国土安全保障省長官代理が暴露した
- 同年9月にハリケーン・イルマの襲来直後にハリケーン・マリアが再度去来しプエルトリコが大規模な損害を受けたときに発現したものだという
米国にとってプエルトリコとはどのような場所なのか。法的に言えば米国自治連邦区(Commonwealth)と定義されており、プエルトリコの「住民はアメリカ国籍を保有するが、合衆国連邦(所得)税の納税義務を持たない代わり、大統領選挙の投票権はない。合衆国下院に本会議での採決権を持たない代表者(Resident Commissioner、任期4年)を1人送り出すことが認められている」*1という。
(図表1 プエルトリコの位置)
(出典:Travel Book)
さてこのトランプ大統領の議論をどう考えればよいだろうか。「自国領を全くもって助けない、不慮の輩だ」と思うだろうか。筆者はそうは思わない。今になってみると様々な「奇行」が取り沙汰されてきたトランプ大統領だが、当時はまだ2017年と就任から1年程度のときであり、Lame duckかのような一過性のパフォーマンスというよりは、米国を変化させるためのサプライズを演出してきたことを想起して頂きたい。すなわち、このトランプ大統領の発言をしっかりと考えた方がよいということだ。
米国のみならず、英国やオランダといった欧州諸国がカリブ海(など)にもつ領土を考えるときにやはり疑わなければならないのは租税回避地(tax haven)としての役割である。パナマ文書を受けてわが国でも大きく注目されるようになった租税回避地であるが、プエルトリコも例に漏れず、その役割を担ってきたのである*2。それが売却、すなわち米国領(厳密にはコモンウェルス)という地位を失うということになれば、それまでの税制特権はなくなってしまう。
これと対照的に見るべきなのが、同じように米国の信託統治領であるマーシャル諸島によるデジタル通貨導入である*3。
プエルトリコだけでなく、米国がこれまで使ってきたマネーロンダリング・スキームが終焉を迎えつつあると考えるのが妥当である。
3. ニュース(2):Royal Dutch Shellの蘭離脱
(1) 知っておきたいこと
- ベン・ヴァンバーデンCEOがオランダでHQの維持を断念する可能性に言及した
- その理由の一つは租税政策によるものである
英蘭企業のオランダからの離脱については、実はこれが初めてではない。Unileverもまた、オランダから英国へと離脱する動きを見せている。
Unileverに関しては、一度オランダに一本化しようとしたところ、その株主である機関投資家からNoを突き付けられた。それは、英国から離脱すると英国の有力株式指数であるFTSE 100から同社が離脱することになり株式市場が暴騰落するからだという。それにしても、なぜこのような動きになっているのだろうか。
英蘭の関係性は歴史的に非常に深い。英国の中央銀行であるイングランド銀行は日本でかつて「英蘭銀行」と呼ばれていた。その設立に当たり主要な資本提供者がオランダ人だったからだ。かつては英蘭戦争を行うことがあったものの、フランスを共通の敵とすることでその対立を収めていった。それが今になって関係性を切断しにかかっている。
一つ考えるべきなのは、英国の大陸欧州からの完全な意味での分断である。「栄光ある孤立」の“再演出”であるということだ。ここ最近、英国の国王が変わったとする議論がまことしやかに流れている。
エリザベス2世の出身であるウィンザー家(サクス=コバーグ=ゴータ家)は元来、ザクセン=コーブルク=ゴータ公という名前で、ドイツ出身であって、本来の意味での英国王室とは言い難いのである。それが今やジョセフ・グレゴリー・ハレットという人物が王位を継承しているのだという。
issuu.comこれらが真実であるとするならば、今回の英蘭の分断についても、こうした英国の分断から理解した方が良いのかもしれない。これだけグローバル化している以上、実質的なオランダからの離脱ではありえないのだから。
(2) まとめ
- 英国の大陸欧州からの離脱が本格化している
- 英蘭の経済的分断は政治的かつ象徴的なものであると考えた方が妥当だ
4. ニュース(3):北欧という反ユダヤの本場
(1) 知っておきたいこと
- 15億クローナ規模のパレスチナ援助プランにおいてスウェーデンの政府機関であるSIDAがイスラエルのボイコットや制裁を支援する団体に資金を拠出していた
- その団体はイスラエルに対してパレスチナの解放運動を行なっていた
北欧、殊にスウェーデンは欧州の中でも反ユダヤ主義の影響力が大きい国であることが知られている。18世紀というそれなりに早期から、ユダヤ人はスウェーデンへの居住が認められていた*4。しかし、その結果として反ユダヤ主義が歴史的に根深く存在する地となったようだ。そのスウェーデンがパレスチナに支援するのみならず、反ユダヤ主義に資金を拠出していたのは、尋常ではない。欧州各国のイスラエルへの反発は強まっている。
5. ニュース(4):米軍の汚点
(1) 知っておきたいこと
- 米軍岩国基地においても複数人の新型コロナ感染者がいるとの連絡が外務省から入った
- 現在事実確認中であるという
沖縄の米軍基地において新型コロナの多数の感染が確認され、沖縄県側からの激しい批判を米軍は浴びている。
そもそも米軍によるミスは随所に見られる。その典型が化学物質の杜撰管理による土壌汚染である。
米軍基地から街に「有害物質」が降り注いでも、手も足も出ない日本(半田 滋) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)
これは実は沖縄(日本)に限った問題ではなく、米国本土でも大いに問題になっている。ペルフルオロオクタン酸(PFAS)という撥水剤、表⾯処理剤、乳化剤、消⽕剤、コーティング剤等などで幅広く利用されてきた化学物質を米軍が投棄していた可能性があるのだという*5。化学的にあまりに安定的で分解されないために、世界的にその利用を控えるべきであるとなりつつある中で、たいていの州が汚染されている。
(図表2 米軍による投棄でペルフルオロオクタン酸(PFAS)汚染が生じているとされる場所)
(出典:ewg*6)
他方で、沖縄独自でのトラブルもある。有名なのは「レッドハット作戦(Operation Red Hat)」である。1971年、知花弾薬庫に格納されていたVXガスやサリンを含む化学兵器(毒ガス)を廃棄したものである。これが生じるきっかけとなったのが、1969年に一部毒ガスが漏洩する事故である。これをWall Street Journalが報道し全米中で問題になったのだった。その際、実はガスを極秘に海洋投棄していたことが判明しているのである*7。
(図表3 2013年に公開された「レッドハット作戦(Operation Red Hat)」に関する全貌を記した公文書の一覧)
(出典:Wikipedia)))
トモダチ作戦といった友好の演出がある一方で、こうした過失、しかもなかなかこれを認めることがない、を放置していては、日米関係はますます離れていくことになる。
(2) まとめ
- 官僚的な米軍には問題がたくさん存在する
- 新型コロナ、化学兵器など米軍が日本に与えた(るかもしれない)負の側面にも目を向けなければならない
*2:プエルトリコにおける租税回避の仕組みについてはたとえばhttps://scholar.smu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1049&context=lbra参照。
*4:https://en.wikipedia.org/wiki/Antisemitism_in_Sweden参照。
*5:https://www.militarytimes.com/news/your-military/2019/12/11/here-are-more-than-300-bases-with-possible-toxic-forever-chemical-contamination/参照。
*6:https://www.ewg.org/interactive-maps/2019-pfas-crash-training-military-sites/map/参照。