今回から、金融工学におけるシミュレーションについて学んでいく。テキストとして以下を使う。今回はP.41-P.52まで。
4. 一般の分布に従う乱数
- 問題に沿った(同時)分布に従う(多変量)乱数列の生成
- その乱数列を使った計算
の2つの部分に分けて考えられる。乱数列の生成は更に
- .一様分布に従う乱数列の生成
- .それを元にした必要な同時分布に従う乱数列の生成
に分けられる。
4.1 変量乱数列
一様乱数列から一般の1変数乱数列を生成する。
4.2 採択棄却法
採択棄却法は平面上のある部分に一様に分布する点列(2変量乱数列)から一般の分布に従う1変量乱数列を生成する方法である。
連続確率変数の分布関数について, が成り立つ。また確率密度関数についてである。平面上の軸とに囲まれた部分に個の点からなる集合が一様に分布しているとする。そこでそれぞれの点の座標の値だけを取り出したは確率密度関数の値が大きい部分には多く、小さい部分には少なく分布している。そこで軸と、に囲まれた部分にある点の個数をで割ることにより、の近似値を得ることが出来る。
具体的には、
(1) | 4点を頂点とする長方形に一様に分布する点列を用意する。 |
(2) | とを比較し、 (a) ならばその点を捨てる (b) ならばその点を採用する。 |
(3) | を1つずつ増やしながら(2)を繰り返す。採用した点のを取り出して順番に並べることで数列を得る。 |
という手順を辿る。ただし密度関数によっては棄却する点の割合が多くなるために効率性は悪い。
4.2.1 採択棄却法の例
確率変数の確率密度関数
の分布p関数に従う乱数列を採択棄却法によって得ることにする。
(1) | 4点を頂点とする長方形に一様に分布する点列を用意する。 |
(2) | のときにを採用する。 |
(3) | (2)を繰り返して点列を得る。 |
4.3 多変量乱数列
4.3.1 超立方体に一様に分布する点列
一般に周辺分布が定まっても同時分布は一意には定まらない。したがって確率ベクトルについて各成分を成す確率変数を生成しても同時分布に従う確率ベクトルを得ることは一般にはできない。
多変量の離散確率ベクトルに対し
が成り立つとき、はそれぞれ互いに独立であるという。
連続の場合は
が成り立つとき、はそれぞれ互いに独立であるという。
を次元超立方体に一様に分布する点列であるとする。このとき次元を取り出した列の分布は他の分布を取り出した列に依存しないから、の各次元の列は互いに独立である。
超立方体内に一様に分布する点列は以下の手続きで得られる:
(1) | 一様乱数に従う乱数列を生成する。 |
(2) | 乱数列の最初の個を取り出してとする。 |
(3) | とする。 |
(4) | 以降を繰り返してを得る。 |
4.3.2 一般の多次元分布
2次元確率ベクトルについて一般の場合には、条件付き分布が既知であるという前提の下で、条件付き分布法を用いて次元の独立でない確率変数の同時分布に従う点列が得られる:
(1) | 次元超立方体に一様に分布する点列を生成する。 |
(2) | からの周辺分布を用いてを得る。 |
(3) | からの条件下でのの条件付き分布を得る。 |
(4) | 以上を繰り返してを得る。 |
(5) | 以上を繰り返してを得る。 |
周辺分布がすべて区間上の一様分布となるような多変量分布をコピュラ*1という。2次元コピュラにはたとえば以下がある:
- Fréche-Hoeffding上限:
- Fréche-Hoeffding下限:
- 積コピュラ:
このコピュラに関してはSklarの定理が有用である:
2次元の同時分布とし、その周辺分布をそれぞれとする。このときについて
を満たすようなコピュラが存在する。もしが共に連続ならば、このコピュラは一意に定まる。
また
2次元の同時分布をとし、その連続な周辺分布をとする。このときあるコピュラが存在し、に対して
が成り立つ。
なおこれらは以上の一般の多次元においても成り立つ。
以上を活用すれば一般の多次元分布に従う多変量乱数列を生成できる。コピュラおよび周辺分布が分かっていれば、次の方法で次元の独立でない同時分布に従う点列が得られる:
(1) | 次元超立方体に一様に分布する点列を生成する。 |
(2) | コピュラの条件付き分布を用いて、周辺分布は一様分布であるもののでは一様に分布しない点列を生成する。 |
(3) | Sklarの定理および周辺分布、から求める同時分布に従う を生成する。 |
*1:日本語では接合関数