以下の書籍
を中心に時系列解析を勉強していきます。
7. 見せかけの回帰と共和分
7.4 共和分関係の推定
共和分関係が期待されるベクトルについて共和分ベクトルを推定する方法を考える。
最も基本的な方法は、と基準化し、
を最小二乗法で推定する。共和分がある場合、最小二乗推定量はの速度で真の値に収束する。ただしモデルの特定化に注意する必要がある。
共和分ベクトルを推定するもう1つの方法は(1988,1991)によるに基づいた最尤法である。システムが個の共和分関係を持つと仮定し、に基づいて複数の共和分関係を同時に推定する。
まず共和分システムが
で書けると仮定する。ここでは個の共和分関係であり、とする。
このとき、たとえばの対数尤度は
である。これを最大化するような母数を求めるのが最尤法であるが、問題は共和分ベクトルの推定値をどのようにして得るかである。
それにはモデルの説明力が最大になるような共和分関係を求めればよく、に関してが説明できない部分がからとは無相関の部分を抽出したものと最大の相関を持つようなを求めればよい。そのために正準相関を求めればよい。
7.5 共和分の検定
共和分関係が1つで未知の場合は、見せかけの回帰で用いた-共和分検定を用いることになる。より一般的には、共和分ベクトルをと基準化し、
という回帰モデルから最小二乗残差に対して単位根検定を行なう。その結果、単位根の帰無仮説が棄却されれば共和分の帰無仮説を採択し、単位根の帰無仮説が棄却できなければ共和分の帰無仮説を棄却する。棄却された場合、これは見せかけの回帰であることを意味する。
検定の場合でも、モデルの誤った特定化の問題は存在する。ただし(1988,1991)によるに基づいた検定ではそのような問題は無く、さらにシステムが含む共和分の個数を検定できるので便利である。
に基づいた検定にはトレース検定と最大固有値検定がある。トレース検定は多くとも個の共和分関係しか存在しないという帰無仮説をすべての変数が定常という対立仮説に対して検定する。この帰無仮説の下では
における誤差項および
における誤差項の上から個以降の正準相関はすべてになる。それに対して対立の下ではそれはすべて正になる。したがっての正準相関をとすれば、この仮説検定は
で与えられる。このときの尤度比検定量は
で、は、と共和分関係が共に定数項とトレンド項を持たないという仮定の下で、その漸近分布が
という行列のトレースが従う分布に一致することを示している。ここでは次元標準運動である。
トレース検定に対して、最大固有値検定は多くとも個の共和分関係しか存在しないという帰無仮説を個の共和分関係が存在するという対立仮説に対して検定する。すなわちをに対して検定する。このとき 尤度比検定統計量は
で、これの漸近分布は
の最大固有値が従う分布に一致することが知られている。
これらは共和分システムが多くとも個の共和分関係しか含まないという帰無仮説を検定することができる。