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証券投資論(21/21)

 証券投資(現代ポートフォリオ理論)をコンパクトに学ぶべく、比較的最近に発刊され薄めの本である

を参考に学んでいく。

  • 前回:

https://power-of-awareness.com/entry/2022/05/18/050000power-of-awareness.com

9. リアルオプションとその応用

 オプション理論を実物資産への投資評価に適用するリアルオプションを議論する。

9.1 リアルオプションとは何か

 リアルオプションは投資の意思決定がもたらす不確実な将来キャッシュ・フローを予測し、将来キャッシュ・フローの変動に対応した柔軟な意思決定を可能にするアプローチである。
 リアルオプションでは将来のキャッシュ・フローがもつ不確実性を確率過程として表現し、この確率過程の割引現在価値を最大(問題の設定によっては最小)にすることで投資プロジェクトの採否及び投資タイミングを決定する。

9.1.1 従来のオプション評価とリアルオプションの差異
   (1) 従来のオプション理論では金融資産が対象資産でありスポット市場が存在する。これに対してリアルオプションは相対取引で、スポット市場は基本的に存在しない。
   (2) リアルオプションの対象資産は実物投資からの需要量でありキャッシュ・フローである。これには和入り引き率として資本コストを反映した要求リターンを用いる。これに対して従来のオプション理論での対象資産の価格は有価証券等のスポット市場における価格である。ここでは無リスク資産のリターンである。したがってリアルオプションの割引率rは対象資産の平均収益率\muよりも大きい。
   (3) 従来のオプション評価ではオプション価格としての期待割引価値のリターンが無リスク資産のリターンに等しくなるようにリスク中立確率を用いて価値を決定するため、オプションの正味現在価値は0である。一方でリアルオプションでは投資プロジェクトの期待割引価値が最大となる時点で投資プロジェクトを実施し、その価値は正である。

9.2 参入モデルと退出モデル

 収益としてのキャッシュ・フローをリアルオプションの対象資産とし、アメリカン・オプションにおける権利行使する最適タイミングの意思決定を援用して、投資プロジェクトを実施したときに生産される製品市場への参入タイミングを検討するのが参入モデルである。これに対して既に実施しているプロジェクトの生産活動からの製品の需要量が伸び悩みキャッシュ・フローが減少傾向にあり、将来の成長が期待できない場合に、実施プロジェクトにおける生産活動を停止しプロジェクトを退出するモデルを退出モデルという。

9.2.1 参入モデル

 ある投資プロジェクトによるキャッシュ・フローが確率過程と見なすことができ、幾何\mathrm{Brown}運動に従うとする。すなわち投資プロジェクトの時刻t=tにおけるキャッシュ・フロー額とすれば


\begin{aligned}
dX_t=\mu X_t dt+\sigma X_t dW_t,X_0=x
\end{aligned}

である。ここで\mu,\sigmaはそれぞれX_tの期待成長率とボラティリティである。
 参入時刻をt=Tとし、この参入時点におけるコストをK\in\mathbb{R}、割引率をrとすれば、この投資プロジェクトの期待現在価値V(x)


\begin{aligned}
V(x)=\displaystyle{\sup_{T\gt0}E\left[\displaystyle{\int_{T}^{\infty}e^{-ru}X_u du}-e^{-rT}K\left|X_0=x\right.\right]}
\end{aligned}

で得られる。
 このようにキャッシュ・フローの確率的構造が与えられた上でV(x)を最大にする参入のタイミングを求める問題は最適停止問題と呼ばれる。このとき停止時刻は確率変数であるため、最適停止時刻の問題をキャッシュ・フローがとある一定の水準x^{*}に到達したら参入するという問題に変換する。これにより、停止時刻Tを求める問題から適当な閾値x^{*}を求める問題を考えることになる。このとき現時点をt=0としたとき、参入するまでの時間は


\begin{aligned}
dX_t=\mu X_t dt+\sigma X_t dW_t,X_0=x
\end{aligned}

で与えられた確率過程\{X_t\}_{\{t;t\geq0\}}がはじめて閾値x^{*}に到達する時間を求めることに等しい。
 投資プロジェクトの期待現在価値


\begin{aligned}
V(x)=\displaystyle{\sup_{T\gt0}E\left[\displaystyle{\int_{T}^{\infty}e^{-ru}X_u du}-e^{-rT}K\left|X_0=x\right.\right]}
\end{aligned}

を最大にする閾値x^{*}


\begin{aligned}
x^{*}&=\displaystyle{\frac{\beta_1}{\beta_1-1}}(r-\mu)K,\\
\beta_1&=\displaystyle{\frac{1}{2}}-\displaystyle{\frac{\mu}{\sigma^2}}+\sqrt{\displaystyle{\left(\displaystyle{\frac{1}{2}}-\displaystyle{\frac{\mu}{\sigma^2}}\right)^2+\frac{2r}{\sigma^2}}}\gt1
\end{aligned}

で与えられ、このとき


\begin{aligned}
V(x)=\left(\displaystyle{\frac{x^{*}}{r-\mu}}-K\right)\left(\displaystyle{\frac{x}{x^{*}}}\right)^{\beta_1}
\end{aligned}

である。
 参入時刻t=Tの期待値は閾値までの最小到達時間の期待値であるから、このとき


\begin{aligned}
E\left[e^{-rT}|X_0=x\right]=\left(\displaystyle{\frac{x}{x^{*}}}\right)^{\beta_1}
\end{aligned}

であることを踏まえると、


\begin{aligned}
E\left[T|X_0=x\right]=-\displaystyle{\lim_{r\rightarrow\infty}\frac{d E\left[e^{-rT}|X_0=x\right]}{dr}}=\displaystyle{\frac{1}{\mu-\displaystyle{\frac{\sigma^2}{2}}}\log\left(\frac{x}{x^{*}}\right)}
\end{aligned}

である。

9.2.2 退出モデル

 既に参入している市場が飽和から衰退に推移し、企業のキャッシュ・フローが減少し回復が見込まれないとして撤退を検討しているとする。キャッシュ・フローX_tがある閾値x_{*}に到来したら撤退するものと考える。
 撤退時の損益*1Lとして撤退時刻t=T


\begin{aligned}
V(x)&=\displaystyle{\sup_{T\gt0}E\left[\displaystyle{\int_{0}^{T}e^{-ry}X_u du+e^{-rT}L}|X_0=x\right]}\\
&=\displaystyle{\frac{x}{r-\mu}}+\left(L-\displaystyle{\frac{x_{*}}{r-\mu}}\right)\left(\displaystyle{\frac{x}{x_{*}}}\right)^{\beta_2}
\end{aligned}

が成り立つ。
 また撤退するキャッシュ・フロー閾値


\begin{aligned}
x_{*}=\displaystyle{\frac{\beta_2}{\beta_2-1}}(r-\mu)L
\end{aligned}

である。ここで\beta_2=\displaystyle{\frac{1}{2}-\frac{\mu}{\sigma^2}-\sqrt{\left(\displaystyle{\frac{1}{2}}-\displaystyle{\frac{\mu}{\sigma^2}}\right)^2+\displaystyle{\frac{2r}{\sigma^2}}}}である。

9.3 リアルオプションと資金調達

 資金調達を考慮した事業投資の理論的な評価方法としてリアルオプションが用いられる。
 市場の需要水準X_tを観測しながら最適戦略を選択する企業を考える。X_t


\begin{aligned}
dX_t=\mu X_t dt+\sigma X_t dW_t,X_0=x
\end{aligned}

に従うとする。すべてのステークホルダーはリスク中立で、将来のペイオフを割引率r(\gt\mu)で割り引くとする。

9.3.1 普通社債の発行

 簡単のため債券は永久債だとする。瞬間的なクーポン支払額をsとすると、株主は利益フロー(1-\tau)(Q X_t-s)を受け取るとする。ただしQ\gt0X_tに対する利益率、\tau法人税率である。
 負債の発行により、株主は需要水準X_tにより企業を倒産させるインセンティブを持つ。株主の最適投資政策は、株式価値を最大化するために最適な倒産時刻を選択することである。T_dを倒産時刻、現在の需要水準をX_0=xとすると、クーポン支払s普通社債で資金調達する企業の株式価値E(x,s)


\begin{aligned}
E(x,s)=\displaystyle{\sup_{T_d\gt0}E\left[\displaystyle{\int_{0}^{T_d}e^{-ru}(1-\tau)(Q X_u-s)}du\right]}
\end{aligned}

で定式化できる。これは倒産まで株主はクーポン支払後の課税控除された利益を受け取ることができ、倒産では株式価値が0、砂w地株主は価値を受け取ることができないことを意味する。
 任意のクーポン支払sに対して、最適な倒産時刻T_d^{*}(s)


\begin{aligned}
T_d^{*}(s)=\displaystyle{\inf\{T_d\gt0|X_{T_d}\leq x_d(s)\}}
\end{aligned}

で与えられる。ただしx_d(s)は任意のクーポン支払sに対する倒産の閾値である。
 \mathrm{Bellman}方程式よりE(x,s)x\gt x_d(s)に対して常微分方程式


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{1}{2}\sigma^2x^2\frac{d^2 E}{dx^2}+\mu x\frac{dE}{dx}}-rE+(1-\tau)(Qx-s)=0
\end{aligned}

を満たす。この方程式の一般解は


\begin{aligned}
E(x,s)=a_1x^{\beta_1}+a_2x^{\beta_2}+(1-\tau)\left(\displaystyle{\frac{Qx}{r-\mu}}-\displaystyle{\frac{s}{r}}\right)
\end{aligned}

である。ここで\displaystyle{\lim_{x\rightarrow\infty}E(x,s)}=\inftyであるから、a_1=0となり


\begin{aligned}
E(x,s)=a_2x^{\beta_2}+(1-\tau)\left(\displaystyle{\frac{Qx}{r-\mu}}-\displaystyle{\frac{s}{r}}\right)
\end{aligned}

を得る。倒産の閾値x_d(s)において株式価値が0となることを示すバリュー・マッチング条件


\begin{aligned}
E(x_d(s),s)=0
\end{aligned}

を用いることで、x\gt x_d(s)に対する株式価値はE(x,s)


\begin{aligned}
E(x,s)=\varepsilon(x)-\displaystyle{\frac{(1-\tau)s}{r}}-\left\{\varepsilon(x_d(s) )-\displaystyle{\frac{(1-\tau)s}{r}}\right\}\left(\displaystyle{\frac{x}{x_d(s)}}\right)^{\beta_2}
\end{aligned}

で与えられる。ただし\varepsilon(x)


\begin{aligned}
\varepsilon(x)=\displaystyle{\frac{1-\tau}{r-\mu}}Qx
\end{aligned}
である。倒産の閾値x_d(s)の最適性を保証するスムース・ペースティング条件

\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{\partial E}{\partial x}}(x_d(s),s)=0
\end{aligned}

であるから、


\begin{aligned}
x_d(s)=\displaystyle{\frac{r-\mu}{Q}\frac{\beta_2}{\beta_2-1}\frac{s}{r}}
\end{aligned}

を得る。
 次に普通社債の価値D_s(x,s)を考えると、


\begin{aligned}
D_s(x,s)=\displaystyle{E\left[\displaystyle{\int_{0}^{T_d^{*}(s)}e^{-ru}s du+e^{-rT_d^{*}(s)}(1-\theta)\varepsilon\left(X_{T_d^{*}(s)}\right)}|X_0=x\right]}
\end{aligned}

で定式化される。ここで\theta\in[0,1]は倒産において必要な費用の割合であり、債券保有者は倒産において(1-\theta)\varepsilon(x)を受け取ることができる。\mathrm{Bellman}方程式より、倒産の閾値x_d(s)において債券価値が企業の残存価値と等しくなることを示すバリュー・マッチング条件


\begin{aligned}
D_s(x_d(s),s)=(1-\theta)\displaystyle{\frac{1-\tau}{r-\mu}}Qx_d(s)
\end{aligned}

を用いることでx\gt x_d(s)に対する債券価値D_s(x,s)


\begin{aligned}
D_s(x,s)=\displaystyle{\frac{s}{r}}+\left( (1-\theta)\varepsilon(x_d(s) )-\displaystyle{\frac{s}{r}}\right)\left(\displaystyle{\frac{x}{x_d(s)}} \right)^{\beta_2}
\end{aligned}

で与えられる。x\gt x_d(s)に対する企業価値V_s(x,s)は株式価値E(x,s)および債券価値D_s(x,s)の和として


\begin{aligned}
V_s(x,s)=&E(x,s)+D_s(x,s)\\
=&\varepsilon(x)-\displaystyle{\frac{(1-\tau)s}{r}}-\left\{\varepsilon(x_d(s) )-\displaystyle{\frac{(1-\tau)s}{r}}\right\}\left(\displaystyle{\frac{x}{x_d(s)}}\right)^{\beta_2}\\
&+\displaystyle{\frac{s}{r}}+\left\{(1-\theta)\varepsilon(x_d(s) )-\displaystyle{\frac{s}{r}}\right\}\left(\displaystyle{\frac{x}{x_d(s)}} \right)^{\beta_2}
\end{aligned}

である。

9.3.2 転換社債の発行

 償還条項が付与されていない転換社債によって資金調達する企業を考える。負債の発行により最適倒産政策が構築される。一方で転換社債保有者は自身が保有する転換社債を最適政策の下で株式へ転換する。
 株式の最適倒産政策は需要水準X_tが小さくなったとき、株式価値を最大化するために最適な倒産時刻を選択することである。一方で転換社債保有者は需要水準X_tが大きくなった時、転換社債の価値を最大にするように転換社債を株式へ転換する。この最適化問題を同時に解かなければならない。
 転換社債保有者が株式へ転換する際、元の株式の割合\etaを受け取ることができるものとする。
 まず株式と転換社債の価値を考える。T_d,T_cを倒産およい転換の時刻、x_d(c),x_c(c)を倒産および転換の閾値とする。クーポン支払c転換社債で資金調達する企業の株式価値E(x,c)転換社債の価値D_c(x,c)


\begin{aligned}
E(x,c)=&\displaystyle{\sup_{T_d\gt0}}E\left[\displaystyle{\int_{0}^{T_c^{*}(c)\land T_d}e^{-ru}(1-\tau)(QX_u-c)du}\right.\\
&+\left.\boldsymbol{1}_{\{T_c^{*}(c)\lt T_d\}}\displaystyle{\frac{1}{1+\eta}\int_{T_c^{*}(c)}^{\infty}e^{-ru}(1-\tau)QX_udu}|X_0=x\right],\\
D_c(x,c)=&\displaystyle{\sup_{T_c\gt0}}E\left[\displaystyle{\int_{0}^{T_c\land T_d^{*}(c)}e^{-ru}cdu}+\boldsymbol{1}_{\{T_d^{*}(c)\lt T_c\}}e^{-rT_d^{*}(c)}(1-\theta)\varepsilon(X_{T_d^{*}(c)})\right.\\
&+\left.\boldsymbol{1}_{\{T_c\lt T_d^{*}(c)\}}\displaystyle{\frac{\eta}{1+\eta}\int_{T_c}^{\infty}e^{-ru}(1-\tau)QX_u du}|X_0=x\right]
\end{aligned}

により定式化される。前者の式は株主は転換若しくは倒産までクーポン支払後の利益を受け取ることができ、転換によりクーポンの支払はなくなり、株式価値に希薄化が起こることを意味する。後者の式は転換社債保有者は転換若しくは倒産までクーポン支払を受け取ることができ、倒産において企業の残存価値を受け取ることができ、転換においては元の株式の割合\etaを受け取ることができることを意味する。
 最適な倒産時刻および転換時刻は


\begin{aligned}
T_d^{*}(c)=\inf\{T_d\gt0|X_{T_d}\leq x_d(c)\},\\
T_c^{*}(c)=\inf\{T_c\gt0|X_{T_c}\geq x_c(c)\}
\end{aligned}

で与えられる。
 \mathrm{Bellman}方程式より倒産の閾値x_d(c)において株式価値が0となり、転換社債の価値が企業の残存価値と等しくなることを示すバリュー・マッチング条件


\begin{aligned}
E(x_d(c),c)&=0,\\
D_c(x_d(c),c)&=(1-\theta)\displaystyle{\frac{1-\tau}{r-\mu}}Qx_d(c)
\end{aligned}

と転換の閾値x_c(c)において株式価値が希薄化後の価値と等しくなり、転換社債の価値が転換後の株式価値の割合\displaystyle{\frac{\eta}{1+\eta}}と等しくなるバリュー・マッチング条件


\begin{aligned}
E(x_c(c),c)&=\displaystyle{\frac{1}{1+\eta}\frac{1-\tau}{r-\mu}}Qx_c(c),\\
D_c(x_c(c),c)&=\displaystyle{\frac{\eta}{1+\eta}\frac{1-\tau}{r-\mu}}Qx_c(c)
\end{aligned}

を用いることで、株式価値E(x,c)および転換社債価値D_c(x,c)


\begin{aligned}
E(x,c)=&(1-\tau)\left(\displaystyle{\frac{Qx}{r-\mu}-\frac{c}{r}}\right)-(1-\tau)\left(\displaystyle{\frac{Qx_d(x)}{r-\mu}-\frac{c}{r}}\right)p_d(x;x_d(c),x_c(c) )\\
&-(1-\tau)\left(\displaystyle{\frac{\eta}{1+\eta}\frac{Qx_c(c)}{r-\mu}-\frac{c}{r}}\right)p_c(x;x_d(x),x_c(c) ),\\
D_c(x,c)=&\displaystyle{\frac{c}{r}}+\left( (1-\theta)\displaystyle{\frac{1-\tau}{r-\mu}Qx_d(x)-\frac{c}{r}}\right)p_d(x;x_d(c),x_c(c) )\\
&+\left(\displaystyle{\frac{\eta}{1+\eta}\frac{1-\tau}{r-\mu}Qx_c(c)-\frac{c}{r}}\right)p_c(x;x_d(c),x_c(c) )
\end{aligned}

で与えられる。ここで


\begin{aligned}
p_d(x;x_d(c),x_c(c) )&=\displaystyle{\frac{x_c(c)^{\beta_1}x^{\beta_2}-x_c(c)^{\beta_2}x^{\beta_1}}{x_c(c)^{\beta_1}x_d(c)^{\beta_2}-x_c(c)^{\beta_2}x_d(c)^{\beta_1}}},\\
p_c(x;x_d(c),x_c(c) )&=\displaystyle{\frac{x^{\beta_1}x_d(c)^{\beta_2}-x^{\beta_2}x^{\beta_1}}{x_c(c)^{\beta_1}x_d(c)^{\beta_2}-x_c(c)^{\beta_2}x_d(c)^{\beta_1}}}
\end{aligned}

である。倒産の閾値x_d(c)と転換の閾値x_c(c)の最適性を保証するスムース・ペースティング条件


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{\partial E}{\partial x}}(x_d(c),c)&=0,\\
\displaystyle{\frac{\partial D_c}{\partial x}}(x_c(c),c)&=\displaystyle{\frac{\eta}{1+\eta}\frac{1-\tau}{r-\mu}}Q
\end{aligned}

を用いて、非線形連立方程式を解くことでx_d(c),x_c(c)を得ることをできる。またx_d(c)\lt x\lt x_c(c)に対する企業価値V_c(x,c)


\begin{aligned}
V_c(x,c)&=E(x,c)+D_c(x,c)\\
=&\varepsilon(x)+\displaystyle{\frac{\tau c}{r}}(1-p_d(x;x_d(c),x_c(c) )-p_c(x:x_d(c),x_c(c) ) )\\
&-\theta\varepsilon(x_d(c) )p_d(x;x_d(c),x_c(c) )
\end{aligned}

で与えられる。

9.3.3 投資プロジェクトの価値と最適資本構成
  • 株式のみで資金調達する企業の最適投資戦略

 企業の株主は投資において初期投資価格Iを支払い、瞬間的な利益(1-\tau)QX_tを受け取ることができるものとする。最適な投資ルールはX_tが等式の閾値x^{*}に到達する最小到達時刻にて投資オプションを行使することである。t=Tを投資時刻とすると投資オプションの価値F_a(x)


\begin{aligned}
F_a(x)=\displaystyle{\sup_{T\gt0}E\left[\displaystyle{\int_{T}^{\infty}e^{-ru}(1-\tau)QX_u du-r^{-rT}I}|X_0=x\right]}
\end{aligned}

と定式化できる。その時の最適な投資時刻T^{*}


\begin{aligned}
T^{*}=\inf\{T\gt0|X_T\geq x^{*}\}
\end{aligned}

で与えられる。\mathrm{Bellman}方程式より得られる投資の閾値x^{*}におけるバリュー・ペースティング条件とスムース・ペースティング条件


\begin{aligned}
F_a(x^{*})&=\displaystyle{\frac{1-\tau}{r-\mu}}Qx^{*}-I,\\
\displaystyle{\frac{dF_a(x^{*})}{dx}}(x^{*})&=\displaystyle{\frac{1-\tau}{r-\mu}}Q
\end{aligned}

により、x\gt x^{*}に対する投資オプションの価値F_a(x)と投資の閾値x^{*}


\begin{aligned}
F_a(x)&=(\varepsilon(x^{*})-I)\left(\displaystyle{\frac{x}{x^{*}}}\right)^{\beta_1},\\
x^{*}&=\displaystyle{\frac{1}{1-\tau}\frac{\beta_1}{\beta_1-1}\frac{r-\mu}{Q}}I
\end{aligned}

で与えられる。

 株式と普通社債を発行し資金調達することで投資をする企業を考える。企業価値を最大にするような最適なクーポン支払を求める最適資本構成、すなわち普通社債の最適なクーポン支払s


\begin{aligned}
V_s(x,s)=&\varepsilon(x)-\displaystyle{\frac{(1-\tau)s}{r}}-\left\{\varepsilon(x_d(s) )-\displaystyle{\frac{(1-\tau)s}{r}}\right\}\left(\displaystyle{\frac{x}{x_d(s)}}\right)^{\beta_2}\\
&+\displaystyle{\frac{s}{r}}+\left\{(1-\theta)\varepsilon(x_d(s) )-\displaystyle{\frac{s}{r}}\right\}\left(\displaystyle{\frac{x}{x_d(s)}} \right)^{\beta_2}
\end{aligned}

で与えられる企業価値を投資時刻で最大化することで決定される。投資の一部を普通社債を発行することで資金調達する企業の株主の投資オプションの価値F_s(x)


\begin{aligned}
F_s(x)&=\displaystyle{\sup_{T\gt0,s\geq0}E\left[e^{-rT}\left(E(X_T,s)0\{I-D_s(X_T,s)\}\right)|X_0=x\right]}\\
&=\displaystyle{\sup_{T\gt0,s\geq0}E\left[e^{-rT}(V_s(X_T,s)-I)|X_0=x\right]}
\end{aligned}

で定式化される。このとき任意のxに対する最適なクーポン支払s^{*}(x)


\begin{aligned}
s^{*}(x)=\displaystyle{\mathrm{arg}\max_{s\gt0}V_s(x,s)}=\displaystyle{\frac{r}{r-\mu}\frac{\beta_2-1}{\beta_2}\frac{Qx}{h}}\gt0
\end{aligned}

となる、ただし


\begin{aligned}
h=\left(\{1-\beta_2\left(1-\theta+\displaystyle{\frac{\theta}{\tau}}\right)\right\}^{\frac{1}{\beta_2}}
\end{aligned}

で定義する。投資の閾値におけるバリュー・マッチング条件およびスムース・ペースティング条件


\begin{aligned}
F_s(x^{*})&=V_s(x^{*},s^{*}(x^{*}) )-I,\\
\displaystyle{\frac{d F_s}{dx}}(x^{*})&=\displaystyle{\frac{\partial V_s}{\partial x}}(x^{*},s^{*}(x^{*}) )
\end{aligned}

より、x\lt x^{*}に対する投資オプションの価値F_s(x)と投資の閾値x^{*}


\begin{aligned}
F_s(x)&=\left(V_s(x^{*},s^{*}(x^{*}) )-I\right)\left(\displaystyle{\frac{x}{x^{*}}}\right)^{\beta_1},\\
x^{*}&=\displaystyle{\frac{\psi}{1-\tau}\frac{\beta_1}{\beta_1-1}\frac{r-\mu}{Q}}I
\end{aligned}

を得る。ここで


\begin{aligned}
\psi=\left(1+\displaystyle{\frac{\tau}{(1-\tau)h}}\right)^{-1}\lt1
\end{aligned}

である。

 転換社債で資金調達する場合を考える。普通社債の場合と同様に、最適資本構成は


\begin{aligned}
V_c(x,c)&=E(x,c)+D_c(x,c)\\
=&\varepsilon(x)+\displaystyle{\frac{\tau c}{r}}(1-p_d(x;x_d(c),x_c(c) )-p_c(x:x_d(c),x_c(c) ) )\\
&-\theta\varepsilon(x_d(c) )p_d(x;x_d(c),x_c(c) )
\end{aligned}

で与えられる企業価値を投資時刻で最大化することで決定される。
 転換社債によって資金調達する企業の株主の投資オプションの価値F_c(x)


\begin{aligned}
F_c(x)=\displaystyle{\sup_{T\gt0,c\geq0}E\left[e^{-rT}(V_c(X_T,c)-I)|X_0=x\right]}
\end{aligned}

で定式化される。このとき任意のx\in\mathbb{R}に対する最適なクーポン支払c^{*}(x)


\begin{aligned}
c^{*}(x)=\displaystyle{\mathrm{arg}\max_{c\gt0}V_c(x,c)}
\end{aligned}
である。投資の閾値におけるバリュー・マッチング条件

\begin{aligned}
F_c(x^{*})=V_c(x^{*},c^{*}(x^{*}) )-I
\end{aligned}

より、投資オプションの価値は


\begin{aligned}
F_c(x)=\left(V_c(x^{*},c^{*}(x^{*}) )-I\right)\left(\displaystyle{\frac{x}{x^{*}}}\right)^{\beta_1}
\end{aligned}

となる。また投資の閾値におけるスムース・ベースティング条件


\begin{aligned}
\displaystyle{\frac{d F_c}{dx}}(x^{*})=\displaystyle{\frac{\partial V_c}{\partial x}}(x^{*},c^{*}(x^{*}) )
\end{aligned}

から導かれる非線形方程式を解くことで、転換社債で式調達した場合の投資の閾値x^{*}を得ることができる。

*1:設備の処分価格や撤退コストによる得られる。

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