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【書評】「ロスネフチ ~プーチンの巨大石油会社」

1. はじめに

 P&Gソフトバンクなど日常生活で接することがある企業を除けば、企業について知る機会はあまり多くない。ましてや外国企業であれば、ほとんど知る機会はない。しかし経済活動の多くは企業が担っている以上、それを無視する訳にはいかない。
 企業の中でも資源やインフラといったものを扱う企業やB to B企業は表に出づらい。そうした中でも重要なのは、国策企業である。なぜならば国家戦略を担っているからである。
 このような認識を持っていたなかでこんな本が発刊されていた:


このシリーズは薄くて読みやすいこともあり、旧ソ連圏を知るのにうってつけである。そこでわざわざ取り上げられること自体、注目に値する。今回はこの「ロスネフチ」について簡単に調べてみよう。

2. ロスネフチとは

 さてこの「ロスネフチ(Роснефть)」、厳密には「公開型株式会社 石油会社ロスネフチ」とは何か*1

Rosneft is the leader of the Russian oil sector and the largest global public oil and gas corporation. Rosneft Oil Company is focused on exploration and appraisal of hydrocarbon fields, production of oil, gas and gas condensate, offshore field development projects, feedstock processing, sales of oil, gas and refined products in the territory of Russia and abroad.

このため、原油マーケットを知るのにロスネフチを知ることが有用なのだ。
 そのCEOはプーチン大統領の懐刀であるイーゴリ・セーチン元ロシア連邦副首相であり、取締役会長はシュレーダードイツ連邦共和国首相である。錚々たるメンバーを集めていることは明らかである。

3. 企業としてのロスネフチ

 では一企業としてロスネフチを見てみよう。つまり、財務的な意味で同社はどのような状態にあるのだろうか。ロスネフチ(ロンドン証券取引所及びモスクワ証券取引所の双方に上場中)の最近の株価推移を見てみるとこうなる*2

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(出典:Yahoo! Financeから取得したデータを基に筆者作成)

2014年の米国および欧州連合EU)からロシアが受けている経済制裁を受けて大きな被害を受けている。

 とはいえ、直近5年間の主要財務指標を見るとさすが、しっかりした企業であることが分かる*3

BS項目*4

2015年12月期 2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期
流動資産
2,404
2,300
2,292
3,022
2,396
固定資産
7,084
8,817
9,935
10,141
10,554
総資産
9,638
11,117
12,227
13,163
12,950
流動負債
1,817
2,773
3,836
2,874
2,755
固定負債
4,829
4,562
4,208
5,612
5,043
正味財産(純資産)
2,929
4,183
3,782
4,677
5,152

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(出典:RosneftのFinancial Statementsから取得したデータを基に筆者作成)

IS項目*5

2015年12月期 2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期
売上高
5,150
4,988
6,014
8,238
8,676
総費用
4,442
4,333
5,390
6,954
7,371
営業利益
708
655
624
1,284
1,305
税引前当期純利益
460
306
395
832
997
当期純利益
356
192
297
649
805
合計包括利益
88
445
397
780
842

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(出典:RosneftのFinancial Statementsから取得したデータを基に筆者作成)

CF項目*6

2015年12月期 2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期 2019年12月期
営業CF
2,195
679
337
1,502
1,110
投資CF
▲813
▲973
▲1,162
▲799
▲729
財務CF
▲1,091
645
381
▲228
▲957
FCF
1,382
▲294
▲825
703
381

 あくまでも概観でありこれだけで判断するのは早計だとも言えるが、以上を踏まえると財務上の問題があるとは言い難い。

4. まとめ ~「国策企業」ロスネフチ~

 このように一企業として見ても巨大でロシアにとって重要な企業である。他方でこういった側面もロスネフチを知る意義があることを示唆する*7

筆者は知人より、「ロシア側で対中関係を取り仕切っているのは外務省ではない。ロスネフチである」という話を聞いたことがある。その後今日に至るまで、セーチン氏(引用者註:ロスネフチCEO)が一国営企業のトップであるにも拘らず、中露間の重要な会議で基調演説に臨むシーンを見ていると、今もセーチン氏と中国の関係は非常に太いように思えてならない

さらに同社について興味深い点がもう一つある。それは「二〇一〇年代以降は、プーチン政権の意向を受けて造船業への参入を通じ極東開発を推進するとともに、北極圏及び北極海航路開発にも参画している」*8点である。

*1:https://www.rosneft.com/about/Rosneft_today/参照。なおサウジアラムコが上場しているため、"the largest global public oil and gas corporation"の部分は今や誤りだろう。

*2:左図が直近3年。右図が今年(2020年)。

*3:ロスネフチ各年のFinancial Statements( https://www.rosneft.com/Investors/Reports_and_presentations/Consolidated_financial_statements/から取得した。いずれも連結で単位は10億ルーブルである。またロスネフチはIFRSを採用している

*4:各科目のFinancial Statements上における表記はそれぞれTotal current assets, Total non-current assets, Total assets, Total current liabilities, Total non-current liabilities, Total equityである

*5:各科目のFinancial Statements上における表記はそれぞれTotal revenues and equity share in profits/(losses) of assciates and joint ventures, Total costs and expenses, Operating income, Income before income tax, Net income, Total comprehensive income/(loss), net of taxである

*6:各科目(最後を除く)のFinancial Statements上における表記はそれぞれNet cash provided by operating activities, Net cash used in investing activities, Net cash used in financing activitiesである。FCFは前2者の合計として筆者が算出した。

*7:篠原建仁(2020)「ロスネフチ プーチンの巨大石油会社」群像社 P22

*8:同書 P8

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